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暗すぎて、食卓が無言。

晩御飯は必ず、家族4人で食べる。
テレビを観ながら食べるから、あんまり
会話はない。

夫は、テレビを観ながらごはんを食べたい人
なのだ。
母子2人での暮らしが長かったから、ごはんも1人でテレビを観ながら食べることが普通の
ことだったのだろう。

ごはんを食べながら何を観るか、は夫が
決める。
子供の観たいものに耳を貸してくれないのは
わかっているので、子供たちも何も言わずに
お父さんの決めた番組を観る。

今まで観てきたものは
・仮面ライダー
・機動戦士ガンダム
・未来少年コナン
・天才バカボン
・あしたのジョー
・キャプテンハーロック
などだ。

全て、51歳の夫が子供のころに放映されていたときのやつなので、昔の、初期のやつを
いろんなサブスクを使って、観る。

ある日、あまりドラマを観ない夫が、

「おしんを、全話みるぞ」

と宣言した。どうしたんだろう。
今までと毛色が違うが。
私たちに、えー、とか嫌だー、とか言う余地はない。

次の日から、晩御飯はおしんを見ながら、
食べることになった。

おしん
『おしん』は、1983年(昭和58年)4月4日から1984年(昭和59年)3月31日まで放送されていたNHK連続テレビ小説である。

Wikipediaより

今の朝ドラと何が違うか、これでお分かりか。
この時代、ひとつの朝ドラは1年続いた
のである。
今の朝ドラは、6ヶ月で終了する。

私たちは、一日に2話ずつ観ることにした。
それでも、半年近くかかるということだ。

おしん、というのは主人公の女性の名前だ。
最初に、お婆さんになったおしんが出て
きて、自分の孫に、今までの自分の半生を
振り返って話す、と言う形の回顧録形式の
ドラマになっている。

おしんを一言で表すと
「苦労した女の人生」
だ。とにかく苦労のオンパレード、人間が
「つらい」「かなしい」
と思うことが全て詰め込まれている。
もちろん「しあわせ」もあるが。

朝ドラは、ほとんどの人が仕事に行く前に朝、
見るものだから、気持ちがどよん、としない
よう、つらい内容があまり何日も続かないようになっているはずだ、今は。

しかし、おしんは違う。
つらくて長く、いつ終わるかわからない暗い
トンネル状態が一週間以上続くときもある。

つらいのはおしんだけではなく、ほかの
登場人物も、みんなそれぞれにつらいのだ。

本当に、当時の人はこれを朝観て、仕事に
行っていたのか。
精神力つよすぎるやないか。

つらい回が続くと、こちらもさすがに
疲弊してくる。早く幸せになってくれ。
田中裕子の笑顔が見たいよ。

暗すぎて、食卓が無言だ。
泣きながら食べるときだってある。
子供たち、ほんまごめんな。
食事は、楽しい時間でなくっちゃ、って
お母さんはいつも思ってるよ。

「疲れて帰ってきて、なんでこんなつらい話を
わざわざ観なあかんのや。もうずっとつらい
やないか!くそ!橋田壽賀子!鬼!」

と、たまに夫はその怒りを、脚本家である
橋田壽賀子にぶつけた。
おまえが観るって言ったんだろ。

しかし、一旦観ると決めたのだ。
ここでやめたくない。
3分の2くらい見終わったあたりから、
みんなちょっと意地になってきた。

子供たちはまだ中学生と、小学校高学年
くらいだったから、わからない心模様も
あったと思う。
でも毎日、おしんと喜怒哀楽をともにした。

半年かけて、最終回を見終わったとき、
家族4人全員で、自然と拍手が起きた。

おしんがおばあさんになるまで頑張ったことと、私達が途中で挫折せずに、最後まで
見終わった、という称賛の拍手だ。

「おしんを全部観た、という人生だったことを
忘れるな」

と夫が言った。

少し経ってこうして思い返してみると、
なぜ、おしんが日本中ならず世界中で
愛されたドラマなのかがわかる。

登場人物ひとりひとりの心の機微が
とても丁寧に描かれていて、おそらく誰もが、
そこに登場する誰かのことを、

「これは私だ」

と思いながら、観ていたのではないか。
それほど、当時の人たちの生の人生が
つらいものだった、という事だ。

それにしても、このドラマが世界中の人に
共感された、という事がすごい。 
所変われど、人間のもつ感情や心の機微は
共通しているってコトが、これによって
証明されたのでは。

今日調べていて、
おしんは、脚本家の橋田壽賀子が、
実在する静岡県出身の、ひとりの女性の半生を知り、脚本に仕立てたものだと知った。

しかし、橋田壽賀子はつぎのように言って
いたようだ。

「ヒントはいただいたが、モデルはいない。
いるとすれば、それは苦難の時代を生き抜いて
きた全ての日本人女性です」

Wikipediaより

おしん、いいドラマですのでぜひ。
でも長いですよ。

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