第　８　章

アタシの名前は、山神恵子。

Ｏ中学校の２年生で、吹奏楽部でクラリネットを吹いてるの。

部長のＮ先輩が、アタシの初彼氏なんだ💖

だけどＮ先輩が、アタシの親友、Ｔちゃんに悪口を言ったせいで、ちょっとアタシ達の関係も、部内もギクシャクしてるの…。

最後は顧問のＹ先生が、Ｎ先輩とＴちゃんを職員室に呼び出して、Ｎ先輩に謝罪させて、一件落着したんだけど、アタシの中には色んなモヤモヤが残っちゃった。

まずＮ先輩が女の子に酷いことを平気で言う男子ってこと…。

その分、アタシの中でＮ先輩に対する思いが醒めちゃったこと…。

２年生になってから途中入部したＭくんが、いつの間にか存在感が大きくなっていたこと…。

そのＭくんがアタシの親友Ｔちゃんのことを、なんとなく好きなこと…。

そのＭくんのことを、アタシも好きになりつつあること…。

クラスに戻っても、ついついＭくんのことを目で追っちゃう自分に気付いたんだ。

アタシのことを彼女として、恋人としてちゃんと見てくれてるのか分からないＮ先輩より、恥ずかしがり屋さんで女の子の顔を照れて真っすぐ見れなくてすぐ顔が真っ赤になっちゃうＭくんに、アタシの心は揺れてる。

「ねぇねぇケイちゃん！起きてる？」

え？アタシ、起きてるけど…

「何？起きてるよ」

「じゃあ、国語の教科書の８６ページから、読んで！」

えっ、休み時間じゃなかったっけ？いつの間に国語の授業が始まってたの？

「山神さーん、起きてますか？」

先生にまで言われちゃった。
あーっ、恥ずかしい所をクラスのみんなに見られちゃったよ～。

「はっ、はい！８６ページからですよね、えっと…あの…どこだっけ…」

そしたら右横に座ってるＭくんが、ここだよ！と鉛筆で印を付けてくれた国語の教科書を、サッと貸してくれたの。

「はい、じゃあ読みます・・・」

ふー、Ｍくんのおかげで助かったぁε=(´ー`*)

国語が終わった後の休憩時間に、Ｍくんにありがとうと改めて言ったら…

「珍しいじゃん、いつも冷静に授業を聞いてる山神さんなのに。なんか悩み事でも考えてたの？」

「えっ、まあ、あのね、ちょっと昨日なかなか寝付けなくて、実はウトウトしてたの」

ちょっとアタシはウソを付いた。だってアタシの中でＭくんの存在感が増してることを考えてたなんて、言えないもん。

「じゃあ、山神さんに貸し一つだね！」

Ｍくんはニコッとしながらそう言ったの。その無邪気な笑顔が、アタシをまたＭくんファンにさせるの。Ｎ先輩は、アタシといても笑顔なんて滅多に見せてくれないから…。

「う、うん。なにかあったら、Ｍくんを助けてあげるからね！」

「じゃあ今度、体操服忘れたら、体操服貸してね！」

「分かったよ、貸してあげる…って、なんで女子のアタシが男子のＭくんに体操服を貸せるのよ！上はともかく、下はブルマでしょ？Ｍくん、ブルマ穿きたい願望でもあるの？」

「えっ、ちょっとした冗談だよ、そんなに真に受けないでよ…」

なんか、こんなやり取りできるのが嬉しいな。Ｍくんたら、予想外のアタシの反撃に顔を赤らめてショボンとしちゃった(´・ω・`)

