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公立幼稚園廃園に向けた、政策形成における現状分析について

はじめに

今回、流山市幼児教育支援センター附属幼稚園の廃園方針に対し(市の考えは「こちら」)市民の方々から以下のご提案とご指摘をいただいており、議会を通じて審議がされておりますが、残念ながら市民の方々が納得できる説明がなされたとは言えない状況です。

【指摘】
①隣接地に公立保育園と市立幼稚園と併せて、認定こども園化すること
②10月26日の教育委員会会議(「こちら」)、について、公立幼稚園の廃園理由の政策形成において現状分析が欠如している

しかし、本来、子ども・子育て支援新制度の下、子ども・子育て支援法第61条に基づき、教育及び保育の「需要の見込み」、「確保すべき内容」、「実施予定時期」を明記した子ども・子育て支援事業計画を各市町村で策定し、その計画に沿って施設の整備を進める必要があります。これは、国や県からの補助金を受け取る上での計画的な行政運営が求められるためです。

流山市では、平成22年に17園だった保育園の数が令和5年には107園に増加し、13年間で約100園近く増えました。この結果、待機児童問題は解消されたこと、また、令和元年10月から始まった幼児教育・保育の無償化や、保護者の保育に対するニーズの変化があります。
一方、流山市幼児教育支援センター附属幼稚園は在籍園児数が減少の一途をだどっており、令和6年度は定員60名に対し22名になりました。

パブリックコメント資料:流山市幼児教育支援センター附属幼稚園の廃園方針より「こちら

この在籍園児の減少に関する市の考えについて(政策形成過程における現状分析の基盤)十分な答弁が無かったことは残念です。
しかし、私は、この公立幼稚園の実践が悪くて定員割れしているのではなく、外部環境の影響が大きすぎるため、市は存続を選択できないのでは?と感じてきたことも事実です。それが共有されないまま意思決定が進むことに、いち議員として違和感を感じましたので以下の点から調査したものを共有します。
※情報はホームページやヒアリングなどで入手可能な範囲に限定されること、いち議員としての行動であることをご了承ください。

調査項目は以下です。
(1)保育園および幼稚園の需要
(2)認定こども園への移行に伴う建設費及び運営費
(3)国の政策が現状に与える影響
(4)3年制保育を提供している公立幼稚園の現況


(1)保育園および幼稚園の需要

「第2期子どもをみんなで育む計画〜流山市子ども・子育て支援総合計画〜」を確認すると、北部地域での令和6年度の整備予定数(必要定員)は0です。令和6年度には新たな施設の整備計画はございません(令和5年度には1園が開設済み)。

第2期子どもをみんなで育む計画~流山市子ども・子育て支援総合計画~「こちら p.18」


保育園の需要について、流山市の現状を踏まえた整理は以下の通りです。

流山市の保育園は、空きが目立つ状況です「こちら」。この結果、保護者は待機児童の問題に直面することなく安心できるようになりました。しかし、保育事業者にとっては逆の影響を及ぼしており、定員に満たない状態が続けば、事業継続が困難になる恐れがあります
実際、この点については数年間にわたり、心配する声が保育事業者からもいただいています。

保育施設の空き状況について(令和6年4月入所)「こちら

幼稚園の需要:定員の100%に達している園は少ない

2023年3月初旬に流山市内の私立幼稚園に対して行ったヒアリングでは(全部ではありません)、定員を100%満たしている園は少数で、中には充足率が30%台の園も存在しました。これは、私が議員になった当初、保護者から頻繁に耳にした「プレ保育に入れない、、どうしよう・・」というご心配の声をいただいた環境からは大きく変わっています。
今後の運営については、一部の園では「問題ない」との回答もありましたが多くの園で「厳しい」とお答えもいただきました。既に3年保育を実施し、送迎バスの運行や給食の提供などのサービスを提供しているにもかかわらず、定員割れの問題が発生しています。さらに、今後は将来的に子どもの数が減少することから、この外部環境に対する不安な声を聞くことができました。
また、なにより一番重要なことは、子どもをどこに預けても良いということではなく、保護者がその子にあった保育園・幼稚園を選べるように、相談窓口こそ行政で用意すべきであり、私立幼稚園とももっと連携してほしい、ということでした。

