見えない壁にもパンチは効いている【野球に学ぶ#01】

「もしかしたら、逆転するかもしれない」。

試合も終盤。2点を追いかける福岡ソフトバンクホークスを観てそう思ったのは、電光掲示板にヒット数「10」という数字を見たときだった。

予感は当たる。8回表、ホークスの攻撃はノーアウトでランナーが出て、続く中村がヒットでノーアウトランナー1・3塁。続く長谷川選手が犠牲フライを打って、まずは1点を返す。そして9回、今度は1点を追うホークスがまたもやポテンヒットで出塁すると、続くグラシアル選手がレフトスタンドに逆転ツーランを打ったのだ。

こうして、8月22日の日本ハムファイターズvs福岡ソフトバンクホークスの試合は、ホークスが9回で逆転勝利する形で幕を閉じた。

この試合の帰り、私はつい数日前に行われていた第100回甲子園大会、「済美高校vs星稜学院高校」の試合を思い出した。

延長13回、2点差を追いかける済美高校の9番・政吉選手がまずはセーフティバントで出塁するとタイブレーク制度により(今年から導入されたノーアウトからランナー1・2塁のシステム)ランナーは満塁。続く矢野選手が右翼ポールに直撃する逆転サヨナラ満塁ホームランを打ち、済美高校は劇的な勝利を遂げる。

両チームに共通しているのは、最後の最後まで「負けていた」という点だった。そして、最後の最後まで諦めなかった点だったように思う。

***

手に入れたいものに対して困難な状況なとき、「もうやめてしまおうかなぁ」という考えが頭をよぎることがある。ほしいものは明確であるはずなのに「やめる」なんて選択肢が浮かぶのは、どうしてだろう?

それは、手に入れるために壊さないといけない壁が「見えない」せいかもしれない。

もしもあとワンパンチで壁が壊れるとわかっていたら、絶対叩くだろう。あと10パンチでも叩くかもしれない。けれど壁が見えないから、拳をおろしてしまうのだ。この仕事で結果を出したい、この人とお付き合いしたい、お金持ちになりたい、けれどそこに立ちはだかる壁がどのくらい厚いかわからなくて、壊せるのか不確実すぎて、パンチが効いているのかどうか不安になってくる。そうして叩くことをやめてしまうのだ。

私は、人生をおもしろくするのも難しくするのも、この「見えない壁との向き合い方」だと考える。

見えない壁を前にパンチし続けることをやめてしまう人は、「自分は最初からこの壁壊すことなんてできなかったんだ」と自分の能力を見限ってしまう。現に私もそうやって、ちょっと手を出してみたことに、いろんな理由をつけて諦めてしまったことがある。

一方で、自分の能力に関わらず「この壁が壊れるまで叩き続けるぞ!」と覚悟した人というのは、たとえ不利な状況からでも、最後には壁を壊したりする。

ということを、第100回甲子園の2回戦、済美高校と星稜高校の試合。そして8月22日東京ドームで行われた日ハムとホークスの試合は、証明してくれた。

8回表、東京ドームの電光掲示板にホークスのヒット数「10」という数字を見たときに私が持った感想は、「点に結びつかない回も攻め続けていたんだ」というものだった。

そう、ホークスは最終回になって急に奮い立ったわけではなかった。初回に3点を先制したホークスはそれでも攻撃の手を緩めない。もう一点、と貪欲に勝ちを取りにいくけれど、中盤、日ハムのルーキー清宮選手に逆転ツーランを許してしまう。東京ドームの空気が完全に日ハムサイドに傾いている状況で、そして今度は2点を追う状況で、けれどもホークスは果敢にチャンスを作り続ける。そうして最終回、やっとサヨナラを決めたのだ。

グラシアル選手が逆転ツーランを決めたときに出塁していた今宮選手は、セカンドゴロで出塁している。首の皮一枚でもつなぐんだという思いが、ファーストベースを駆け抜けた今宮選手の走りから伝わってきた。プレイボールからの3時間半に渡る想いが結実した逆転だったと振り返る。点に結びつかない回に、選手たちの気持ちが切れていたら?試合はわからなかったように思う。

私は、でもだからといって、「勝利は、諦めなければ必ず手に入る!」とはやっぱり思えない。星稜高校の選手や日ハム選手らが途中で試合を投げたようには、どうしても見えなかったからだ。野球に関わらず、夢半ばでゲームセットを迎えた人というのは、決して少なくない。だから、「不確かなものに心を燃やすのは時間の無駄」と、何も欲しがらず、イージーモードの壁ばかりを選んで壊していく人生の方が幸せ、という人を否定しない。

否定しないけれど、見えない壁に向き合った人が得られるものが、勝ち負けだけじゃないということは、ずっと覚えていたい。

済美高校の試合、そして22日のホークスの試合を観戦した第三者の視点でこう思う。「たとえ壁を壊せなくても、何度でもパンチを撃ち続けた姿は確かに心に残るものだな」と。見えない壁を叩き続けた姿は、相手チームにはもちろん、私たちにも十分届いていた。

もしも今度、なにかをやめてしまおうかなぁと思ったとき、「もう少し続けてみればいいんじゃない?」とか「始めた頃より成果出てるよ」とか言ってくれる人がいたら、私は今度はそういう言葉を信じてみたい。

見えない壁にも確実にパンチは効いている。そしてその姿は、自分が想像しない人にまでも届いていたりする。

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