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読書メモ「戦略の要諦」(1)

リチャード・ルメルトの「戦略の要諦」を読んでいます。ルメルトは、UCLAの元教授ですが、この本はFinancial Timesなどでも非常に高評価を得ているものです。スクラムの文脈で戦略についてはあまり語られませんが、スクラムチームの重要な資質の一つとして、戦略性があると考えます。重要なことと重要ではないことを見極め、自分たちの労力を重要なことに投入することが必要です。そこで、この本からいくつかエッセンスををまとめてみました。

本のなかで、戦略は「組織の命運を決するような重大かつ困難な課題を解決するために設計された方針と行動計画の組み合わせ(p26, Kindle版)」と定義されています。また、「困難な課題に取り組み、克服する方法を考え抜いては行動に移す継続的なプロセスである(p87, Kindle版)」とも言われています。では、戦略とは何かをさらに理解するため、今回は「戦略ではないもの」を確認していきたいと思います。

NOT戦略:これは戦略ではない

本のなかで、戦略ではないものとして大きく2つのケースが語られています。

何をするか、何をしないかが曖昧なケース

  • 「成長する」「多角化する」「明るい未来をつくる」といった抽象的な願望は、戦略ではない。

  • 「つねに最高であれ」というようなポジティブな謳い文句やスローガンは、戦略ではない。

これらは、何をすべきかを明示していないため、行動に結びつきません。ですから、これは戦略ではありません。戦略が何をすべきかを明示しないと、組織の能力を集中して投入することができません。これでは、日々の活動から効果を得ることが難しくなります。

とりあえず、何をするかを決めてしまうケース

  • 自社の事業も競合他社も市場のダイナミクスも分析せずにただ「技術力を向上させる」「今後何ヶ月で利益を倍増する」という裏付けのない目標は、戦略ではない。

  • 「我々はこの分野に経験はないが、しかしこの分野に新たに取り組もう」という心意気や仮説に基づいた恣意的な意思決定は、戦略ではない。

こちらは、先程のケースと違い、特定がやや難しくなります。これらの目標や意思決定は、一つめのケースである抽象的な願望やスローガンとは違い、一連の行動を創出するでしょう。しかし、この行動から効果を期待するのはキャンブルのようなものです。戦略は、状況変化、直面する課題、スキルと知識、リソース、機会の分析を行い、合理的に効果が期待できるようなデータに裏付けされている必要があります。数あるやった方が良さそうな事柄のなかで、なぜこれが重要なのかについて合理的な分析と勝ち筋の見極めが先に行われる必要があります。これなくして発生したものは、戦略ではありません。このケースでは、恣意的なターゲットに向けて活動が行われます。この場合も、効果を期待することは難しくなります。

まとめ

ここでまとめた「戦略ではないもの」は、当たり前な内容で斬新さはありません。戦略性の高い組織に属している方にとっては、何を今更と思う内容だと思います。しかし、戦略とよばれるものが、この2つのケースにあてはまることは多いと思います。内容が曖昧すぎて、忘れ去られた戦略ステートメント。逆に死に物狂いで目標を達成したが、効果の上がらない無駄な対応。この「戦略ではないもの」をよく認識することが、戦略を活用する第一歩だと思います。また、ルメルトも戦略は、継続的なプロセスだと言っています。昨今の変化の激しい環境のなかで、自分の戦略とそこから導きだされた行動の結果を常に検査し、適応を続けることが必要です。「戦略ではないもの」にしがみつくことは、避けなくてはなりません。この時にも「戦略ではないもの」の認識が有効だと思います。

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