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スピンオフ小説「1/3の失恋」ー3

第 6 章

アタシの名前は、山神恵子。

中学2年生の女子で、吹奏楽部に入ってるの。

アタシの初彼は、同じ吹奏楽部の1つ年上のN部長なんだ💖

だけど年上の彼氏とは言え、アタシの親友Tちゃんを泣かせたんだから、絶対に許せない!

Tちゃんに、Mくんの頼みもあって夜に電話してみたの。

最初に電話したら、お風呂に入ってて…お母さんが出たの。

「あらケイちゃん、久しぶりね!元気にしてる?」

「はい、こんばんは。お久しぶりです。ところで…」

「あっ、ごめんね、Tなら今、お風呂入ってるのよ。上がったらケイちゃんに電話させるわ」

「ありがとうございます。ところで…」

「今日はTが、部活は中止になったとか言って早く帰ってきたんだけど、本当?」

アタシがどうせお母さんが電話に出たなら、Tちゃんの家庭での様子を聞こうと思ってたら、先に言われちゃった。部活は中止になったって言ったんだね、一応話は合わせとかないと…

「そっ、そうなんです。それでTちゃん、部活に忘れ物しちゃったんで、明日渡せるかなどうしようかなと思って」

「そうなの?ありがとう、そういうところがTはウッカリ屋さんなのよ。ごめんね。でもやっぱりTから確認のために、一度ケイちゃんに電話させるからね。じゃあお母さんにもよろしくね」

「はい、ありがとうございます、はい、はい…」

異性相手に電話するわけじゃないけど、やっぱりちょっと緊張しちゃう。

でもお母さんの話しぶりからは、そんなに落ち込んで帰ってきた訳でも、家の中で暗いわけでもなさそう。

Mくんにはとにかく明日、せめて学校に来れるかどうか聞いてくれって言われたけど、部活に来なきゃMくんとTちゃんは会えないよ?

でもその辺は、不器用なMくんのTちゃんを思う恋心ってやつかな?

とりあえず登校するくらいには、元気になっててほしいんだろうね、Mくんは。

しばらく本を読んで過ごしてたら、電話のベルが鳴ったよ。

ハイ、ハーイってお母さんが出ようとしたけど、きっとTちゃんからだと思ったから、アタシが出る!って、お母さんを止めたの。

「モシモシ?」

「あっ、モシモシ?ケイちゃん?」

「うん。Tちゃん、ごめんね、電話掛けさせちゃって。お風呂、ゆっくり入れた?」

「大丈夫よ。ポッカポカに温まったから。でもケイちゃんが電話をくれたということは、きっと…今日のことだよね」

「…そうなの。アタシが音楽室に行ったら、Mくん一人だけで、顔面蒼白になってたから、一体何が?って思ってね」

「うん。もうキッカケは泣いて忘れたけど、アタシって元々、ケイちゃんには悪いけど、あまりN先輩と相性が良くないのね。なのに今日はN先輩とアタシだけっていう、困った2人切りの状態になっちゃって、何喋ろうかなって思ってたの。そしたらね…アタシの髪の毛が天然パーマだって言って、何度も何度もしつこいくらいにアタシをからかうの…。アタシだって好きで天然パーマな訳じゃないのにさ…。先輩だから反抗できないし、悔しくて涙が溢れてきちゃったの」

「何よ、それ!許せないよ、アタシも。寄りによって、後輩の女の子の容姿をからかうなんて、最低だよ。N先輩、金賞取ってからいい気になり過ぎてる。アタシ、別れるのも考えて、今からN先輩に電話しておくから!」

「いいよ、そこまでしなくても、ケイちゃん。ケイちゃんが一緒に心配してくれて、怒ってくれて、こんなに嬉しいことはないよ。一人だけじゃなかったって思えるから」

「アタシ一人だけじゃないよ」

「えっ?」

「Mくんも凄いTちゃんのこと心配しててね。それで、Mくんは番号も知らないし電話できないから、アタシに大丈夫かどうか電話してみて、って頼まれたのもあるんだ、実は」

「Mくん…。そうだよね、泣いてるところ見られちゃったもん。心配になるよね。優しいんだね、Mくんは」

「そうだね…」

ってアタシはそこで、多分MくんはTちゃんのことが好きなんだよと、喉まで出かかってたことを言おうとして、止めたの。

なんでブレーキが掛かったんだろう…。というか、掛けたんだろう…。

「じゃあ、流石に今から電話するのは止めとくね。明日会った時に、ガツンと言っておくし、Y先生にも言っとくからね」

「ありがとう、ケイちゃん、アタシのために…」

「ううん、親友だもん。親友が泣かされたら、ちゃんと助けてあげなきゃね。あっそうそう、Mくんが、Tちゃんは明日学校に来れそうかなって心配してたわ」

「Mくんが?そんなことまで心配してくれてるんだ。うん、学校は行くよ。だけど、部活はちょっと、分かんない」

「だよね。その辺りは、アタシとMくんに任せといて。ちゃんとTちゃんが部活に復帰できるようにして上げるからね」

「ありがとう。本当に。でも、無理しなくてもいいよ?」

「こんな時に無理するのが、親友だよっ!じゃあ何の心配もせずに、今夜はグッスリ寝てね!おやすみ!」

アタシ、受話器を置いた後、変な気持ちになってたの。

アタシの彼が、アタシの親友Tちゃんをからかって苛めて、偶々居合わせたMくんが凄いTちゃんのことを心配して、アタシがMくんに頼まれたのもあってTちゃんに電話した。

アタシは明日、Y先生に話して、N先輩にも別れるくらいの意気込みでTちゃんを苛めるなんて許さない!と言って、そしてMくんにはTちゃんと電話で話したことを説明する。

やることはもう決まってるのに、なんなんだろう、このモヤモヤ感は…。


第 7 章

「今回はアタシも許せないからね、N先輩!」

アタシは部活の朝練に出ると、トランペットを吹いていたN先輩にこう言ったの。

「え?なんのこと?」

ムカーッ!アタシとTちゃんが親友なことくらい知ってるでしょっ!なのに、なんで知らん顔してんのよっ!

