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【小説】人の振り見て我が振り直せ  第1話「チョロいわ!おじさんたち!」

 飯田茉莉花はある市町村役場の施設の管理をしている会社の契約社員をしている。この会社に採用になったのは、19歳の終わりだった。
 何となく行った専門学校を一ヶ月で中退、その後アルバイトをしてたが面倒になって休んで辞めるを繰り返し、男性しかいないが女性でも出来る、という求人募集を見て(女がいない職場が楽だわ)と思いこの仕事を選んだ。
 外見はそこそこ良いために、面接したおじさん達には印象が良かったのか、即採用になった。茉莉花は心のなかで、(チョロいわ、おじさんたち!)としか思わなかった。
 おじさんたちは初めての女性社員の採用だったためか、チヤホヤしてくる。
(なんだかんだいって私は可愛いから、みんな私を甘やかしてくれてラッキー!たいした仕事しなくても給料もらえるし、辞められないわ!)
 
 施設の清掃会社のおばちゃん、前田節子は女子更衣室の掃除をしていた。今まで役場の女性職員と非常勤職員が使っていた更衣室と共同で使うことになった茉莉花のロッカーの名前を見ていた。(新しい女の人入ったんだ。)その時はそれくらいにしか思わなった。 
 翌日、再び女子更衣室に清掃に入った節子は全身鏡が増えているのに気がついた。(ん?備品が増えたんだ。たまに鏡面を拭き掃除しないとだめかな。)
 もともと女子更衣室には昔使っていた応接セットの長椅子が一つ置いてあったので、定期的に拭き掃除をしていた。役場の非常勤職員が昼休みにそこで休んでいるようだった。
 全身鏡は茉莉花のロッカーの右横に置いてあり、そのの横が更衣室の出入り口の扉になっていた。茉莉花の上司が茉莉花だけのために会社の経費で買って設置したようだ。
 
 所長「女の子だから欲しいよねーきっと。僕も同じくらいの娘がいるからわかるよー」
 茉莉花「えぇぇー!ありがとうございますぅ、嬉しいですぅ、やっぱりぃー身だしなみは大事だと思うんですよねぇー、私ぃーそうゆうところはちゃんとしたいんですぅー!」

 同じ契約社員で働く藤由希子は、茉莉花の1年後に同じ条件で採用になり、更衣室にある茉莉花のロッカーを背にして向かい側のロッカーを使用している。
 この会社は制服があるのだが、通勤時に制服を着用することは禁止されており、必ず会社で着替えることになっている。
 由希子は44歳で入社し、茉莉花に比べれば人生経験は豊富な方だ。夫が転勤が多い職場で、結婚してからは多くの地域を夫とともに移り住んできた。子供に恵まれなかったため、専業主婦なんてありえない性分もあり、夫の転勤のたびに、契約社員やパートを見つけては仕事をしていた。転勤族はなかなか採用してもらえないのもあって、比較的問題のある職場に採用になることが多く、メンタルは強いほうだと自負している。
  
 由希子が採用になったときの面接は、募集している職場の所長とそこを管轄するマネージャーの二人だった。
 終始柔らかい感じの面接で、そんなに堅苦しい感じではなかったが、男性の採用を望んでいるようにみえたので、由希子自身はあまり手応えは感じていなかった。
 しかし、その数日後採用の連絡がきた。由希子は拍子抜けだったのだが、向こうは乗り気で採用日などはこちらにあわせてくれるという。他社の面接も何社か受けていたのだが、返事が一番早かったのがご縁だと思い、この会社で働かせてもらおうと決めた。

 採用後の手続きのため会社に呼ばれたのだが、そこにいた所長の話を聞くと、基本的に現場仕事がメインの職場なのだが、事務仕事も結構あり、今の段階では所長がすべて担当しているのだそうだ。しかし、現状は現場のトラブルに駆り出され、日中事務仕事が出来ず、休みが取れない状況を解決するため、現場仕事はそこそこでもいいので、事務仕事の経験豊富な人を探していたとのこと。

 由希子「確認なのですが、本当に女性でも大丈夫なのでしょうか?」
 所長「現在女性職員も1名おりますし、藤さんは過去の職歴から体力もありそうだし、簡単な現場にいって数値を記録する仕事、検査分析の仕事と僕の補助としての事務仕事をメインにしてもらえるのには申し分ないとマネージャーと判断させてもらいました。ですから、気にすることはありませんよ。ただ………………。」

 そう言って、所長は一旦話に間をおいた。由希子は(また問題ありの職場か…)予感はしていたが、まだはじめに話をしてくれるだけマシだと思って明るく聞き返した。

 由希子「なにかありましたか?」
 所長「実は20歳の若い女の子がいるんだけど、まともに働いたのはうちの会社が初めてで、あたたかい目で見てあげてほしいんだよね。」
 由希子「どういうことでしょうか…。まあ私に子供がいればそれくらいの年齢でもおかしくありませんが、この会社では先輩ですので、色々と学ばせていただきます。」
 所長「……。まあ…とにかく末永くよろしくお願いしますね。では、来月1日、現場の施設の方へ来てください。詳しい仕事の説明は現場で説明しますので。よろしくお願いします。」
 由希子「わかりました。お世話になります。よろしくお願い致します。」
 
 会社を後にして駐車場にある自分の車に向かいながら由希子は思っていた。(問題ありはその若い子なんだな。まだ会ってみないとわからないけど、しばらくは当たり障りなく様子を見てみよう。)



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