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五島のことば指導・永井 響さんと連続テレビ小説「舞いあがれ!」

連続テレビ小説「舞いあがれ!」の五島列島編では、主人公の舞ちゃんが島の人たちと触れ合いながら、自分のなかにある大切なものを育んでいく様子や、祥子・めぐみ・舞の、それぞれの母娘の物語が描かれていて、毎回、ほろほろと涙される方も多かったと思います。

そのドラマのなかで、私達、五島の人間が話している五島弁を使って役者さんと共にドラマに命を吹き込んだのが、有川地区出身の永井 響ながい きょうさん(31歳)です。

今回は永井さんのことをはじめ、五島弁のおもしろさや難しさ、そして、役者さんのちょっとしたエピソードなども盛り込んで、ドラマの裏側を少しご紹介いたします。


永井 響さんって、どんな人?

永井 響さん(31歳・有川地区出身)

新上五島町有川地区出身の永井 響さんは、現在、声優やナレーター、そして俳優としても活躍されています。このドラマでは、主人公の舞ちゃんが通っていた五島の小学校の担任教諭、山口邦彦先生を演じられていました。
※水色のジャージを着ていた先生

永井さん曰く、「山口先生は長崎市出身の新任」という設定で、実は五島弁をあまり使えなかったんだとか。その山口先生を演じるにあたり、永井さんの中にある小学校の先生のイメージを集約して演じられていたそうです。

ちなみに、永井さんがどんな少年時代を過ごしていたのか伺ってみると、なんと、舞ちゃんと同じで関西方面から上五島にやって来られたことがわかりました。

永井さん
「僕が3歳のころ、三重県から上五島へ引っ越して来たのですが、父が大阪生まれということもあって関西弁に馴染みがありました。そのため、母の実家のある上五島へやって来たとき、まるで外国語のような言葉を必死になって覚えた記憶があります」。

ドラマでは描かれていませんでしたが、「まわりの人が何ば言いよっか、舞ちゃんも分からんやったばいね」と想像してしまいました。


「舞いあがれ!」との出会い

俳優・松浦慎一郎さん(有川地区出身) / 写真:永井 響

永井さん
「僕が『舞いあがれ!』に関わるきっかけになったのは、同じ上五島出身の俳優 松浦慎一郎さんなんです」。

当初、五島のことば指導のオファーは松浦さんに入っていたのですが、映画やテレビドラマの撮影と忙しく、他に参加してくれる人を探していたところ永井さんに連絡が来たそうです。

なんでも、松浦さんと親交があった永井さんのお父様に「息子さんは俳優でしたよね。五島弁の指導ができる方を探していて、ぜひ、息子さんに参加していただけませんか」と依頼があったのだとか。


方言指導は大変だ

五島弁かるたのシーン /  NHK大阪放送局提供

NHKの朝ドラでは方言指導を担当するにあたり、俳優であることがひとつの条件だそうで、シーンに求められるものを演じ手と同じように理解し、かつ、そのセリフに合った方言を結びつけられる技術が必要なんだそうです。

ストーリーに沿った言葉選びや、その裏に隠された想いを汲みつつも、五島弁に馴染みのない演じ手に発音やニュアンスを伝えるのは大変なことだと思います。

「何ばしよっとね?」とか「ざぁまよ〜」なんていう方言を、シーンの間や流れを踏まえつつ、この五島らしさが詰まった方言をどの様に表現していくのか。いろんな役者さんやスタッフの皆さんと相談しながら進めていったそうです。


標準的な五島弁の模索

上五島で暮らす皆さんはすでにご存じかと思いますが、五島列島は広く、その島ひとつひとつにその地域独特の方言があります。そこで永井さんは、ドラマに出てくる方言をある特定の方言で統一せず、いろんな地域の五島弁を使ってドラマの流れに合ったものを、その都度、選んでいくことにしました。

