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デザイナーは誰の意見を採用したらいいのか

クライアントの偉い人、自分の組織の社長、上司、良く分からない専門家の後出し。いろんな力が作用しているのでどれを採用したらいいのか分からず、思考の整理がつかないケースがあります。

意見が出るのは嬉しい。けど結局何をどうしたら!

先週は「白がいい」といったのに今週は「黒がいい」。一体どうしたらいいのでしょう。

誰の言うことを聞く必要もない

結論からいうと、誰の言うことを聞く必要もありません。

チームからデザイン領域を任されているのであれば、自分が大切にしているデザイン信条をもとに設計をすればOKです。

しかしそれなら私たちは日々いろんなレビューで疲弊することもないはずです。この乖離はなぜでしょう。

それは足りないものがあるからです。

  1. 自分の視野が不足している

  2. 相手との関係性が不足している

  3. 相手との対話が不足している

1. 自分の視野が不足しているから人の意見を聞く

「氷山の一角」って言うじゃろ?

デザイナーは決して完璧ではありません。専門外の領域はもちろん不明な事が多いですし、デザイン領域でもすべてをカバーできる訳ではありません。

だからこそ他者の視点を借りるのです。

デザインレビューは「他の人が専門的な視野から見て、ヌケモレ、リスクがないかを指摘してもらう」という観点で行われているのです。

1-1 どの領域の視野からの意見かを意識する

デザインの先輩が後輩にレビューする時を考えてみましょう。

先輩にはユーザーを理解しているからこその懸念があります。「この画面はインターネットに詳しくない人が難しくて操作を断念するかも」というリスクがあるから後輩に「ここってなんでこのUIにしたの?」と質問しているのです。

ユーザー理解がそれほど高くない人からの「チェックリストではなくラジオボタンにしてほしい」という意見を出したときには同じように受け取ってしまってはいけません。

質問を質問で返すのは野暮かもしれませんが、「言われたから」だけで実装するよりは百倍良いです。

「それはなぜですか?」と聞いてみましょう。

1-2 お前が言うたんやろがい問題

私の駆け出しの頃のエピソードです。

クライアントが「せっかくだし賑やかにしたい」というのでそのように作ったら「これ、自分でどう思うの?」と聞かれて困りました。

言われたから作っただけであって自分としては納得もしていません。なので似たようなプロダクトの表層をなぞってそれらしく作っただけなのです。

それなのに「アナタはどう思う?」は難しいですよね。

お前がやれ言うたんやろがい!
(そう言ってるように見える、とある本の表紙)

ここで改善すべきなのは設計者自身が納得していないまま手を動かしてしまったことです。

1-3 「納得しないまま作る」ことを減らそう

作ることが得意だからこそコミュニケーションを飛ばして「作ってしまう」ことが多々あります。

しかし、分からないことが分かるまで作ることを我慢するラインというのがあるので、それを意識しましょう。

1-4 分かるまで作っちゃいけないライン

  • 要望の背景、「なぜそうしたいのか」が分からないなら作らない

    • 要望とおりに実装するとどんな結果が得やすくなるのか

    • その根拠は何なのか

    • 別の手段は他に何があるのか

  • カッコいい、ダサいなど「印象」では相手が言う言葉がどのような見た目をさすかを知るまでは作らない

  • 専門家からの大まかな方向性が提示されていないなら作らない

  • 仕様として確定していないなら作らない

ここでの注意は「作りません。」で完結してはいけない事です。

相手がそれを出すまで待つのではなく、相手の言葉から引き出せるようにデザイナーが質問を投げかけていけると良いです。

質問に答えるだけで完結できるのはとてもありがたい。

もし自分がエンジニアリングでの専門的なものを設計しないと時、全部自分だけで用意するのは大変でしょう?

1-5 分からないけど作っていいライン

作ってはいけないラインは、「作らず対話しよう」という意味です。

ソフトウェア開発では不確定な未来へのチャレンジが大前提となっています。ですので「分からないけど作ってみる」は否定されるものではありません。

では、どういうケースでは作っていいのでしょうか。簡単に言ってしまえば「検証して得られるものがあればOK」です。

  • 要望を実装しなければ検証できない場合作っていい

  • 専門家も途中までしか方向性が出しきれず市場に出してからまた考えようとできた場合作っていい

  • 仕様が複雑すぎて一旦見える化してから議論した方がいい場合

叩き台ですね。

社内での叩き台、市場への叩き台などそれぞれありますが、「一旦出してイケるか見てみようぜ」をスピーディーにやるために、デザイナーは作るのか対話するのかを選びとる必要があるのです。

