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『度胸星 続編もどき』_第12話「Q方向」


scene_テセラックと同化する筑前

スキアパレッリ2号の着陸地点に到着した筑前。
一人で念入りに裏返された着陸機を調べる。

裏返された機材から人工重力装置をみつけ、それを取り出す。
そして、持ってきたスキアパレッリ4号の重力装置に必要な部品を付け替えていく。

組み立てた装置をローバーの荷台に乗せ、自動操縦モードにし、自分の周りを周回させる。

筑前「・・・よし、これで重力装置を動かすだけならできるだろう。」
「あとは心の準備だ・・・」

そう言って、岩のない平らな場所で座禅を組む。
うっすらと目を開けたまま、しばしの時間が流れる。

筑前がリモートで重力装置の電源を入れる。
――ウィーーーン、という小さな静音。

火星の荒涼とした風景に風が舞っている。
ただ時間が流れる。

筑前「・・・・・」(瞑想状態のまま「俺は敵じゃない」と何度も想念している)

やがて現れる小さなサイズの超立方体のテセラック。音もなく近づいてくる。そして、重力装置の前で止まる。

筑前(心の声)「止まった・・・装置を裏返すつもりなのか?」

しかし、何も起こらない。筑前は座禅のまま、心に強く想いをイメージする。

筑前(心の声)「俺はお前が知りたい。お前のことを理解したい。」
「俺にお前の世界を見せてくれ。」

筑前が興味を全開にして思念すると、テセラックは筑前の前まで移動してくる。

そして筑前の胸のところで筑前の内側に入っていく。
内側からだんだんと大きくなり、筑前よりも大きく広がって、筑前はテセラックに取り込まれた形になる。

ちょうど夕日がさしている。
テセラックの黒い影が長く伸びており、その中に筑前の形も立体的に浮き彫りにされている。

内から見た世界はフィルターに覆われたようにうすぼけており、三次元の知覚ではよく認識できない。
筑前は目を閉じる。

筑前(心の声)「なんだ・・・この感覚は?」
「・・・そうか、内側が外側へ、外側が内側へと循環しているのか・・・」
「・・・まるで立体のパズルだ。」

テセラックは静かに回転をし始め、次第に加速していく。
回転が速くなると、筑前は自分が高次元と一体化していくような感覚をおぼえる。まるで透明なジェルの中に色のついた水滴を落とし、ゆっくり攪拌しているように。

筑前(心の声)「これが、スチュアートが言うQ方向なのか?」
「・・・合わせ鏡の世界のようにどこまでも続いているようだ・・・」
「空間のあらゆるところに自分がいるように感じるぞ・・・」

実際に筑前は、幽体離脱したときのように、自分とテセラック、それにその周囲を走るローバーの姿を俯瞰で見ることができた。

ふと重力装置が気になり、ローバーのほうに感覚をとぎすましてみると、重力は互いに共鳴しながら空間を埋めていくようだった。まるで、そこに重力を引き寄せる未知の物質が隠されているように。

筑前(心の声)「・・・ああ、重力の音色が聞こえるようだ・・・」

・・・・・

筑前はいつの間にか気を失っていた。
目覚めたときにはテセラックはそこからいなくなっており、ローバーは変わらず周回を続けていたが、人工重力装置は裏返され、機能を失っていた。

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