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リア充爆発しろ

高校生時代、当時の習い事の関係で、それなりにご近所付き合いがあった。近所の子どもたちは私のことを「憧れのお姉さん」として、無条件に好いてくれる、みたいな環境で過ごしていた。
とはいえ、生まれてこの方、ずっとコミュニケーションが得意ではなくて、それは年の離れた子ども相手でも、例外ではなかった。
子どもたちと特別仲良くなることもない中で、例外的に仲の良かった幼稚園児がいた。3、4歳くらいの子。なぜかとても懐かれていたから、可愛がっていた。よく膝とかに乗せていたような気がする。当たり前に言葉が通じないことが多い中で、それなりに愛情を持って接していた。こんな私に対して、なぜか好意的であることが、嬉しくてありがたくて、かわいいなあと思っていた。その園児に、ある日突然、彼氏ができた。
最初、なにが起こったのか全然わからなかった。

素直な気持ちとしては「私にも彼氏ができたことないのに……………? 」だった。


モテモテウキウキで過ごせるはずの華のJKブランドを棒に振るような厨二病サブカル女子だった私に、青春らしい恋愛など、知る術がなかった。しかし、この幼稚園児は、確実に私の知らない領域へと足を踏み込んでいた。好きな人が、自分を好きになってくれるという、漫画みたいな出来事。干支が一周するくらい年下なのに。

当時、とんでもなく拗らせていた。生きる気力がとにかくなかったし、世の中の全てがわからないし、なにをするのも苦しかった。
学校は毎日遅刻して、授業中は枕を持ち込んで寝て、見た目だけは派手だけど、不良でもヤンキーでもなく、友達はゼロに近いオタクで、クラスの人の名前も、まったく知らないような…………エロ同人誌とかに出てきたらキャラ立ってて可愛かったかもしれないけど、悲しいことにこれは、リアルなので、可愛いどころか痛々しかった。思い出すのも辛いし、いま羅列しながら、かなり嫌になっている。

青々しい私は、見るものすべてに苛立っていた。世界のすべてがわからなくて、困り果てて、すべてにキレてた。とくにカップルは本当に本当に嫌いだった。

当時の居住区域は、大きい駅のイルミネーションがわりと豪華だった。クリスマスとかバレンタインとか、そういうリア充イベントが近づくと、街にも色と人が増えてゆく。光り輝くLED装飾に釣られたカップルたちが蛾のように集まってくる姿が、嫌いだった。
単純に、人が多くなると、街が歩きづらかったのもある。私はこの駅を避けて通れないから、嫌々歩いている中で、彼らは嬉々としてやってくる。イルミネーションをくぐることすらストレスで、常にアサシンみたいな目で歩いていた。くぐりたくないのにくぐることにより、勝手にイルミネーションの一部にされてしまうことすら、もはやストレスだった。


勝手に世界への不満を溜めながらクリスマスイブ前夜を迎えた高校2年生。中学時代から仲の良い、日常的にやり取りをするような男友達からメールが届いた。

「明日って暇?」
「え?なんで?(こいつ私のこと好きなんだろうな。めっちゃメールしてくるもんな)」

「いいから!暇?」
「特に予定はないよー(私はこいつのこと好きじゃないけど、まあ予定はないから事実を伝えますか………🤭)」


「ダセエwwwwwwww暇人乙wwwwwwww僕は彼女とデートでーーーーすwwwwwwww」

なるほど、騙し討ちですか。安全圏から確実に殺そうとしたんですか。
そういえば、こういうやつだから仲良かったんだろうな。そんなふうに考えながら、メール画面を眺めた。

怒りは湧かなかったけど、なんか恥ずかしかった。絶対に私のこと好きだった時期あったよな?!と、いまだに思ってるけどね。ただ、その時はこんなヤツにも恋人がいたのは事実だった。私にはいなかったのに。


「みんなが幸せに過ごしてて私も嬉しいな😄なんて言うと思ったか?クソが リア充爆発しろ」
クリスマス当日にはTwitterのリア垢でこのようなツイートして、幸せそうな人たちを牽制した。部活仲間、クラスの友人たちは、高確率で恋人がいた。私の周りは非リア充の象徴であった「オタク」で固められながらも、心優しい人格者が多く、なんか知らないうちにみんな誰かと恋に落ちていた。
クリスマス前、彼らは当たり前に浮かれていた。みんな恋人とデートをするから、誰も私と遊んでくれなかった。悔しいので、彼らの幸せに、本気で水を差したかった。でも仲間内で爆笑されて終わり、特に水は刺せなかった。

恋の喜びを知らない乙女は、そのまま謎の高熱を出して寝込んだ。静かに泣きながら横たわり、ぼーっとする頭で考えていた。
「なんで私だけ苦しいんだろう。楽しくクリスマスを過ごしたいだけなのに。ちょっと前までプレゼントもらえる日だったじゃん。なんでデートする日になってんの?というか恋人がいないだけで、周りの人にまで腹を立てる必要があるのか?」
やり場のない怒りは、カップルという存在へ向けられた。恨みは、年々色濃くなっていた。
最高潮を迎えたあたりで、幼稚園児のお友だちに彼氏ができた。

とんでもなくキツかった。私のストレスをよそに、幼稚園児の母親・私の母親は仲良く世間話なんかしている。


幼「あの子たちラブラブすぎてやばいんです😂幼稚園でもずっとチューしてて〜」
母「あら〜かわいいじゃないですか〜🎶でもうちのミコトは嫉妬しちゃうかな〜?😆」
私「嫉妬はしないけど、私はカップルが好きじゃないだけで(早口)」

幼「えーーー!!ミコトちゃんたら幼稚園児に妬いちゃってーーーー😂」
母「自分が彼氏いないからって子どもにまで嫉妬しないのーーー!!笑

私「イヤっっっ嫉妬じゃなくてっっっカップルが好きじゃなくてっっっっ(早口)」

「変な子〜〜〜あはははは」どっ!!


↑マジでなんでこんなこと言われなきゃならないわけ?
私が何を言っても「モテなさすぎて幼稚園児にまで嫉妬してるクソガキ」としか思われなくて、絶望した。大人の物差しで勝手に心を測られて、自分のことを理解してもらえない、みたいな気持ちにすらなった。
私も本当は、恋を知りたかったのかもしれない。しかしそれを凌駕するほどカップルへの嫌悪感か強く、幼い私はそれ以外の感情を持つことが難しかった。

鬱屈とした感情を抱えながら青春を送ったことが、先の人生に影響を与えないわけがなく、私は完全に周回遅れの大人になってしまった。モテるとかモテないとか、そんな簡単な物差しではなく、人との接し方の話です。若いうちに恋愛した方がいいとか言うけど、こうならないためなんだろうね。
いまだになにもわからないまま暮らしています。今年なら「明日暇?」って連絡来ても「M-1見るから暇じゃないよ」って返せたのにな。リア充爆発しろ。

ここに投げられたお金を、酒代に使ってしまうような私で、申し訳ありません