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コーヒーと歌声のある休日。

昨夜、夫とケンカをしてしまった。

ケンカというほどのものでもない。なんだかなあと私がなってしまっただけで。



土曜日、天気はくもり。
夫は世間さながらの連休に入っており、朝は予定通りのオーバースリープ。
眠りの森の中にいる旦那をおいて、私は学校の授業に向かった。GWだというのに、授業をしてくださる先生方には頭が上がらない。


午後に差し掛かるとき、体の奥がずんとするのを感じた。気候の影響もあるだろうし、土曜日のふわっとする気持ちの問題でもあると思う。

だが、この気だるさともいう、重さには確かに馴染みがあって、おそらくあいつなのだ。

お手洗いに行き、それは確信に変わる。

「あ、生理がきた。」

初期微動で大体は気づく。長い付き合いなのだから、細々といきたいのに、こちらの要望は配慮されることなく、どっぷり濃密な関係を毎月続けている。


重たい体を引きずって、帰路に着く。
スーパーで必要最低限のものを買い込んで、帰宅。

眠りの森の旦那様は、リビングでうとうと。

「ただいま。」

「おかえり。」

「もう行ってきたの?」

「うんさっき帰ってきたところ。」

夫は最近、近所のゴルフスクールに通っている。これから控える会社仲間とのゴルフ予定に向けて、また運動不足解消のため、習慣にしようと試みている。

洗濯機はぐるんぐるんと激しい音を鳴らして、乾燥モードに突入していた。乾燥機に入れられない衣類は、カゴにそのまま頓挫されていた。


「今日から生理みたい。」

「そっか、じゃあ体がしんどいね。」

毎月、生理が来たタイミングで夫に報告をしている。妊活中ということもあるが、この仕様になると、感情や体のコントロールが難しくなるという、事前の忠告でもある。

27、28歳ごろから、途端に生理前のPMSに悩まされるようになった。生理が始まってからの痛みも感じやすくなり、体に変化があったと嫌でも感じさせられた。

30歳を過ぎてからは、気持ちが落ち込むのはもうすぐ生理が来るからだと、先読みして対策ができるようになり、気の持ちようでほんの少し楽になった。


けれど、正直、こんな日くらい、家事のことは考えたくない。
昼食が遅かった夫は「お腹が空いていない」と言い、晩ごはんは簡単なもので済ませた。

先ほどまで唸っていた洗濯機は、静まり返り、ふかふかになった洗濯物を取り出して、ささっと畳んで、定位置にしまう。

これが終われば麦茶を飲んでひと段落しよう、そう思った。

ダイニングに向かい、やかんを持ち上げる。

「あ、空だ。」

先ほどまで満タンにあったはずの麦茶がすっからかんになっていて、そのまま私の中でさーっと血が流れるような感覚になった。

「ずっと家にいたんだから、洗濯物干してくれてもよかったし、畳んでくれてもよかったんじゃない。麦茶も空で、、ああもう。」

つい口から色々言葉にしてしまった。私はとんでもなく麦茶を欲していた、のかもしれない。


こういうとき、夫は決まって、何も言わない。
何も言わずに、自室(書斎)に行ってしまう。

以前本人に聞いた情報によると、自身のやるせなさと申し訳なささで一旦退出したくなる、そうなのだ。自己防衛的なものもあるのだろうと思う。

私も何も言わず、先にお布団に向かう。


はっと、朝方目が覚めて、横をみる。

夫の姿がない。

リビングにもダイニングにも、いない。
書斎の扉を開けても気配はない。

え、家出?

念の為、夫の名を読んでみる。

「⚪︎⚪︎さん」

「はい〜」

なぜか夫が書斎の机の下から顔を出した。
地震前の訓練なのだろうか。

「風邪ひくよ。」

こちらに寄ってくる、夫。

「昨日はごめんなさい。」

そう言って、ふわっと私を抱きしめた。

「うん。」



そのまま二度寝して、せっかくの連休2日目は、「おそようございます」から始まった。

ひと足さきに私が起きて、溜まった洗濯物を洗って干して、ひとり朝ごはんを食べる。

程なくして、夫が起きて、ふたり分のコーヒーを淹れる。


洗濯物が風にそよそよと踊らされて、

高らかな阪神タイガースの歌声にお子さんの掛け声と、

斜め上の階のお宅からだろうか、コーヒーの豆をひく音がした。

陽気な朝なのだな、とちょっとほっこりして。


特別ではない、休日。

熱々のコーヒーをすすりながら、夫に言う。
いろいろの、「ありがとう」を。


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