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鳥の死骸

「美しいでしょう?」
彼女が自慢げに指差す先には、鳥の死骸が横たわっていた。
「みんな気持ち悪いっていうんだけど、わたしにはとても美しいの。
見てこの色、骨のラインを。」

骨が見えて羽が取れかかっている鳥たちは、
柔らかな陽が差し込むサンルームにに、きれいに並べられていた。
ぎょっとしているわたしを尻目に、
まるで新しいアート作品を、目を細めて眺めるかのような彼女。
わたしには、何が美しいのかまったくわからない。
ほかの人たちと同じように、ちょっと気味が悪かった。

今日、そんなことをふと思い出していた。
鳥の死骸を並べては見入っている年老いた友人。
歳を経ていくと、見えない美しさが見えてくるのだろうか。
今のわたしには全く見えない何かが、
そのうち見えてくる瞬間があるのだろうか。

死骸が気持ち悪いなんて思うのは、
もしかしたら単なる先入観念なのかもしれない。
自然の造形がそれぞれに完璧な美しさがあるように、朽ちていく鳥たちにも
その行程においての美しさがあるのかもしれないのだ。
そして彼女は素直に、瞬間に変化していくであろう美しさを愛でている。
悪くない境地かもしれないなぁ。

彼女は今でも散歩の途中で、鳥の死骸を両手で包むように拾い上げては
あのサンルームに並べているのだろうか。
それとも今はもっと新しい視線で物事を観ているのだろうか。
この前話した時には聞き忘れてしまった。

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