何にも悪いことしてないのにバツが悪そうだったレジ係の人の話。
近所のスーパーへ買い物に行った時のこと。
そのスーパーは野菜中心のこじんまりとしたスーパーで、
週に1回の売り出しの日には、元々狭い通路に行列ができるようなお店である。
古くからあるお店で新鮮でお安い野菜ばかりなので、老若男女がいつでも買い物に来ている。
その週に1回の売り出しの日。
私の前にママと3歳くらいの女の子の親子が並んで歩いていた。
その親子と同じくらいに入店した私は、
その親子を追いかけるように野菜を見て回った。
狭い店内の上、混み合っていたため、親子を抜かすことができず、
後を追うようにして買い物をすることになった。
野菜を見て回っている時、その子のママはずっと女の子に話しかけていた。
「こっちにきゅうりがあるよー。隣にはナスがあるねー。」
「あ、スイカだよ!美味しそうだねー。」
そんな具合に、女の子が見ている野菜の名前を言いながら、ママは女の子の後ろをついて回っていた。
女の子に野菜の名前を教えながらお買い物しているのかなぁ。
それにしても、ずっとママが喋りっぱなしだなぁと思いながら、
後をついていく形で私はお目当ての野菜をカゴに入れていった。
女の子は、特に言葉を発することがなかった。
興味がある野菜を目で追ってはいたが、
女の子が言葉を発する前に、ママが代弁しているように見えた。
「あ!触っちゃダメだよー、お野菜が泣いちゃうよー。」
と、混雑している店内にはっきり聞こえるように言葉を続けるママ。
それにしても、ずっと喋りっぱなし。
女の子のお話を聞こうとはしないのか。
女の子がお話ししようとしても、それを制してママが代弁する。
そんなふうに見えてしかたなかった。
そのままの流れでレジに並んだ。
当然親子は私の前に並んだ。
レジ前には、消費期限が迫った野菜が、値切られて並んでいた。
その野菜に、女の子の手が伸びた。
その途端、ママが大きな声で言った。
「ダメ!触っちゃダメ!
レジのお姉さんに怒られるよ!
ママは触ってないから怒られないけど、
〇〇ちゃんは触ったから、〇〇ちゃんだけ怒られるよ!
知らないよ、ママは怒られないからね。
〇〇ちゃんだけ怒られるんだからね!」
びっくりした。
引いた。
周りのおばあちゃんたちも引いていたのがわかった。
その親子のお会計の順番がやってきた。
あれだけ大きな声で言葉を発していたんだから、レジの人には丸聞こえのはずだ。
案の定、レジの人は、女の子に気を遣って、笑顔で3歳児に接していた。
「お待たせしちゃってごめんねー」
とニコニコしながら女の子に声をかけていた。
女の子は、ちょっと申し訳なさそうに、上目遣いでレジの人を見ていた。
なおさらレジの人は、
「すぐ終わるからねー」
と、優しく女の子に声をかけていた。
女の子のママは、何事もなかったように会計を済ませていた。
次に私にお会計の番が回ってきたが、
なんだかモヤモヤしながら会計が終わるのを待った。
一連の流れを見ていた私は、そのレジ係の人に声をかけたくなった。
が、何を話せばいいか分からなかったから話しかけなかった。
何にもしていないのに、レジのお姉さんは悪者にされた。
自分の娘を直接注意するのではなく、
レジのお姉さんを使ったのだ。
おまけに「ママは怒られない」と言って、
女の子一人が怒られるんだと刷り込んだ。
それも、公衆の面前で。
その若いママは、サッカー台で買った野菜をマイバッグに詰め、
「何も触っちゃダメだからねー」
と女の子に言いながら、店を出て行った。
レジの人の気持ちを考えると、
「はぁ?」
って言いたくなった。
そして女の子のその後の成長がちょっと心配になった。
あーやって言われて育った子供は、
怒られるからやらない。
という価値観になってしまう。
逆にいえば、
怒られなければ、やる。
のだ。
お店に並んでいるお野菜は、自分のものではなく売り物で、
お金を出して誰かが買って、買った人のものになって、
買った人が食べるもの。
それを触って傷つけたりしたら、お店の人も買おうとする人も
悲しいでしょ。
だから、触らないんだよ。
と、おうちに帰ってから女の子に説明してくれてるといいな。
せめて、
野菜が傷ついちゃったらかわいそうだからね
と、最初にお買い物をしているときに女の子に言ってたことを
今後繰り返してくれたらいいな。
レジのお姉さんが怒るから、って。
どんな理由よ。
レジのお姉さん、飛んだトバッチリを受けっちゃったね。
何にもしてないのに。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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