ポトフも独身だったのか。

<「どうやらイタリアに住んでいたらしい。」の続きです。

 この時代のごく一般的な家庭で育った10歳の男の子、ポトフ。アコさんが時計の針を進めると、19歳の彼がみえた。1496年ごろのイタリアだと思う。街に名前に「ナ」がつくが、はっきりとはわからない。

 仕事は、父親が働いていた建物の衛兵らしい。とはいえ戦争があるわけではなく、建物を管理することが役目のようで、鉄の帽子と槍を持って門番をしていた。以前ピクニックをした見晴台にも、同じ格好をした衛兵が数人いる。何か不穏な時代になったのかと思ったが、とくにそういった感じはしない。むしろ、今日の街はお祭りムードだ。

 どうやら花嫁を送るパレードが行われるらしい。そのため衛兵は大忙しだ。ポトフもかり出されていて、門の前で仁王立ちになっている。

 花嫁が乗った馬車が、ポトフの前を通り過ぎる。馬車の中には、幼なじみのナーニャの姿がみえた。ドレスを着て、ちょっと独特で印象的な髪飾りをつけている。

 街の人々はこの結婚を歓迎していた。花嫁はどこかの実力者に嫁ぐらしく、これでこの街は安泰だという。政略結婚だろうか。

 幼なじみのナーニャは、実は裕福な家の娘であった。子どもの頃はそういう事情がわからず、よく一緒に遊んだが、成長して「身分」というものを理解してからは、彼女とはあまり会えなくなってしまった。

 ひさしぶりに見た彼女は、きれいな娘に成長していた。馬車がポトフの前をスローモーションで通り過ぎていく。一瞬二人の目が合ったが、彼にはどうすることもできなかった。

 アコさんが「ポトフは、ナーニャを好きだったのかしら?」と聞いた。

 でもそういう感じはしない。仲良しの幼なじみで、本当の妹のように大事に思っていたんだと思う。ナーニャはそうではなかったかもしれないが、すくなくともポトフにとっては、特別な感情はなかったようだ。

 ナーニャは、現世で次女かもしれない。なぜかはわからないが、そんな気がする。

 さらに時間を進めてみる。ポトフは30歳。

 居間でくつろいでいる。両親はすでに他界したのか姿が見えない。夫を亡くした姉が出戻っており、姉とその息子の3人暮らし。姉が「まったく、結婚もしないで」といっているので、独身なのだろう。『赤毛のアン』に出てくる寡黙なマシューと、小言の多いマリラみたい。

 独身なのは、単に縁がなかったかららしい。仕事は引き続き衛兵をやっている。毎日、淡々と仕事をするだけ。特に趣味と言ったような楽しみもない。友人も少なく、唯一仲良くしていたのは黒い法衣の神父さん。(牧師さん?)

 ポトフの晩年に針を進める。ポトフ70歳ぐらい。

 杖をついていて、白髪、少し痩せているようだ。杖をついているのは老化が原因で、歩くのが不自由になったらしい。特に大きなけがや病気もなくこの歳まで生きることができた。人生での劇的な出来事はなかったが、ポトフにははそれでOKだった。懇意にしている神父さんと家族に看取られて、人生を終える。みんなが「アーメン」と祈りを捧げている様子を、ポトフは彼らの背後から見つめていた。

 アコさんの誘導で、ポトフの人生を振り返ったら、前世とは違う不思議な世界へ行くことになってしまった。催眠も不思議な体験ではあるが、それ以上になんともいえない世界に行くことになった。

 

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