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ほんだな

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読んだ本(映画)のメモ、よかったフレーズ、考えたことなどを書いたnoteのまとめ。本や映画にまつわるほかの方のnoteも時々追加します。「ほんだな」ですが、映画やドラマなどの感想… もっと読む
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記事一覧

『ラーメンカレー』(滝口悠生著)書評|ラーメンとカレーは別々がおいしい

* 本のタイトルに少し違和感があった。「ラーメンカレー」という料理はあまり見かけない。人気の料理のコラボレーションなのに、よく考えると不思議だ。 この本には、とある2人の結婚式に出席した人々のストーリーが第三者視点で描かれている。前半は、仁と茜夫婦。後半は窓目君。結婚をした2人はけり子とジョナサンといい、仁と窓目君、そしてけり子は高校の同級生だ。 結婚式のあと、仁と茜はイタリアにいる由里さんに会いに行く。由里さんは茜の友人で、ブラジル人の夫チコと娘のハル、夫の母とペルー

『東京都同情塔』(九段理江著)書評|言葉の綾

* 「寛容である」ことは良いことで、「不寛容であること」は悪いこと。そう言い切れる人はどのくらいいるだろうか? 2020年に予定されていた東京オリンピックは、世界的なパンデミックの影響により翌年に延期。オリンピックに合わせて建てられた国立競技場は、当初の計画にあったザハ・ハティドのデザインが白紙になり、代わりに隈研吾の案が採用された。しかし作中では、予定通り2020年に東京オリンピックが開催され、ザハ案の国立競技場が実現。そのありえたかもしれない世界には、物語の鍵を握る建

『目をあけてごらん、離陸するから』(大崎清夏著)書評|自由への旅路

* ページをめくるごとに、まるで作者と一緒に旅に出ているよう。エッセイ、日記、小説などのさまざまな文章を通して作者が見てきた世界に入っていく。 「ミニシアター系の映画を浴びるように観てきた」という作者は、新卒で入った人材派遣の会社を辞め、27歳で映画宣伝を中心に扱うウェブ制作会社に入る。仕事で携わった2010年のフランス映画祭のために来日したジェーン・バーキンは、まるでおまじないのようなメッセージをティーチ・インで日本の女性へ伝えてくれたという。 自由になれ、自由になれ

『うるさいこの音の全部』(高瀬隼子著)書評|自分の声が聞こえない

* ジャンラララ、ジャンラララ。周りの音が大きくなるほど、自分の声が消えていく。自分の声がわからなくなる。本当はもっと、本音を聞いてほしいはずなのに――。 主人公の朝陽は学生時代からアルバイトをしていたゲームセンターで正社員となり、その傍ら小説を書いている。ペンネームは早見有日。有日の著書『配達会議』がテレビで紹介されると、朝陽の周りに大量のさまざまな声が届き始めた。 「小説家の人たちってやっぱり独特の目線で周りを見ているわけでしょ。社会や人間を書くわけだから。いや、ぼ

『おいしいごはんが食べられますように』書評|嫉妬のスパイス

* この話に出てくる食べ物は、なんだかあまり食欲をそそらない。食べ物とともに描かれる、どこかに泥を含んだような人間関係が、本来おいしいはずのものに不調和な隠し味を加えてしまっているような気がする。 物語は、とある会社で働く二谷と、後輩女性の押尾といった人物視点から交互に綴られていく。彼らの話題の中心にいるのは、2人と同じ部署の、いつも笑顔で優しい女性の芦川。彼女は身体が弱くて、仕事ができない。残業が2日以上続くと体調を崩すし、大声を出して怒る人が苦手だから、ミスをしても謝

『ハンチバック』書評――「健常者」という仮想敵に向けて

* <生まれ変わったら高級娼婦になりたい> <普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です> 首をかしげたくなるようなツイートを続ける井沢釈華。10代の頃に全身の筋力が低下する難病・ミオチュブラーミオパチーを発症し、背骨は右肺を押しつぶすかたちでS字のように湾曲をしているという。両親には相当の資金があったようだ。身体の不自由さはひどいものの、死ぬまでに必要なお金なら揃っているらしい。 そんな彼女は両親が遺したグループホームの一室で、通信過程の大学生となっ

ストーリー以外の映画の楽しみ方

思いつきで映画『鬼滅の刃』を見てきた。 私の鬼滅ファン度はそこそこ。アニメはAmazon primeで2度ほど見て、続きが気になり無限列車のストーリーから最終巻まで漫画を買った。それも2回ほど見た。漫画ではホロリと涙を流す場面もあるけれど、『リアル』を読んだ時の号泣具合と比べたらあくび程度。けれど内容は面白いと思っているし、ちょっと独り言多めで、鬼との闘い中に「長男だから我慢できる」なんて思っちゃう炭次郎が愛らしくて好きだったりする。 とはいえ“そこそこ”なファン度だった

