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佳い本

とにかく最初は、その絵が綺麗で、その線の美しさに惹かれて、初めて入ってみた小さな本屋で、ドキドキして、少し店内が混んでもいたので、次に来た時に買おうと心に決めて、翌週またジムのプールの帰りにその本屋「本と羊」に寄ってみた。

土日に作者のイベントを控えてか、天井近くの壁にその「菓の辞典」のページが拡大され(原画だったのかも知れないが)、いくつかパネル展示されていて、つくづく素敵に思えて、すぐに1冊手にとって、もう1冊別の薔薇が表紙の本も気になっていて、2冊抱えたまま、ようやく落ち着いてゆっくり1周本棚を眺め回して、また更に欲しい本があったけれども、ケーキも買い込んでいたので、ソワソワしながら、お会計を済ませて、帰路に着いた。

お菓子の辞典というと、大抵はそのレシピ本だったりすることが多いが、こちらはその名前の由来や成り立ち、発祥地や歴史に重きが置かれていて大変興味深く愉しい。シェフの飽くなき試行錯誤から生み出される名菓には、面白い創作秘話など諸説あり、失敗から誕生したケーキも多い。

お菓子だけに、いと、おかし。おかしな話が詰まっている。タイトルを初めはおかしな本としていたが、誤解を恐れて差し替えた。まつわるこぼれ話も囲みで豆知識的に編集され、ほぼ1ページずつに書かれた解説も夥しい情報を下敷きに簡潔にまとめられていて、読み物としても実に素晴らしい。甘いもの好きはやはり、文章が巧い。編集やデザイン、本の装丁も美しく、感心してばかりの、まさに佳品と呼ぶにふさわしい本だった。年末年始のまったりした時間に美味しい笑顔を引き出してくれて、ありがとう。


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