「Tと?な、何もないよ」

まだ知らん顔して切り抜けようとしてる!
でも顔色は変わってる。落ち着きがなくなってる。

「アタシが何も知らないとでも思ってるの?呆れちゃう。ねぇ先輩、アタシはそんな先輩の姿、見たくないよ?アタシ昨日の夜、Tちゃんに電話して、慰めるのに大変だったんだから!」

流石にN先輩も観念したのか、ポツポツと喋り始めたよ。ちょっとアタシの言い方もオーバーだったけどね。

「…悪気はなかったんよ。だけどなんか話の成り行きで、髪の毛の話になって、Tさんって天然だよなって言ったら、そんなこと言わないで下さいって言われて、かえって俺がムキになって天然は天然だろってエスカレートしてさ…」

「酷い!酷すぎだよ。相手は女の子だよ?しかも年下の。アタシ、先輩がそんなこと言うなんて想像もしなかったけど、残念だよ…」

「とりあえず、俺が悪いんだろ?」

「その態度が、もうダメ。なんで上から目線なの?こんな時は部長だろうが何だろうが、心から謝らなきゃ」

「そ、そうか…」

「じゃないと、アタシ、先輩とはサヨナラするから」

「えっ…」

N先輩の表情が固まった。

「…分かったよ。Tさんが部活に出てきたら、ちゃんと謝るから」

「出てくればいいけどね」

アタシは冷たく言ったの。

ここ最近のN先輩、コンクールで金賞取って、しかも審査員の先生の講評に「トランペットのトップ、音色が素晴らしい」なんて書かれてから、俺のやり方に間違いはないって感じで、天狗の鼻が伸びてる感じだったから、内心アタシも自慢話ばかり聞かされて嫌だったの。

調子に乗りすぎた天罰よ、きっと。

さて、アタシはクラスに戻って、Mくんに電話の内容を教えなくちゃ。

Mくんは…と、いたいた!

後ろ向いて友達と喋ってる。

ソッと背後から忍び寄って…

「だーれだ?」

「おわっ?だっ、誰?女子?」

周りは、オーッとか声が上がってるから、アタシがビックリして手を放したんだけどね(^_^;)

「なんだ、山神さんじゃんか。ビックリした~」

「目、覚めたでしょ?」

「そりゃあ、もちろん…」

って話すMくんの顔は、もう真っ赤。やっぱりウブなんだなぁ(^m^*)

と思いながら、先生が来るまでに、昨日の電話の内容を教えてあげたの。

「じゃあ、自分が心配してたよりは、元気だったんだね。でも、学校には来てるだろうけど、部活には来るかどうか分からない…」

Mくん、本気でTちゃんのこと、心配してるよ。アタシの彼も、これくらいアタシのことを心配してくれたこと、あるかな…。

その日の部活は、やっぱりTちゃんは来なかった。

Tちゃんは隣のクラスだから、休み時間とかに声は聞こえたのね。だから登校してるのは間違いなかったんだけど…。

N先輩もいつも威張ってるのが、この日はおとなしくて、なんか隅っこで練習してるような感じだったよ。

でもTちゃんが部活に来なかった以上、Y先生に言わなくっちゃね!

その日は合奏は無かったから、部活が終わった後にクラリネットを片付けて、すぐ職員室のY先生の所へ向かったの。

「先生!」

「おぉ、山神。どうした?」

「実は先生に聞いてもらいたいことがあって…」

「ん?NとTのことか?」

「えーっ?なんで先生、もう知ってるんですか?」

「昨日、音楽室の鍵を閉めたのはMだったんよ。で、鍵を返しに来たとき、実はコレコレで…ってMが教えてくれてな」

Mくん、行動早っ!もう先生に相談してたなんて。

「まあ俺もMから聞いただけだから、詳しくは分からんのだが、NがTに酷いことを言ったみたいだな」

「そうなんです。あえて詳しく言うと…」

「いや、大体中身は推測出来るから、いいよ。しばらくTは部活を休むって言ってきたし。心が落ち着いて部活に出てきたら、俺が責任もってNに謝らせるから」

「そうですか、ありがとうございます」

「まあNも調子に乗ってたからな。ちょっとおとなしくしとけっていうサインかもしれないな」

アタシはMくんの行動の早さに感心してた。

夏までは部活に慣れなくて四苦八苦してたのを、アタシが見守って上げてたけど、今やアタシがMくんに頼らなきゃいけない時なのかも。

いつの間に、Mくんったら存在感が大きくなったんだろう…。

そしてMくんの存在感は、アタシの心の中にも…。


(次回へ続く)


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