短編小説「くるま」
はあい俺のくるま盗んだやーつ。呼びかけに応じて指示に従い、くるまを私に返しなさい。そうだ。俺がひと月前に免許を取得し姉と兼用で運転を許された中古の軽自動車だ。動詞盗むが意味するところ重要な点であるこっそりと、誰にもバレないように行う気概は君から一切感じられなかった。持ち主であるわたしの意識が判然とした目の前で大胆かつ飄々と君は窃盗をした。抵抗する間なんてなかった。思い返すとなんだか、笑けてくるよ。持ち主は俺ではなく姉には申し訳ないが、この際くるまが戻ってこなくても君を許す。ひ