2020年に買った46冊

46冊。これが多いのか少ないのか。前年比がなくわからないけれど、本への投資は着実に増えている。 以前は「1冊読み終えないとほかの本を読んではいけない」という謎のマイルールに縛られていて、難しい本に1冊でもあたればすぐに読まなくなってしまっていたけれど、ここ数年はそのしがらみから解き放たれ、「とりあえず買っておいて気になったときに読むでもいいよね」と気軽に手を出している。 それでも、kindleの読み放題にあるものを読んだり(そのおかげで水野敬也さんが大好きになった)、試し

"記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う"

年表上の出来事を淡々と覚える歴史の勉強が、すごく苦手だった。先生が一生懸命、流れにして教えてくれても、なんだかいまいちピンとこなかった。 当時の自分はきっと、歴史が起こった背景や、その時を生きる人の心の揺れ、共感できる考えなどが見つけられず、ただ単純に「覚えるもの」としかとらえられなかったのだと思う。 * "人は記憶をなかなか引き継げない。だから僕たちは記録を大事にする。しかし、記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う。" (「映画『タクシー運

ちょっと大変でも、こう唱えて。「背伸びしなきゃ見えない景色がある」

水野敬也さんの書籍は、ちょうどよくゆるい。どの本にも名言がたくさん書かれているのに、おもしろ要素で固くなりすぎなかったり、とろけるように可愛い写真で飽きさせない。 ずいぶん前に買ったこの本も、パラパラとめくって元気を出すのにぴったりだ。 愛らしい猫の写真と一緒に名言と、世界各国の著名人のエピソードがこの本には書かれている。 「背伸びしなきゃ 見えない景色がある」 これは、猫が一段高いところに上って遠くを見ている写真と一緒にあった言葉。映画監督のスティーブン・スピルバー

「すべきか」ではなく、「したいか」を大事に

「こんな課題に気づいたから、自分はこう動くべきだなと思っていて……」 会社でのこと、家でのこと、自分がすべきだと感じていることをゆうすけ先生に話していた時、先生は「やりたかったらやればいいよ。趣味程度に考えていいんだよ」と話した。 そんなふうに考えていいのかと、その時は見ている景色が変わったかのように感じた。「すべき」ばかりにとらわれて、自分の気持ちは「やりたい」のか、「やりたくない」のかなんて考えていなかったのだ。 「大事にすべきか」どうかではなく、あなた自身が「大事

悩んだら唱えたい。「八方ブスより良くね?」

文章に精通している人からのオススメは間違いない。あぁ、あのとき私に余裕があれば、これを読んで気持ちが浮かばれたのかもしれない…! 仕事に追われて倒れるギリギリ寸前のところで、「これ、読んでみるといいですよ」と紹介してもらったマンガがあった。グラマラスな女の子が描かれた表紙が私の目に飛び込む。あああ、読みたい気持ちはあっても余裕がない。ふあああ……。 そしてパタリと倒れた私。オススメされたマンガはドラマ化され、人気を集めた。けれど結局、それさえも見ずに今に至る。 先週、そ

外出自粛中に見た映画30本から5本を選んでオススメしてみる

ステイホーム中のおうち時間に映画鑑賞は、たぶん人類の8割くらいはしていたことじゃないだろうか。 例外なく私もここぞとばかりにコンテンツ漬けの日々を送ってみた。1年で片手で数えられるくらいの映画しか見ていなかった3年前の私からすると、今年に入っておよそ30本見ているのは驚異的な数字だ。いつもはfilmarksのアプリで簡単に感想をメモするだけだったけれど、すきなマンガのnoteを書いたら想像以上に自分の好みを知る機会になったので、外出自粛中に見て誰かにオススメしたいと思った映

「サイダーは親しくなれない憧れの友達みたいだった」ー寝る前に読みたい1冊

小・中学生の頃、年に数回、写生大会があった。 おおきな画板をもって好きな風景を選び、近くへ腰かけ、えんぴつで風景を下書きしていく。どうやったら目の前に広がる景色を1枚の画用紙の中に収められるのだろうかと、書いては消し、書いては消し、やがてあきらめて適当に線をひっぱった。 そして水彩絵の具で色付けをしていく。当時の私には嫌いな作業だった。水っぽいその色は見たものをそのまま映し出さないし、ぼんやりとしていてうまく塗れない。濃く塗ろうと何度も重ね塗りをしては、ざらざらの紙に吸収