…ってそんなやり取りしてたら、１組の友達Ｓちゃんが、本当にアタシに体操服を借りに来たよ！

「ケイちゃん、ごめーん！今日体育あるよね？」

「うん、６時間目にあるよ」

「ね、アタシにブルマ貸して～、お願い！」

「いいけど、上は？」

「上は持って来たんだけど、朝寝坊したら、スカートの下にブルマ穿いてくるの忘れたの。お願い！」

「そうなんだ。珍しいね。サイズ合うかなぁ？」

とりあえずアタシは、スカートを捲り上げて中に穿いてたブルマを脱いで、Ｓちゃんに渡したの。

「はい。とりあえず１時間、頑張ってね」

「ありがとー、ケイちゃん！恩に着るわ」

と言って、アタシの穿いてたブルマを持って、Ｓちゃんは走ってったけど、サイズは大丈夫かな？

とか言って席に座ったら、右横からすごい視線を感じたの。

Ｍくん？！

「や、山神さん、凄いことするんだね…」

「えっ、そう？」

「だって、さっき冗談で言ってたこと、本当にするんだなって、ビックリだよ…」

「えー、女子同士なら、体操服の貸し借りはしてるよ。そんなにビックリした？」

「だって、男子もいる教室の中で、いきなり…だもん」

「そうかぁ。アタシには普通のことだけど、男子にはビックリなんだね」

「もちろん。体育で短パン忘れても、他の男子に借りようなんて思わないよ」

Ｍくんはビックリしてたの。うーん、女子同士なら結構当たり前に体操服の貸し借りやってるけど、男子にはビックリなことなんだね。ひとつ勉強になったかも。

Ｍくんは不思議そうな顔で、目の前で起きた事を考えてるみたい（^m^*）

ちょっとからかっちゃおうかな～Ψ(￣∇￣*)Ψ

「じゃあＭくん、今、アタシのセクシーショーを見たから、これでさっきの教科書の借りはチャラね！」

「うん…えっ？そ、それと今のとは、趣旨が違うような…」

「だってアタシ、ブルマ脱いだから、今スカートを捲られたら…ってホラホラ」

アタシがスカートを揺らしたら、Ｍくん、何を想像してるのか、また顔が赤くなってる（≧ｍ≦*）

こんなウブなところが、Ｍくんの可愛いところなの。母性本能をくすぐられるんだよね。

Ｎ先輩とも、こんなお付き合いしたかったな…。
Ｎ先輩とお話しても、困ったときには上下関係を持ち出してくるから…。

第　９　章

吹奏楽部の一大イベント、文化祭での演奏が何とか終わって、いよいよ３年生の引退式の日になったよ。

去年、この引退式でＮ先輩が部長になって、その後、告白されたんだよね💖

その時は嬉しかったけど、今は告白されたからって、断ってもよかったんじゃないか…なんて思うこともあるから、なんとかＮ先輩への気持ちを持ち堪えるので精一杯。

さてさて今年はＮ先輩から、誰に部長職がバトンタッチされるんだろう？

「ケイちゃんは誰だと思う？」

隣に座ってるＴちゃんが聞いてきた。

「うーん、やっぱり男子ということでＭくんかなぁ。でも途中入部っていうハンデがあるから、Ｙ先生や３年生の先輩達も、選ぶのに苦労したんじゃない？」

「アタシも…Ｍくんがいいなって思ってるの」

Ｔちゃんもかぁ。でも、Ｍくんが入ってくる前は次期部長の大本命だった、打楽器のＦさんも黙っちゃいないよね、きっと。

あっ、Ｙ先生が入ってきた。いよいよ発表だわ。

「みんな揃ってるか？じゃあ３年生の引退式、新部長と新副部長の発表を行います。今回の決定は、俺と３年生とで、長い時間を掛けて話し合いました。中には不満があるヤツもおると思うが、まずは聞いてくれ。新部長は、バリトンサックスのＭ、新副部長は打楽器のＦ。以上だ」

アタシはＴちゃんと目を合わせたわ。

（Ｍくん、部長になったね！）

で、肝心のＭくんを見てると、まさか自分が呼ばれたことに気付いてないのか、１年の男子と喋ってるの。

だからＹ先生は、
「Ｍ！ミ・エ・ハ・ル！お前、新部長になったんだぞ！」
って叫んだの。

Ｍくんはキョトンとして、なんで？って顔してたけど、とりあえず前へ呼び出されてた。

「俺が、新部長ですか？」

「ああ。これから１年、Ｆと一緒に引っ張って行ってくれや。今の様子を見てると怪しいけど」

音楽室の中がドッと笑いで溢れたよ。

「まずは新部長からの挨拶。一言、何か言ってくれ」

「えっ、えーと。・・・数秒前まで俺が部長になるなんて考えてもなかったんですけど、なった以上は頑張ります。よろしくお願いします」

音楽室内は拍手に包まれたけど、ほんの数名の女子が、納得いかないって顔してたなぁ。Ｍくん、大丈夫かな…。

Ｎ先輩が、音楽室のカギを渡す恒例行事をしながら、Ｍくんに話し掛けてた。

耳打ちみたいな感じで聞き取れなかったけど、頑張れよ、とでも言ったのかな。後でＮ先輩に聞いてみようっと。

あとはアーチを作って、３年生を見送るんだけど、３年生自体が少ないし、あっという間に終わっちゃった。

Ｎ先輩もとっとと出てったけど、アタシのこと、待っててくれるかな…。

「はい、みんな、元の席に座ってくれ。Ｍ部長とＦ副部長の体制で、これから１年、みんなで頑張っていくことになった。中には、なんで途中入部したＭが部長なんだって思ってるヤツもいると思うが、もし文句があるなら、後から俺の所に来い。詳しく説明してやるから」

Ｍくん、波乱の船出だね…。
Ｔちゃんと目をまた合わせたんだけど、目と目で通じ合っちゃった。

（Ｍくんのこと、助けてあげようね）

Ｙ先生は最後に、Ｍくんに締めさせようとして、前にＭくんを呼んだんだけど、Ｍくんはもう緊張しちゃって、ガチガチ。

「Ｍ、初仕事じゃ。ミーティングを終わらせてくれ」

とＹ先生に言われて、Ｍくんは

「そっ、それでは～、ミーティングを、終わります。起立！礼！」

と、一生懸命に務めてたよ。

頑張れ、Ｍくん。少なくともアタシとＴちゃんは味方だからね。

さてアタシは、Ｎ先輩と帰ろうかな…って、いつもの待ち合わせ場所に行ったら…、いない。

周りを見渡しても、何処にもいない。

えっ、なんで？

いつもは確かにアタシが先に待ってたけど、今日はＮ先輩が先に音楽室を出たから、先輩が先に待っててくれるものだと思ってたのに…。

一応、３年生の下駄箱も見たけど、Ｎ先輩の所はもう上履きしかなくて、帰ってることを示してたの。

なんなの、これ？

アタシは彼女じゃないの？

黙って先に帰るなんて、酷いよ…。

今日は一年間お疲れさま！って、言ってあげようと思ってたのに。

部長職が終わったから、アタシとの仲も終わりなの？

…もうＮ先輩とはお別れしようかな…

（次回へ続く）