永井さん
「このドラマは、架空の五島列島を舞台にしたある家族の物語です。そこで話されている方言を考えていたとき、『標準的な五島弁ってどんな方言なんだろう?』という疑問がわいたので、島のさまざまな地域で話されている方言を録音して、『標準的な五島弁』というものを作ることから始めました」。


こうして出来た五島弁集をもとに、標準語で書かれた脚本を五島弁に翻訳していくのですが、その際、わりと軽めだと思っていた五島弁でも「これだと初めて聞く人は分からないかもしれないね」と、舞のおばあちゃん役を演じた高畑淳子さんからご提案をいただいたそうです。

こうやっていろんな方々との試行錯誤の末に、シーンひとつひとつが作り込まれていったのですね。


「およ」への想い

新上五島町公式キャラクターの「あミ〜ご」と「みことちゃん」

ドラマのなかで「およ」がたくさん使われました。同意したときに、頷きながらつい口走ってしまう「およ」ですが、個人的に印象に残っているのは、五島の港に到着したふたりを迎えに来た祖母・祥子さんがぶっきらぼうに言った「およ」です。再会時の母娘の関係を知ってしまっている今、あのシーンを思い出すと泣けてきます。

さて、話は変わりますが、上五島人同士の会話で、まるで歌を歌っているように言い合っている場面に出くわしたことはありませんか?

例えば「およ」ですと、

普通に同意したときの「およ」や、そっけない同意をしたトゲのある「およ」。

激しい同意を示す力強い「およ!」に、最上級の「およさよ!!」。

そして、ある事に呆れてしまい、同意の意思がため息のように出てしまった「およ〜」と「およさぁ〜」。

短いながらも島の人たちが感情豊かに使うこれらの方言に、永井さんは「五島っぽさ」を感じたそうです。

ドラマ撮影の合間に祖父母と一緒に記念撮影

永井さん
「五島の人が話す方言のイントネーションやテンポは、時間がゆったり流れる島の風景や、そこで暮らす人たちのスピードと同化している感じがして、聞いていて心地よかったりします。その心地よさが、なんだか五島っぽいなと」。

そして、この五島っぽさは制作スタッフの皆さんにも伝わっていたようで、「スタッフさんが 『五島って何だか安心感があっていいですね』と言ってくれたときは、本当に嬉しかったです」と話してくれました。


「縁」って不思議ですね

「舞いあがれ!」が始まる前、「五島を舞台にした朝ドラが始まる」という噂を永井さんは耳にします。「故郷が舞台となるドラマに絶対出たい!」と、その意思を事務所に伝えたそうですが、「五島出身というだけじゃ難しいかもね」と言われたそうです。

それが今、いろんな縁が繋がって永井さんは「舞いあがれ!」に携わっています。「何だか不思議ですね」と尋ねると、「自分の生い立ちと重なっている部分もあるので、本当に不思議だと思います」と永井さんは答えてくれました。

それに、「まさか五島が朝ドラの舞台になるなんて!」と、筆者と同じ思いをされた方がたくさんいると思います。私達にとって身近な風景や方言がドラマの中心にあって、そのなかで暮らした舞ちゃんは、いろんな事柄に触れて少しずつ癒されていきました。

そんな五島が誇らしく、また、ドラマを見た地元の方々がテレビから流れる五島弁に反応し、きょうのドラマの感想を五島弁で言い合っているその姿にほっこりしてしまいます。

五島の方言を使ってドラマを紡いでいく永井さん、そして、夢に向かって羽ばたいていく舞ちゃんを、これからもテレビの前で応援していきたいと思います。


取材:佐々田 晋次


【プロフィール】
・永井 響 / 31歳 / 1991年8月3日生まれ
・ナレーター / 声優 / 俳優
・出身 _ 新上五島町有川地区
・趣味 _ 写真
・出演作品
 -- NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』 山口邦彦 役 / 2022年
    -- TVドラマ「こえ恋 」 松原くん(アクター)役 / 2016年
 -- TVドラマ「ワカコ酒 」 白石 役 / 2015年

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