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おじさんの研究は続く

先日、boy(息子)から、

「お父さんのどこがすきなん」

と質問された。子供から見て、夫はお父さん、というより、困ったおじさん、という感じ
なので、ほんとうにどうして結婚など、
と疑問に思ったのだろう。

もう彼も小学生ではないし、こちらもしっかり
答えねば。あー、、、うー。

「まあ、、おもしろいところかな、FUN、
という意味ではなく。」

と答えると、

「研究対象としておもしろいってことか。」

と言われたので、なるほど、と思う。
さすが、boyはもう子供ではないのだな。
しかし、研究対象か。複雑な心境だ。


私が19歳の時、夫に出会った。夫は25歳
だった。6つも違うのに、同じ大学内で勉強
していた。学部も学年も違うし、
友達でもなんでもなかった。

ただ、私を学校内で見かけた夫が、なぜか
私を気に入って、アタック(!)してきたのだ。
私は特別美人でも、可愛い顔でもないし、
目立ちもしない、普通の田舎娘だった。

そんな私をなぜ。夫が変わっているのだ。

ある日、偶然を装って待ち伏せしていた夫に、
映画に行きませんか、と誘われた。
学部や学年が違っても、だいたいの生徒の顔を
お互いに知っているほどの小さい学校だった。

顔、知ってるひとだ。大きいから目立つし。
でも。

全然タイプじゃない。顔面が。
映画かー。どうしよう。。

と思ったが、特にほかに断る理由もないので、
あー、、はい。と言った。

当日、2人だと思っていたのに、夫は自分の
友達を5人も連れてきた。どうかしている。

結局7人で、黒澤明の「七人の侍」を観た。
もしかして七人に合わせたかったのか。
シロクロだったことを覚えている。

それから何回か、そのメンバーでご飯を
食べたりした。
好意を寄せられている、というのはわかって
いて、たぶん近いうち付き合って下さいって
言われそうだな、と思っていた。
悪い人では無さそう。だけど、

とにかく、顔面が、全然タイプではない。

ある日、夫から、

「これ。俺がすきな曲だから聞いてみて。」

と、汚いカセットテープを渡された。
テープには
「高田渡」
と乱暴な字で書いてあった。
あまり気乗りしなかったが、まあ感想も
言わないといけないし、と思い、聞いてみた。

先に言っておくが、今は、高田渡の素晴らしさ
はよく分かっている。素晴らしい歌手だ。
曲も素晴らしい。だけど19歳の私には
早すぎた。

曲の内容は

浮浪者のうた
値上げのうた
貧乏な夫婦のうた
銭がない人のうた
貧しい鉱夫のうた
ミミズのうた
しらみのうた

ざっくり、こんな感じだった。

ミミズのうたは、自分をミミズにまで卑下した男の歌だった。みじめな悲しいきもちに
なった。
しらみのうたは、しらみの気持ちを歌った歌で、こちらはちょっとポップな曲調ではあったが、やはりなんだか悲しいきもちになった。

困惑した。
どういうこと、と思い、怖くなった。
19歳の女の子が、こういった場合、
期待するのは、
愛や恋や好きや青春、または励ましソング、
みたいなやつです。
みじめなきもちにさせてどうするのだ。

顔面がすきではない相手に、
困惑する音楽を聴かされて、恋愛に発展する
可能性は何%か。はい。
限りなく1%に近い0%だ。

もし付き合って下さい、が来たら、やんわりと
お断りしよう、と心に決めた。

わりと近いうちに、その日は訪れた。
いつも通り、集団でご飯を食べたあとに夫に
車で送ってもらい、家に着いた時だった。

予定通り、やんわりとお断りの返事をした。
しかし、わかった、と言ってくれない。
諦めてくれない。

付き合って、無理です、お願いします、いや
できないです、のやりとりを続け、どれくらい
経っただろう。もう明け方が近づいていた。

私はとにかく眠かった。
もうこの堂々巡りを終わらせたい。
とにかく付き合ってみて、だめだったら
別れてもいいから、という夫の提案に
根負けし、OKした。

すきになれなかったら、そのときは別れたら
いいや。とにかく眠いのでさようなら。
と言って車を降りた。


それから27年が経つ。
今年、結婚20周年だ。

夫は予言していたのだろうか。
私達は、高田渡の曲を地で行っている。

何度も別れるタイミングはあったのに、
いまだに一緒にいるのはなんでだろう。
なんでだろーうなんでだろう、と
テツandトモが、頭の中で踊っている。

しかし、私にはnoteという場所が出来たので、
これからもこちらで研究発表を
させていただく。

誰もその研究に、興味がなかったとしても。














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