(2)認定こども園への移行に伴う建設費及び運営費

皆様からのご提案を受け、他の自治体における公立認定こども園の整備実績(将来の整備計画を含む)を参考に、建設費と運営費の推定を行うことにしました。

最近建設された(予定)含めた公立の認定こども園について

設立費用について

現在の幼児教育支援センター附属幼稚園と江戸川台保育所の合計面積は1,412平方メートル、定員は合わせて180名(幼稚園60名+保育所120名)です(出典:流山市子育て支援施設の個別施設計画)「こちら」。

① 新設・同じ面積での比較

枝幸町立枝幸認定こども園のように同程度の面積で新設する場合総事業費は約10億円です。国庫補助を差し引くと、約8億円が自治体の負担になります。子ども家庭庁の就学前教育・保育施設整備交付金は、理論上国からの補助が全体の約1/3とされていますが、「こちら」で示されるように、実際には名目上の国庫補助を超える建設単価の設定により、実質的な補助は約1/5程度になる可能性があります

②新設・同程度の定員での比較


同程度の定員で新設する場合でみてみると、総事業費は約13億円で全額自治体負担になる京丹波町立たんばこども園のような園もありました。国庫補助の申請条件が厳しいのか、自治体によっては補助額が異なるようです。

③改築の場合

改築費用は新築の約60%とされています。この割合を基に計算すると、枝幸町立枝幸認定こども園の場合は約4.8億円(約10億円×0.6×0.8)、京丹波町立たんばこども園の場合は約7.8億円(約13億円×0.6)(※実績ベース)です。改築でも高額です。

運営費の検討

①公立認定こども園の運営費

では建設後の維持費用について試算を試みます。
こちら」のp.14、p.93~から認定こども園3園(たんばこども園(定員180人)、みずほこども園(定員100人)、わちこども園(定員90人))から運営費から、以下のように推定されます。

  • 認定こども園費用合計: 450,239千円(子ども園運営事業、施設管理、給食費、人件費(市職員30名、会計年度職員(フルタイム3人、パートタイム60名)))

  • 認定こども園利用料: 9,583千円

  • 国庫補助: 40千円(公立の国庫補助は少ない)

  • 自治体負担分: 440,616千円

たんばこども園の運営費、440,616千円×(180定員/370定員)= 214,353千円(約2億1435万円)と概算することができます。国庫補助が少ないため、実質全額が自治体の負担になっています。

②私立保育園の場合

流山市の私立保育園や私立認定こども園の運営費にはばらつきがありますが、原則として「運営総額 - 保育料 = 委託料」となり、私立の場合、国が1/2、県が1/4、自治体が1/4を負担します。例えば、委託料が2億円であれば、5千万円が自治体の負担となります。しかし、各自治体が保育料を独自に低く設定しているため、実質的な負担割合は約1/3(約6千6百万円)になりるなりますが、公立より大分低く抑えられるのが現実です。
一番運営費がかかる0歳児の保育には月に約27万円とされ、保護者から徴収される保育料を引いた残額が税金で賄われます。保育・教育を支えるということは大変お金がかかることなので、その分、行政の選択責任が問われます。

(3)国の政策が流山市に与える影響

幼児教育・保育の無償化の影響

令和元年10月1日から、幼児教育・保育の無償化が施行されました。この制度により、3歳から5歳児クラスを対象とする保育園、幼稚園、認定こども園等の保育サービスの利用料が無償化され、さらに住民税非課税世帯に属する0歳から2歳児クラスの子どもたちも無償化の対象になりました。保護者にとっては経済的負担の軽減につながる一方で、保育料の補填は税金によって賄われるため、特に子どもの数が多い流山市のような自治体では、その影響は無視できません。税金の効率的な運営がより一層求められる状況です。

国全体で待機児童の減少

国内の子どもの数が減少している上に、受け入れ施設の増加により、全国的に待機児童数は大幅に減少しています。以前、流山市への転入者数が増えたのは、他の自治体における待機児童問題を避けるため、流山市にある保育園に入所を希望する家庭が多かったという側面もあります。
しかし、すでにその影響は期待できなくなりつつあるということでしょう。

