右マパターン

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  • 寝れるカモミール

    毎週1回更新したいと思っています。(hanao)

最近の記事

寝れるカモミール 25(完)

ゆっくり歩いたつもりが、決意すれば一瞬で白いドアの前に来ました。 「これ」 「あ、そっか」 「うん、よし、じゃあ、あとでね!」 ライはオヤスさんの車の鍵を私に渡してから、後ろ歩きでファイティングポーズをしながら去っていきました。 心細い。再会したのはつい1ヶ月前のことなのに。たった数日間で、これまでの私はどうやって1人で過ごしてきたのか不思議に思うほど、私の中にライの居場所が。もしも、私よりも少し背の高いライが海外に行かないで、成長期の私とずっと一緒だったら、ご飯を食べ

    • 寝れるカモミール 24

      重いです。 望んでいたはずなのに。 どうしてこんなにも身体が、足が、重いのでしょうか。 オヤスさんが車を止めたコインパーキングは、見慣れた場所にありました。まぜそば屋さんの近くです。 お店とは反対方向に少し進めば、歩道橋を渡って私の家につくようなところ。車に乗っている時から、いや、それよりも前から何度も、もしかしたら、お店の近くにつまり私の家にも近いところに住んでいるのかもしれない、と思ったことはありましたが、本当にそうだったようです。 今この状況が嘘でなければ。 大きな道

      • 寝れるカモミール 23

        胡散臭くて強引な人だけど、信用したくなる。 わからないけど、ちょっとした言葉や胡散臭く見える行動の大元が優しさからなるもののように感じる瞬間が度々あるから、だろうか。 寝起きの頭では怖い想像をしてしまったけど、山奥に連れてかれたり木に括りつけられるなんてことはない、と思う。そうだとしたら全くもって人をみる目がない。 そもそも、会いたくないです、で帰ってくれる雰囲気ではないし、選択肢はない気がする。 「どうです?会ってみませんか?」 「そうですね」 「まあ急ですよねぇ、と

        • 寝れるカモミール 22

          夢じゃないなら、犯罪だ。 「ごめんなさい、開けてもらえちゃいました」 開けてもらえちゃっている。 「えと、今日って」 「あ、日曜日です」 「あ、ああ日曜日」 「4月16日の」 「ああ、そうですか」 日付を言われてもピンとこない。 「え、なんで、なんか約束とか」 「あ、いや、してないです、そういうんじゃないんですけど」 じゃあ、なんなんだ。 「ほんとに、私も無理矢理起こしたりしたくなかったんですど、どうしてもルカさんに会いたいって人がいて」 「え」 「ごめんな

        寝れるカモミール 25(完)

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        • 寝れるカモミール
          25本

        記事

          寝れるカモミール21

          目的もなく歩く。歩きたいから歩く。休みたくなったら後ろに倒れれば、柔らかく暖かいものに包まれる。動きたくない、でも移動したい。口に出さずとも、その柔らかく暖かい何かが連れて行ってくれる。どこへ?どこへでも。どこにも行きたくない、ずっとここにいたい、だけどここじゃない。ごねたくてごねる、と、その何かは私をあやすようにゆったりと左右に揺れる。守れられている。そもそも多分ここに脅威は何もない。だけどそう思えるのは、きっと何かに守られているからだ。何に?なんでもいい。何かに、なぜ、守

          寝れるカモミール21

          寝るカモミール 20

          「え、いいんですか(;;)?」 「はい」 「え、なんで?ですか?」 「なんで?や、あの向井さん怖いんで」 「あ(;;)」 「お金儲けのためにカモミールティ売ってるわけじゃないけど、命張るほど使命感持ってやってるわけでもないんで、その、自分が一番です。保身第一。自分が1番大事です。自分より他人が大事って言っちゃったら偽善になっちゃいますね、私の場合。いきなりブチギレた人になんでもできちゃいそうとか泣かれたら、ね?」 「ごめんなさい(;;)」 「いや、あっはっはっ、半

          寝るカモミール 20

          寝れるカモミール 19

          「ごちゃごちゃうるさい!!!!!!!うるさい!うるさい!うるさい!寝れてるとか寝れてないとか信じるとか信じないとか知らない!ほんと知らない!私はあの人が作るまぜそばが食べたい!!!食べたい!!食べたい食べたい食べたい!!!ちょっとライなんでそれ隠すの!かして!!ありがと! ・・・・・・・は?やば、高。 や、やでも、でも私は、これに0ひとつ足した値段でも、あの人のまぜそば食べます!わ!安いです!わ!破格!まぜそば屋さんにこのカモミールティが必要で、毎月お金が必要なら、私が稼

          寝れるカモミール 19

          寝れるカモミール 18

          「あらあらあら」 オヤスさんが差し出してくれたティッシュを受け取ります。 「ちゃんと起きてますか(;;)?」 「うーん」 うーんってなんだ。 「うーんってなんですか!怖いなあ」 ライが代わりに言ってくれました。 「いや、ファンってことなら、なおのこと、あんまプライベートなことは、ねえ?」 ごもっともです。 まぜそば屋さんの個人情報が守られていることに安心する反面、こんな曖昧な情報だけを持って帰ってたまるか、という気になってきます。 「今、オヤスさんから、電話しても

