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第九話 雛菊の文

※雛菊と師匠の過去のお話です。

 小春ちゃん、こんにちは! 先日は文をありがとうございました。

 お二人の祝言、無事に終わったとのことで、御目出度うございます。ああ。私も行ってお祝いしたかったなあ。あの赤い着物を身に纏った綺麗な小春ちゃんの晴れ姿。見たかったです。でも、こうやってお手紙のやり取りが出来るのですから、あれもこれも、欲張ってはいけないですね。前回の手紙で初めて、ひなちゃんって呼んでもらえて、とっても嬉しかったです。様付けだと肩が凝ります。やっと心から、小春ちゃんのお友達になれたように思えました。有難う。
 
 そうそう。一緒に居たときは、色々とあったし。私、小春ちゃんの身の上について、質問ばかりしてました。そして小春ちゃんの手紙を読んで、思い返せば、自分のことは何も話さぬままだったなって、気付きました。失礼でしたね、すみません!

 ご質問頂いた、私がなぜ医者になりたいと思うのか。そして私と譲二のなれ初め。この二点について、お話したいと思います。でもそれには、私の生い立ち等も深く関係しているのです。少し長くなるけれど、そこから語らせてもらいます。とても長いお話になるので、鳩さん達数羽に分けてに手紙を付けることにします。順序がわかるよう番号を振っておきますが、手許に届くのが前後するかもしれません。それも含めて、暫しお付き合い、容赦くださいね。

 話は私の幼少期まで遡ります。あれはまだ、五つ位ではないかしら。

私は、今もですけど、昔からよく変わっているって言われます。不本意ですが、譲二にも言われます。でも冷静に自分の身の上を思い返してみると、確かに変わっているのかもしれません。だって、私。自分の両親の顔も覚えていなければ、死別したというのに、悲しかったということさえ覚えていないのです。

 それ以上に強烈に印象に残っている出来事があるのです。

 私は小さいとき、とてもすごい経験をしたことがあるのです。聞いて驚かないでくださいね。私、神馬。つまり、神様のお使いの馬と出会い、その命を助けたことがあるのです。すごいでしょ。

 そしてその馬が立ち去るとき、私のこう言ったのです。

 ーー君は、将来、医者になるべきだって、ね。

私、今、薬草を育てる仕事や、医者になりたいなどの夢を持っていますけど、思い起こせば、自分の両親、そして祖母も、薬草を育てたり、煎じて売る仕事をしている人達でした。

 けれど、先にも言いましたけど、あまり両親のことを覚えていないんです。私は現在の志摩の辺り、海辺の漁村で生まれ育ちました。その村は魚を採って、それを捌いたり、干したり、加工して、市場でそれらを売り生計を立てていました。けれど自然相手ですから、季節や年によっては、漁にいけない時期、魚が捕れない時もあります。海の傍は、海水、つまり塩水で、稲を育てたりすることは出来ません。ですから漁が芳しくない際の収入源に、薬草栽培の仕事を、祖母はしていたのだと思います。

 祖父は漁師でしたが、なぜか、父母は薬師としての仕事を本業にしていたようでした。そして医者の真似事もしてたのかもしれません。何かの使命に駆られたような人たちで、病人がいると呼ばれれば、薬を持って飛んでいく、そんな人たちでした。だから家には殆ど居ません。そんなですから私も両親の顔を思い出すことができないんです。いつも家にいるのは祖父祖母で、祖母がいつも、困った人たちね。と、つぶやいて居たことばかり、思い出します。

 まあ、両親のことを言える義理でもないんです。私も例に漏れず、普通の子供ではありませんでしたから。年の近いの仲間同士で遊ぶと行ったことが殆どありませんでした。どちらかというと、海に面した近隣の山に一人で入り、木に登り、木の実を?いだり。草木を眺めたり、時に口に入れてみたり。知らぬ植物を持ち帰り、祖母からその効用について聞く……なんてことの方が、楽しい子供でした。

 その年は魚が大漁で、味噌汁に毎日のようにあらが入っていたり、雑魚の刺身ばかりが食卓に上る、夏のある日だったと記憶しています。

 私はいつものように、海に面した山中に入り、木苺をもぎ、食しながら歩いて居たんです。頭上からうるさい位、蝉時雨か降っていたのを鮮烈に思い出します。山中といっても夏ですから暑くって。ふと日陰で休憩を取ろうと思い立ちました。秘密の場所として利用してた、海に面した小さなほら穴で、涼もうと思ったのです。海岸辺りに降りて、さあ、早速入ろうとした洞窟が、いつもと違った雰囲気で、私は驚いて足を止めました。

 洞穴の中に先客がいたのです。しかもそれは人でないと、すぐに分かりました。人にしては非常に大きく、手足が驚くほど長かったのです。そして色は薄汚れていましたが、白色でした。その白色の大きな何かに、私は驚き慌てふためいて、声を上げたのを覚えています。

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