2. 相手との関係性が不足している

次に相手との関係性です。

若手デザイナーとして入ったらクライアントにデザインまで突っ込まれてしまったけれど、ベテランデザイナーとして入ったら「自分はこっちのが好きだけど、アナタの方が詳しいのでお任せします」としてもらえるケースは多々あります。

信頼というヤツです。

2-1. 信頼を足す方法は3つ

この信頼を相手との対話で積み重ねるか、権威でその時間をショートカットするか。偉い人からの紹介でゲタを履かせてもらうかなどです。

そういった工夫は搦手として覚えておいて損はありません。

20代女性の時は

「ミキちゃんはまだそういうの分からないもんね(*^_^*) ボクが教えてあげなるね(^o^)」

という御言葉をいただいていましたが、40歳になった今ではそういう事はゼロになりました。

ぼやき

権威は自分の努力や投資で得たものなので、十分に価値がありますがリスクもあります。

分野がズレている場合「あの人、賞もらったというから依頼したのに微妙だったね」と思われてしまう事もあります。偉い人の紹介でも同様です。

2-2. 対話以外での信頼はゆらぎやすい

対話が欠けている分、ふとした事でゆらいでしまうものなので用法は慎重に。

3.相手との対話が足りない

「対話が欠けている」というのは二つの意味で危険信号です。

ひとつは前述に出た信頼のショートカットです。これはすぐに消えてしまうものなので早々に対話を用いて「この人なら話が通じる」と安心してもらう必要があります。

初めての相手とモノを作るのは不安です。

いつまでも安心してもらえず、相手が疑心暗鬼になってしまった場合は、他のデザイナーの手を借りるなど早めに対処しないと苦しい戦いになります。

もうひとつは説明責任です。

3-1. 作るだけではなく、言葉でも尽くす

「賑やかにしたい」というオーダーのもと装飾に「赤」を使った場合。「オレンジでも黄色でもなく赤を採用した理由」をデザイン職でない人にも理解してもらう必要があります。

UI設計でエキスパンドメニューでなくドロップダウンメニューを採用した場合も同様です。

「こういうケースではこういうUIが多く実装されており、ユーザーの学習コストが低い」

「アプリがこういう振舞いをすることで何がエラーでうまくいかなかったのか、ユーザー自身が解決できる」

「情報構造としてはこれらのオブジェクトは入れ子になっており、このようにレイアウトすることで文章と図説が一致する」

などですね。

論旨が通っていれば理解してもらえるはずと信じましょう。

論旨を無視して要望を通したいというケースもあります。

そういう場合は「デザイナーとしての説明責任は果たした」と納得し、「私はこの実装の意図を説明できないけど」という前提で要望を実装してもいいと思います。

もちろん、やらない理由をちゃんと説明できるのが一番です。

余談

印象設計の場合は「主観」で話を進めることになります。

ですので、論として通る通らないに個人差がでるでしょう。その時は言葉だけではなく絵も活用します。

世に出ている画像やサイト、アプリのスクリーンショットを双方で出しあうのです。

こんな風にいろんなサイトをスクショしあってFigmaなどに並べる

双方の「これはカッコいい」「これはダサい」を交換していけば歩みよりやすくなります。

「クライアントさんのカッコいいに合わせて作る」と「自分デザイン信条であるシンプルでさっぱりがカッコいい」をどうバランスさせるか、ですね。

誰の意見も聞かない設計はひとりよがり

冒頭の「誰の意見も聞かなくていい」と書いたのに末尾にはこの見出しっていうのも微妙かもしれません。しかしとても大切なことです。

意見を聞いた上で自分の中で論旨を成立させる事を意識します。

人の意見を聞いて、それを自分なりに咀嚼するコトが大切です。

「赤」と言われて実装するのではなく「赤が良いと思うのは何故か」を理解して「赤じゃなくても成立する手段」も含めて考えるのです。

誰かの要望や難しい課題がなく作るデザインというのは「なんでもいい」のと同様です。プロに頼む必要性も薄くなります。

デザイナー同士で壁打ちしながら作る。エンジニアさんに実装実現度を聞きながら作る。ビジネスサイドに顧客がもっとも喜ぶ体験について聞きながら作る。

アナタがこれからデザインを作るとして、誰と対話をすれば疑問点を解消し、この設計をより良いものできるのかを考えるきっかけになれば幸いです。

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