          寝れるカモミール 18

          寝れるカモミール 17

          「日曜日ですし」 オヤスさんは、そう言って私とライの足元をちら見しながら、紅芋タルトとプルーン、それからお茶を3つテーブルに置きました。 「え、ごめんなさい、これなんですか?」 「あ、バームクーヘンです、よかったら」 「えー、わざわざすみません」 「あの、まぜそば屋さんは、」 「あ、そうルカさんね、うん、日曜日ですし、寝てるんじゃないですかね?あの人はだいぶ良くなりましたから」 「良くなった?」 「ええ、先月末に会った時も、だいぶ良くなってました」 「良くなってた

          寝れるカモミール 17

          寝れるカモミール 16

          「え?!ルカさんのまぜそばのお店って、あのまぜそば屋ルカですか?あそこ伝説の店っすよね!私も行ってみたいんですけど、最近いつ行っても閉まってて〜〜〜〜えーわーえ、よく行くんですか?」 ヤマはずっと口をへの字にしてフリーズしている。ここは私が勢いで助けるしかない。あまりにもいきなりまぜそば屋さんの名前が出てきたことに驚いているのか、自分の顔が割れていることに慄いているのか。 「いや、私もお店には一回しか行ったことないんですよ」 「へ〜〜〜あ、でも一回は行けてるんすね!え、

          寝れるカモミール 16

          寝れるカモミール 15

          土踏まずには、小型GPSを貼り付けてある。 本当は足の甲までぐるっと包帯やテーピングテープを使って固定した方がいいけど、もしも、裸足になった時にバレないように、防水で密着度の高い絆創膏を使っている。これで足の裏を見ない限り、ここに仕込まれていることはわからない。 キーホルダーに見せかけた防犯ブザーもデニムパンツのベルトループにぶら下げて、防刃マフラーを首に巻いている。マフラーといっても、細くて薄い素材に見えるから4月の今ならさほど不自然じゃないだろう。あと、万が一、これは本

          寝れるカモミール 15

          寝れるカモミール 14

          「え、知らない車ってなに?どこで?いつ?」 「2回あるよ」 「え?!」 「小学生の時1回、大人になってから1回」 「え、小学生???」 「うん、あれは元大女優の子どもって難儀〜〜〜って感じのやつだった」 驚愕です。 そんなことがあったなんて。 小さい頃はずっと一緒にいたつもりだったのに、全く知りませんでした。 「知らなかった」 「うん、初めて人に言った」 「え?!」 「なんか、今、言いたくなった」 リイさんにかなりの資産があることも、それ相応の人気があったこともな

          寝れるカモミール 14

          寝れるカモミール 13

          「ね、普通のカモミールティでしょ」 シタさんがにっこり笑っています。 でも、もしかしたら、があるから。ライがせっかく作ってくれた豆腐料理に手を付けず、カモミールティだけを飲んでいました。ごめんね、ライ。なんの変哲もないお茶とみせかけたこの液体によって、まぜそば屋さんの身体に何か起きたのかもしれないから。もしそうなら身を持って体験したい。何か手掛かりが欲しいんです。 「あ、ねえ、あの花椒、麻婆豆腐に合いそうじゃない?」 「確かに!痺れ欲しいですね」 「とってくるね」 「あ、

          寝れるカモミール 13

          寝れるカモミール 12

          *** “ピピピッ” アラームが鳴っている気がする。 懐かしいような音を聞いて私はまぜそばを作らないと、と思った。お店を開けないと。でもまだ眠りたい。欲望に負けて目を閉じると、全身がポカポカして身体中の筋肉がほぐれる。気持ちいい。温泉に浸かってるみたい。気がつくと、本当に白濁色をしたお湯の中にいた。岩っぽい露天風呂は海の近くの高い場所にあるようで、私は1人、お湯に浸かって水平線を見下ろしている。 正直、最高の気分だ。 このまま何もせず、この景色だけを眺めていたい。で

          寝れるカモミール 12

          寝れるカモミール 11

          山は、白い紙袋を持ったまま話し続ける。 「あの、あのね、あの日からまぜそば屋さんのまぜそばがなんだかちょっとおかしくてね、お店も休みがちになって、マカデミアンナッツは美味しくても、なんだかやっぱり違う気がして、ね、でもやっぱり、美味しく食べてたし、劣化とかじゃなくて、なんかちょっと違う気がするって感じたくらいなんだけど、でも、もはやあの人が作ったまぜそばを100%信じて求めてる自分がいるから相変わらず営業してる日は毎日食べてたのね、ね?」 このまま、山の話を聞き続けて理解

          寝れるカモミール 11

          寝れるカモミール 10

          絶対に泣いている。 幼馴染が母と腕を組んで真っ直ぐ前を見たまま泣きながらこっちに向かってくる。反射的に2人の元へ走る。 「え?なに?どうしたの?大丈夫?なに?」 「足、あいかわらず早いね(;;)」 「え?そうかな?え?大丈夫?」 「まあまあ、私ちょっと片付けたりしてくるから、お茶とかやってあげて」そう言って母は、家に入らず植物園へ戻って行った。 「公園行ってたの?」 「そう、久々に」 いつの間にか、山が泣き止んでいて安心する。 「そっか、全然変わってなかったでしょ、

          寝れるカモミール 10