保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)「こちら

学校基本調査の結果によると、幼稚園の数は減少傾向にあります。令和5年度には、公立幼稚園が前年度比で166園減少しましたが、公立の認定こども園は35園増加しています。それにも関わらず、私立の認定こども園の数はさらに増えている状況です。流山市の状況は他自治体とは異なるとはいえ、全国的な傾向を抑えておくことは重要です。

学校基本調査(R5)「こちら

(4)3年制保育を提供している公立幼稚園の現況

以前、市民の方から、幼児教育支援センター附属幼稚園が2年制保育であることが、園児数の増加につながらない一因だと指摘されました。3年制保育への移行は、新たな教室の確保が必要であり、特に公立施設の場合、改修費用の高さがネックとなり、その実現が難しかったと判断したと推測します。
実際に調査してみると、千葉県内の公立幼稚園の大半は2年制保育を採用しています。3年制保育を提供している公立幼稚園を有する東金市も、将来的には廃園に向けた動きが見られ「こちら」のように他自治体事例からもポジティブな今後の展開を見出すことが難しい状況で、この傾向を突破するための具体的な打開策が提案できなかったこともあるでしょう。

(5)まとめ

流山市では、保育園を含む保育・教育施設の整備を、需要と供給の計画に基づいて進めてきました。しかし、新たな保育・教育施設を公立でつくるには、莫大な投資が必要であり、運営コストについては、私立施設の3倍以上に上ること、そして全国的にも待機児童がゼロである現状や、子どもが増えている流山においても、私立幼稚園や保育園で定員割れが顕著になっている状況の中で、市が主導する事業が民間業者への圧迫を招くリスクがあることについて、十分な説明がなされておらず、議会でも議論が深まっていないように感じます。

公立施設では、国・県からの補助は期待できません。これは国政の流れであり、すぐに変えることは出来ません。流山市の責任は、これらの制約条件を踏まえて、流山市全体のお子さんの幼少期の重要な期間をどのようにサポートするか、将来のビジョンを考えながら、限られた資源を有効に活用できる選択をすること、この妥当性についてしっかり説明することです。
もちろん批判だけではなく、議員としても責任ある選択を行いたいと思います。

成長の土台となる大切な発達時期。支援が必要な子どもたちのための豊かな育ちのため、慣れない子育てに戸惑う保護者さんへのワンストップ相談窓口や、民間の幼稚園・保育園への受け入れ支援、子どもたちが近所の保育園や希望する幼稚園に通えるように支援する仕組みが大変重要になりますが、流山市でそれが出来ているかというと疑問です。

また30年以上も改善されていない小1プロブレムに対処する必要性については以前から指摘してきました。
流山市にはこの実践協力教育施設として、幼児教育支援センター附属幼稚園がありますが、この経験を活かすためにも、現場の実践知を教育関係者だけにでなく一般の人々にも伝えられるよう分かりやすく体系化すること、そして市内の保育・教育施設間の連携をさらに強化し、広めていく機能が求められます。
各園、建学の精神や、保育理念も違います。保育・教育文化を超えた共通理解を作るというのは、言うのは簡単ですが、やるのは難しい。

今回、市民の方がこのテーマを公の議題として提案してくださったからこそ、議会でも大きな議論になっています。何より、現場を駆けずり回り、今の流山の就学前後の全市的な課題を整理してくださった議員の方々がいました。
私は、どのような結果になったとしても、この提案については骨抜き政策にならないよう、行政が本腰を入れて取り組んでいけるよう、後押ししていきたいと思います。

(参考資料)今回の経緯資料について

何の話をされているか分からない市民の方々も多いと思いますので、以下、行政側で審議してきた経過のリンクを掲載しています。

・陳情「こちら
・10月26日 教育委員会会議「こちら
・パブリックコメント募集「こちら
・パブリックコメント結果「こちら
・幼稚園協議会「こちら

応援頂けると、他自治体への視察や研修費、専門家にアドバイスを求める、同じ思いを持つ議員さんに直接会いに行き対談する等、活動量を増やすことが出来ます。まっとうな政治を行うためのサポートよろしくお願いいたします。