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コラボ 【花が舞う】

初ざくら世阿弥の舞ということか
【俳句・草笛】


時は義満の世、花の頃。

芸に身を置くひとりの少年が、既に目にする事もめっきり減った、水干を身につけ舞う女人の姿を目の前に座していた。
そもそもは色の淡いはずの桜。その桜の花が、あたかも朱の炎をはらみ、夜空の星々を目指して燃えてゆくかのようであった。
音を消し去り、我を消し去り、哀しみを哀しみのままに喜びを喜びのままに携えて、待ち構える無の境地に登る花吹雪。
二条家の屋敷に招かれていた少年は、幼さゆえまだ多く理を理解できぬまま、それでもその舞姿に圧倒された。

「前時代のものとされ当節では廃れてきておりますが、名手と謳われかつてはこの都で引っ張りだこだった評判の舞手にございます」

少年は舞を披露する女人を前に、身じろぐ事もできずにその顔を凝視した。若いとは到底言えなかったが美しく、そして浮かびあがる右頬のあざ。

ーーあれもまたまことの般若。夜叉よ、其方もいづれ知るであろうーー

少年は周りを見たが、口を開いている大人はいなかった。
何処からか少年の耳に聞こえてきた声。それは鬼神か天狗か、或いは物の怪の仕業だったのか。

この時限りであった。
その後、夜叉と呼ばれた少年がこの女人の舞を目にする事はついぞ無かった。

ーー 宿命ぞーー

朱に染め上げ、星空に向かった花と、得体の知れぬ声。
やがて少年は父の後を継ぎ精進を重ね、芸を極め名を残すにつれ、業の背中に広がる北天の星に宿神の翁を見出すようになっていった。
そして自らは花を半ば懐に封じたと言う。

記憶を曖昧にしながら歳月は流れる。そして何百年の時を経ても、人々は桜の散る様を見てはこのように言うのだ。

花が舞う、と。






夜叉 正しくは鬼夜叉で、世阿弥の少年時代のいわば芸名。
隅から隅までフィクションの、400字にしようとしてできなかった←掌編。
↓女人とはこの方かも

前編

後編

リンク先の世界はある意味神話、もしくは神話と対になるものだと個人的には思っていたり=(^.^)=

#note神話部  ##mymyth  #フィクション #まいまいすー

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