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おいしいごはんが食べられますように 

おいしいごはんが食べられますように 
著 高瀬隼子
芥川賞を受賞された、話題作。
ポップな装画とは反して、なかなかブラックな作品である。

食への意欲が無に等しく、『食事が面倒』という考えのサラリーマン・二谷と、それを取り巻く人物の物語だ。

みなさんは、食べることは好きですか?
私はめちゃくちゃ好きです。
まず、食への興味を無くしてしまったら、人生の楽しさ半減はする。
そして、ど田舎住みのため、遊ぶ=食べるという考え。お酒が弱い、スポーツ苦手、と言ったら食べることしかやることないでしょう。強いて言うならカラオケ、映画くらい。

次の休日は、お気に入りのカフェでランチしよう。
お給料入ったら、ハーゲンダッツ買っちゃおう。
友達の誕生日に、フレンチ予約しよう。
あらゆる楽しみは、食にまつわるものが多い。

しかし、世の中には食に恵まれている環境でも、食事なんて面倒だ、なんでもいいだろという思考回路の人がいるらしい。
二谷もその1人だ。
彼は、一日三食何を食べるか考えることすら億劫らしい。
仕事終わりに、スーパーかコンビニに寄って夕飯を探す日々。面倒くさい、でもお腹は空く、と苛つきながら。

重症だ、と心配する反面、気持ちがわからなくもない。
お米を炊く時間があれば、レンジでチンする冷凍うどんにめんつゆとごま油をかけて食べたいときもある。
さらに面倒なときはスーパーで安いカップ麺を購入するときもある。
一人暮らしで学んだことは、うどん、ヨーグルト、バナナは有能だということ。
納豆は安くて美味しいのだが、パックを洗うことすら面倒になったため、しばらくお休みしている。
(納豆のパックって、洗うよね?以前、友人と洗うか否か口論になった)

しかし二谷の面白いところは、そんなに食事への熱が冷え切っているのに、同じ社内の彼女・芦川や、職場の後輩・押尾を良さげな飲食店へと連れて行く点。
特に、押尾と行くおでん屋さんの食事に心惹かれた。
トマトやほろほろの牛すじ、薄い黄金色のだし、、、。
本作品の魅力のひとつに、食べ物の描写がそそられる、という点がある。
本作品を一気に読み終えたのは、そんな理由もあるのかも。

咀嚼することすら面倒くさい、と思う二谷と、丁寧に料理をし、食べ物に感謝して食事をする芦川。
2人のデートシーンでの、ある会話は、生きることへの核心をついている。

二谷『『芦川さんは)食べるのが好きなんですね』
芦川『どうなんでしょう。よりきちんと生きるのが、好きなのかもしれないです。
食べるとか寝るとか、生きるのに必須のことって、好き嫌いの外にあるように思うから

食事は人生の一部だから、ないがしろにできない芦川。
ないがしろにできないから、丁寧に料理をする、食事をする。

(ここからネタバレ含みます)

二谷はいわゆる『世渡り上手』なタイプである。
そして、本心を飲み込み、嘘を平気でつける人。
だからこそ、ラストは衝撃的であったが、そうなるしかないとも思ったし、彼の生き方なのだと思った。

一日三食食事を摂ること。
正直、三食って多いと思う。
今やオートファジーなんか流行ってるし、3回もしっかり食事を摂るなんて手間がかかる。
しかし、それでも一日三食が推奨されているのは、昔の人間が行き着いた理想のライフスタイルであって、人間に必要だからなのだと考える。

二谷は、芦川と幸せになって、食事の素晴らしさを噛み締める日がくるのだろうか。
しかし、人間にとって必要な『食』。
二谷には、工夫すればもっと人生楽しくなるから、芦川さんのこと離しちゃだめだよ、と言いたい。

私がお付き合いしている彼は、食べることが好き。
その上、料理が大の得意。
ほぼ毎日自炊をし、弁当まで作っている!
なんでそんな頑張るの?と聞いたところ、
『食べることが好きだから、好きなものを作って食べたい』
とのこと。
彼の魅力のひとつなのだと思う。

世の男性諸君。
いっぱい食べて、おいしさを分かち合える人の方かっこいいよー。
いつか二谷が、おいしい!を心の底から叫ぶ日が訪れますように。

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