Naked Desire〜姫君たちの野望

ジリジリジリジリ──
枕元の目覚まし時計が、けたたましく鳴る。
「う、う、う──ん」
私─神聖プレアガーツ=ホッフンヌング連邦帝国グラーツ大公国第一皇女エルヴィラ・ジャンヌ・マリナ・カーリン・フォン・ゾンネンアウフガング=ホッフンヌング─は、目覚まし時計のベルを止めると、ベッドの中で思いきり身体を伸ばした。
上半身をゆっくりと起こすと、気のせいかまだだるい。
しまった、夕べのお楽しみは、1回だけにとどめるべきだったか。
私は寝ぼけ眼で、ベッドのキャビネットに置かれてあるデジタル時計を見た。
今日の日付は、2825年5月18日木曜日。
時計の時刻は、6時45分を示している。
「うわ、寒い!」
立体表示機のスイッチを起動して温度計を見ると、室温は10℃前後だった。
どうりで、布団をかぶらないと我慢できないほど寒いわけだわ。
8世紀前に発生した地球温暖化の影響で、私が住む首都グラーツも、朝晩と日中の気温差は大きい。そのため5月になっても、部屋の空気は冷たい。
寒さに弱い私は、空調スイッチをオンにする。
せめて部屋の空気が、温まってからベッドから出ようかな……。
再びベッドに横になり布団をかぶると、私は夢うつつの状態になった。
暖かいお布団、気持ちいいなあ……。
ベッドの中でゴロゴロしているうちに、いつの間にか私はウトウトしてしまったらしい。
心地よいこの空間で、私はどのくらい惰眠を貪ってただろうか?
何者かが、バタバタと大きな足音をたてて、私の部屋にやってくるのが、私の耳に飛び込んできた。
その人物は、私の部屋のドアを勢いよく開け、部屋の中に入ってきた。
「おきろおきろおきろ──!! いつまでウダウダと布団の中でまどろんでいやがる! いい加減にベッドから出てこいこのバカ皇女!!」
怒鳴りながら、私の部屋に入ってきた女性は、オルガ・エリザベータ・リイナ・キャスリーン・デア・ラドスラヴ=ネマニッチ、愛称はリジー。
気性が荒くて口も悪いが、これでも私と同じ皇女であり、父方の従姉妹だ。今はもろもろ事情があって、私の屋敷で一緒に暮らしている。
オルガは私がかぶってる布団を掴むと、無理矢理布団を引き離そうと強引に引っ張った。
私は布団を掴みながら
「やだよー! まだ部屋の中は寒いんだもん! 部屋があったまったら起きるからさー」
と、私が布団の中でごそごそしながら叫ぶと、彼女は顔を真っ赤にして
「ふざけるな!」
と一喝した。
「いい年こいて甘ったれるなこのバカ皇女! なんのために目覚ましをかけているのかわからんだろうが!!」
と私の耳元で大声で怒鳴りつける。
私が布団の中でグズグズしているのは、理由がある……私は、素っ裸のまま布団をかぶってベッドの中にいたのだ。
こんな姿をこのやかまし屋に見られたら、どんなことになるのかとたまったものではないと、私は必死で布団にしがみつく。
だが私の必死の抵抗も、彼女にはまったく通じなかった。
「まぁぁりぃぃなぁぁぁぁ! おーきーろー!!」
と、眼を細めてすごんだ彼女は、無理矢理布団を引き剥がした。
次の瞬間、彼女が見たものは……
「……オイ……マリナ……」
素っ裸のまま、ベッドの真ん中で身体を「く」の字に折り曲げている私の姿を見たオルガは、そのまま絶句した。
いくら同性かつ従姉妹とはいえ、こんなあられもない姿を見られたくない。せめてもの抵抗とばかりに、私は両腕で胸を隠す。
「ははーん……マリナが抵抗したのは、それが理由でしたか」
オルガが野卑た表情を浮かべながら、視線をこちらに向ける。
今彼女が目にしている光景は、私のはしたない姿だけではない。
部屋のゴミ箱は、使用済みのコンドームとティッシュが溢れていた。
隣のベッドのシーツは、しわくちゃなままだ。
ベッドの上には、男物のガウンや下着が、乱雑に散らかっている。
これらの情景は、オルガが「夕べの営みは、さぞかし激しかったのでしょうね」と察するのに十分な材料だった。
「『かわいい顔してあの娘、わりとやるもんだね』と世間は言うけど、アンタもそうだったとはね」
フーッとため息を吐くと
「普段は真面目くさった表情なのに、アナタもヤる時はヤるのね」
その視線には「いつも私に口うるさくいっているのに」という、不満の表情がありありと浮かぶ。
「オルガにそんなこといわれたくないわ」
私も、負けじと言い返す。
「私だって、好きな男に身を委ねたいと思うわよ。いけない?」
「好きな男、ねえ」
クックッと笑い声をかみ殺しながら、オルガが答える。
「アナタとウワサになった男は、皆『だめんず』ばかりじゃない。少しは男を見る目を磨きなさいな」
冷ややかな口調で放たれた言葉に、私も言い返す
「なによ食客のくせに」

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