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秋ナスは嫁に食わすな

実家の食卓に出てきたナスが、永遠に食べ続けられそうなほどおいしかった。

油のいらない特別なフライパンを使って、めんつゆで焼いたらしい。味が程よくしみこみ、口当たりがなめらかで、思わず「これおいしいね」と母に話しかけた。すると母から、不思議な言葉が返ってきた。

「『秋ナスは嫁に食わすな』って言うくらいだからね」

嫁に食わすな?

どういうこと? と母に聞いてみると「秋ナスはおいしいから、気に入らない嫁には食べさせないってことだよ」とのこと。嫁姑問題について、私の母はかなり悩まされていたけれど、私の家族に限ったことではないらしい。いじめみたいな言葉が広く一般的に浸透していたのかと思うと衝撃だった。調べてみたら森鴎外の小説にも嫁姑問題の言及があるくらい。昔は当たり前のように頻発していたのだろう(もちろん今も発生しうる話だけれど)。

しばらく脳内をこの言葉が占領して、「昔はみんな大変だった。むしろみんなそうだったから、ある程度は我慢できたのかもしれない」と考えていたけれど、ふと「大多数の人がそうだとは言っても、違う人だっているよなぁ」とも思い始めた。それは昨日のnoteがきっかけでもある。

広く一般的には結婚を焦るアラサー女子。(ちょっと古いけど)タラレバ娘や東京女子図鑑を見て、“世の中のリアル“だと思うくらいには「結婚したがるアラサー」は常識だ。けれど例外なくすべてそれだと言い切って話を進めてしまうと、息苦しくなる人も出てくる。この世界において、「すべて」なんてものは存在しないのではないか。

「秋ナスは嫁に食わすな」

世間一般に言われていることを知りつつも、嫁にだって率先して食べさせたいと思っている姑のことを思いながら、最後の秋ナスをほおばった。


去年の毎日note


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