見出し画像

言葉の使い方

駅前のコンコース、行き交う人の中にキミを探す。土曜の20時。街は色めき、ビルの隙間から下水臭が香る。お世辞にも綺麗とは言えない都会の中に、星屑みたいな煌めきを夢見てる。世間にとって人気な歌手が一年周期で変わっていく。交差点の目前、大型ディスプレイから流れる音楽。先週とはまったく違うことに誰が気づいているんだろう。

ふと、思った。キミと会えないのは、私がこの街の景色と同化してしまっているからじゃないかって。待ち合わせ時間から十数分、「もうそろそろ着く」とメッセージが入ったのがついさっき。人の流れの速さのせいで、時間までもが普段の何倍速もの速さで流れているように感じてしまう。じつはキミはもうとっくに待ち合わせ場所についていて、この人混みの中に私を探しているんじゃないか、なんて考えた。もしもそうだったら、キミは見つけられるのかな。薄手のニット、紺色のワイドパンツ、キャンバストート、世の中の「無難」を詰め込んだ私を。

星屑でいいんだ。それも、キミがわかる程度の輝きで十分なんだ。あの、大型ディスプレイに映る歌手、カラオケのヒットチャート、目線の高さと同じショーケースに並ぶブランド品みたいに、誰にとっても太陽みたいな存在でいたいわけじゃない。世間という銀河の中のほんのひとつの輝きで構わないから。小さくても、目立たなくても、全然いいから。キミにだけわかればいいから。

だから私はそのメッセージに言葉を尽くした。「薄手のニット、紺色のワイドパンツ、キャンバストート。今日は髪をアップにしてるよ、ポニーテール!」

そうしたらほら、

「お待たせ!」

ってキミが駆け寄ってくる。

無難を纏った私だって、キミに見つけてもらえるくらいには光れるみたいだ。言葉を尽くせば。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?