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「人のために料理を作る」ということ

人のために料理を作るということ。
私は正直わかっていませんでした。


今まで料理家として25年以上、千を越えるレシピを作ってきました。
商品開発や料理教室も数えきれないほどやってきました。

でも、夫は私の料理をあまり好きではありませんでした。
今思えば独りよがりの料理だったのだと思います。

料理家としてのプライドもありました。
自分の料理が全然受け入れられない悔しさ、悲しさから
家ではほとんど料理をしなくなりました。

私の仕事が忙しかったこともあり、夫は何も言いませんでした。
それでもたまに「何か作ってくれない?」と言う時もあったのですが、
「私の料理は好みじゃないだろうから、何か買ってこようよ。」
と嫌味の言葉を返したりして。
意地になってました。これ以上傷つきたくないよと。


私は東京生まれの東京育ち。わりと醤油の効いた味が好きです。
夫は九州育ちでかなり甘めの味付けが好き。
しかも長年住んだ東京では365日外食のみで、好き嫌いも多い人です。
生まれ育った環境で好みの味が違うのは仕方ないけれど、
それでもそこまで言われるのは納得がいきませんでした。
「きっと、この人は偏食だから味がわかんないんだろうな」と思うしかなかったです。


1年少し前に体を壊し、仕事をやめ、少し休養していました。
何ヶ月か経つと「時間もあるし、ちょっと何か作ってみようかな」
という気持ちが芽生えてきました。
でもそれは自分がお昼に食べるための簡単なスープなど。
気持ちを込めて丁寧に作ったスープはしみじみ「おいしいな」と感じました。


そのうち夕飯もたまになら作ってみよう。と少しだけ作り始めました。
それでも文句のつかない、ごはんを炊くことと、せいぜい味噌汁くらい。
あとはレタスなどちぎるだけの生野菜のサラダとか。笑
メインのおかずは夫に好きなものを買ってきてもらっていました。


そうして毎日少しずつ料理(と言えるかわからないもの)を作っていくうちに、「相手は何が好きなんだろう?」「美味しいと言ってもらうにはどうしたら良いのだろう?」ということをなんとなく考えるようになりました。

その時はじめて、今まで「人のために作る料理」をしてこなかったということに気づきました。だって、そんなこと考えたこともなかったから。
自分がおいしいと思う料理をただ作っていたのだと思います。
小松菜はこのくらいゆでるのがベストとか、醤油とみりんのバランスはこれが一番とか、全て「私基準」でした。


今までの夫は「おいしくない」とか「好きじゃない」ばかり言う人でした。
それが嫌で料理をしなくなったのですが、
それからは夫の食べる様子を見るようになりました。
「これは好きそうかな?」「これは苦手なのかも?」とか。
「お味噌汁に卵が入っていると嬉しそうだな」とか。
見ているとだんだんわかるようになってきました。

そうやって料理をしていくと不思議と夫の態度も変わってきて、
「ごちそうさま!」と手を合わせるようになったり、
「美味しかった」と言うようになってきました。

そしてついには「洋食屋で食べるハンバーグよりうちの方が全然おいしいよ。」
とまで言いました。これにはびっくり!
最近は「次はあれが食べたい」とかリクエストもしてきます。


その昔「料理は愛情!」と言うフレーズがありましたが、
心を込めて料理をすると言うことがはじめてわかりました。
「心を込める」ってちょっと抽象的だけど、
相手をよく見て「これは好きかな」とか「これは喜んでくれるかな」と言うことを想像しながら作ることなのだと思います。

忙しい毎日、そんな丁寧にはやってられないよ。と言う気持ちもわかります。
でもちょっとした気持ちで関係がよくなることもあるんだなと言うお話でした。

最後までお読みいただきましてありがとうございます。


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