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緑のふるさと協力隊を経験して~Voice1

人間関係の広がりとともに変わったこと

生まれ育った場所での生活は、共に暮らしてきた家族や、家族以上に同じ時間を過ごしてきた友人、そして同じ職場の人たちや趣味のキャンプ仲間たちで成り立ってきた。たまに新たな出会いはあるけれどいつもの慣れ親しんだ人々との生活は、とても楽しく居心地がよくて、ここでの生活が変わることに不安さえ感じていた。

そんな私が派遣先で過ごした1年間の人間関係の広がりとともに自分自身の変化についてここに記しておきたい。

派遣先での生活環境において最も違うことといえば、私のことを知っている人、私が知っている人が誰一人としていないということだった。ところが着いて2日目にして町の主要人物にはほとんど会ってしまった。

そして活動の中心でもある農作業を行いながら、着々と自治区内行事や山開きなどのイベントにも参加した。ほとんど休まないまま、とにかく色んなところに顔を出して自己紹介を繰り返し、農作業も頑張りながら農家さんとお話しする日々が続いた。そのような忙しい春を過ごすうちに、運転していると少しずつその人が乗っている車や、顔見知りの人とすれ違うとその人が分かるようになってきた。

次第に車ですれ違うたびに手を振ったり、会釈したりするようになるかと思えば、家を一歩出れば、自転車に乗ったご近所の中学生に挨拶したり、お世話になっているおじいさんが野菜を持ってうちに来たりと、わたしを取り巻く環境も賑やかになってきた。

休日もご近所さん宅に遊びに行きお茶をしたり、子どもたちと遊んだり、お散歩に行ったりすることが楽しみになった。

田舎には若い人は少ないはずだと思っていたが、私の派遣先では30~40代の方々も多く、その中でも、まちづくり団体を運営している若い人たちと過ごした日々はどれも刺激的だった。

屋外に巨大スクリーンを設置し、車内から映画鑑賞ができるというドライブインシアターのイベント、廃校となった小学校を活用した事業などに参加した。イベントでは準備から運営まで一緒に参加し、イベントを企画運営するまでの体力や段取り、成し遂げた後には達成感以上に感無量というような気持ちを抱いたのも初めてだった。

気付けば私の周りには活動で関わる農家さん、ご近所さんやお友達、まちづくりを真剣に考える若い人たちというように交流関係はぐんぐんと広がっていた。

でも、当然町には様々な価値観を持っている人たちがいる。活動以外にも、いろいろな会議にも出席したが、都会から来た若い子の考えとして、自分の意見が注目されている感じて、ちょっと嫌になることもあった。それでも本音で自分の考えを伝えていた。

たくさんの人と関わる中で、複雑な気持ちになることも多かった。これまで過ごしてきた地元との違い、地域の人との間で板挟みになること、自分の立場を理解してもらう難しさなど、様々だった。

そのたびにモヤモヤした感情を抱えてきたが、不思議と冬の時期になってからは何かを境にして次第にモヤモヤは減っていった。

その理由のひとつに、冬の時期で町の人たちの仕事も一段落して人と会う機会がこれまでに比べて減ってきたからだと思った。人との気持ちの距離が物理的に少し離れるだけでこんなに変わるんだということも初めて分かった。この時期、あまり濃い関わりをする機会は減ったものの、私が厳しい冬を初めて体験するということで、色んな人からの心配の声を掛けてもらったことがエッセンス的に加えられたことで、その距離感がとても心地良いと感じられるくらいに心の余裕を取り戻していた。

そんな思わぬ心の休閑期を迎えたことで、誰かの話を聞きながら、この人は何を大事にしているのかということを中心にゆっくり話を聞くことが出来るようになった。

誰も知っている人がいない土地に来て、人間関係が脈々と広がり、今では自分の中で少し変わったところも見つめなおすことが出来るようになった。

11月に一度、友人が遊びに来てくた。到着するやいなや、四方が山々に囲まれた環境、心地よい風や静かな雰囲気、昔ながらの家の形や面白い農家さんと珍しい野菜に郷土料理。すべてに心動かされたようで、「人生大正解だよ!」と大興奮だったことがとても面白かったのを思い出した。

自信は経験量に比例するのだとずっと思ってきたが、他者からの肯定的なフィードバックによってもより強固になるのだなと感じた。派遣先に来て、今の自分の暮らしにも大きく自信が持てた瞬間だった。

私自身もこの1年間は自然の豊かさと人付き合いにはずっと心地よさを感じていた。どれだけ体力的にきつい農作業でもたまに吹く風が涼しく、ふと見上げた先に広がる山々に癒され、作業後の夕焼けは明日の励みとなったように、とにかくこの町の自然には感謝した。

日々の農作業では沢山のことに挑戦して、失敗したり、上手くできなかったりと、そういうことがあっても「大丈夫、できる人がやればいいから」、「だれの責任とかじゃないから」と温かいフォローと励ましのおかげで、伸び伸びと作業をすることができた。都会にいるときとは違い、自分のキャパシティ以上の成長を常に求められるような切迫感をまったくと言っていいほど感じなかった。

おかげさまで、ここに来てから『うん、まぁいっか』という口癖が増えてきたような気がしてならない。

少なからず、出来ない自分を否定せずにこういう時もあるよねと許せるようになってきたのも大きな変化の一つだと思う。そしてまたその人のために、その仕事のためにと自然と努力できるのも、派遣先で出会った皆さんの人柄から得たパワーだったと感じている。

自分自身の変化はすべて町の人との関わりの中で育まれたものだった。ここに記したエピソードや経験、学びはほんの一部に過ぎないが、何年経っても忘れたくない感覚だった。

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