見出し画像

寺でのアート展示に秘策あり。ハロルド・アンカートの、空間演出力がレベル違いだった

古い文化財の建物でアート展。
安直に作品を場の空気感で格上げできるシチュエーションではあるが、ここ京都で頻繁に開催される「寺アート」を見ていると、格上げをねらったものの、「場にボロ負け」でお楽しみ文化祭みたいになってる例も多い。
安直な発想を丸出しにしてしまうのも、お寺の怖さではある。

そもそも古い建物には釘一本打てない制約がある。
作品を畳置きしたり、パーテーションを立てたり布を垂らしたり、とあの手この手が講じられてきたが、今回のハロルド・アンカートの展示プランには
「こんな秘策があったか!」と、とても面白く拝見した。

場の文脈と空気の読み方が、本当に上手いなあ。
これが勢いのあるアーティストってことなのかなあ、と思った次第。


TOKYO ART BEAT と京都新聞2023年11月11日文化欄に寄稿

建仁寺塔頭・両足院の60畳の方丈。一見、室内に設置物が何もないように見えるのだが、垂れ壁に同サイズの長方形のペインティングを掛け、そこに円窓が開いているように描かれている。まるで、だまし絵のようなインスタレーションだ。

ニューヨーク在住のベルギー人アーティスト、ハロルド・アンカートは、昨年、両足院を初めて訪れたとき、玄関の円窓から庭を見たことから、このアイデアを発想した。

描かれたモチーフは松や梅、日本の海岸を思わせる風景もある。抽象と具象の中間のような筆致、日常と非日常の間を揺らぐようなノスタルジックな色彩が、年月を経た和室との一体感を生み出している。

タイトルは、朝陽が昇り、鳥たちがさえずり始める時間という意味の「Bird Time」。目覚める瞬間、人は夢と現実の狭間にいるような状態で、世界のイメージを日常と異なる目でとらえることができる、とアンカート。禅宗寺院で出会った円窓を「異界をのぞくスコープ」になぞらえて、日常からのエスケイプへと誘うのが今展だ。

お寺は本来、仏との繋がりを求める場所だが、寺院でのアート展が増えている今、アーティストを触発し、観客にアートとの縁を結び、作品世界という彼岸へ越境するための場としても期待され、また機能もしている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?