魔境とシャバと、窓のない部屋

「窓のない部屋から外に出た時、晴れててすごく気持ちのいい風がふいていたり、会社や学校に行く人たちの波に入ってしまったりすると、『あぁ、ちゃんとしなきゃ』って思うよね」と友人が言った。「ちゃんとしなきゃ」はその時々によって違うらしい。ひたすらランニングがしたくなったり、猛烈に英単語を覚えたくなったり。

「シャバに戻ってきた感じがするのかな」と、最近覚えた仏教用語を使ったら、「窓のない部屋は魔境かもね」と返ってきた。

魔境。初めて聞く単語だ。意味を教えてもらうと、「座禅中、自分が仏と同じような力をもつ人間だと思い込んでしまうこと、そう思わせるような邪悪な世界、状態」のようなことらしい。「仏を見たら仏を殺せ」とも言われているほど、と聞いて衝撃を受けた。殺生禁止とまで言う世界で、そんな過激な言葉を聞くとは思わなかったからだ。

「自分が能力のある人間だ」と思い込んでしまうことなら、人間だれしも経験があると思う。著名人と知り合いだとか、有名な会社に属しているとか、周りのステータスと同じものが自分にもあると勘違いしてしまうこともまた、“魔境”の一部だろうなと思う。

魔境の中にいる時は、誰かから認められたような、満たされた気持ちでいっぱいになるだろう。「自分は大丈夫」と自信もつく。それはとても気分のいいことだし、どんどん没頭してしまいがちだ。けれど、そんなおごり高ぶる"自分を殺し"て、今の自分に集中しなさい、というのが仏教の教え。「仏を見たら仏を殺せ」に入っているのかもしれない。


ちなみに、「窓のない部屋」とはラブホテルのこと。あの中に広がる「魔境」とは、一体どんな世界を指して、言っていたのだろうか。

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