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No.244 「小野さん、このままだと死にますよ!」糖尿病克服?記録(1)

いつにも増して真剣な表情の宮本先生の前のスツール椅子に腰を下ろした。先生は開口一番「小野さん、このままだと死にますよ!まずいです」と、告げられた。後ろには誰がいるわけでもなかった。僕に向けられた言葉なのは明らかだった。

桜の開花時期がどんどんと早くなってきている。四月の初め、早くも淡いピンクの花びらの間に緑色の葉が広がりつつあった。そんな穏やかな春の日の昼間、食後でも無いのに、異常に喉が渇いてきた。かつて一度も経験したことの無い渇き、「カラカラ」との擬態語が降りてきた。

冷蔵庫に常備してあったカルピスを取り出し、いつものように濃いめに作って口にしても渇きは収まらず、続けて三ツ矢サイダーを飲むと、イヤ美味しいこと。しかし、カラカラはまるで治まらず、新たにキリンレモン500ml一本が瞬く間に腹の中に収まった。コロナ発症を疑い、原因を探るべく、ネット検索サーフィンを延々とすることになった。

自分なりの結論は「コロナではなく、糖尿病の自覚症状のひとつの疑いがある。自分のヘモグロビン値は実にマズイ状況にある」だった。

以前から、糖尿・コレステロール・高血圧・腎臓など、薬の世話になってはいても、自分のヘモグロビン値や血糖値など全く知らず、朝から白米を二、三膳は食べて、ラーメンの汁を残すのは作り手に対する冒涜とみなし、ケーキは二つ三つ続けて食べて、美味しいお店を巡るグルマン気取りの「お気楽なプチゼイタクな日常」を送り続けていた。

「糖尿病」を引き起こす生活・食材などの記事を初めて真剣に触れてみた。カルピス、サイダーなどの清涼飲料水を筆頭に、白米、菓子パン、麺類などの炭水化物、ハムやベーコン、加工肉など、糖尿病を引き起こすとされる食品食材は、僕がよく食べるもので、悪役のオンパレードであった。加えて、糖尿病予防や血糖値を下げると紹介されていたナッツ類・海藻類などの食材は滅多に使っていなかった。

急激な喉の渇きを感じた春の日の数ヶ月前、二年前よりお世話になっている町医者の宮本先生(大きな病院にお勤めだが、週3日ほど19時から22時まで自宅で診療。医者が天職と言える。妙に気が合うと思っている)での検査の結果、ヘモグロビンA1c値が「9・5」(通常6・5を超えると糖尿病との診断)を超え「まずいですよ〜」と警告を受けていた。「友人との会食が続いたからかなあ」と言い訳をして、心の内では「好きなことを全うしてこそ人生」などの戯言を抱く劣等生患者であった。

そして、喉の渇きを癒やそうとガバガバと清涼飲料水を飲んだその夜に、ひと月に一度の血液検査を受けた。結果は二週間後の通院の時に聞く予定だったが、この日を境に食生活をガラリと変えた。

清涼飲料水を飲むのをやめ日本茶に切り替え、白米を食べる量を意識的に減らした。サバ缶・タマネギ・レタス・ワカメ・無塩ナッツの高級オリーブオイル入りサラダを自己流で作って食すると、実に美味しい。今まで家に無かったリンゴ酢と赤ワインを購入して飲み始めた。

血液検査の5日後、宮本先生の奥様より電話があり「今晩来れますか?」との知らせだった。特に気にもせず、仕事を早めに切り上げ、夜の9時過ぎに、車で5分ほどの宮本医院へと急いだ。

診察室に入ると、いつにも増して真剣な表情の宮本先生の前のスツール椅子に腰を下ろした。先生は開口一番「小野さん、このままだと死にますよ!まずいです」と、告げられた。後ろには誰がいるわけでもなかった。僕に向けられた言葉なのは明らかだった。

「わたし40年近く医者をしていますが、電話で呼び出したのはこれまで、たった二人です。小野さんが三人目です。ヘモグロビンA1c値が『16』超えるなんて見たことがありません。血糖値も856で、トンデモナイです。このままだと死にますよ。死亡レベル、最低でも入院レベルです」

この数値が「トンデモナイ」ものであることは、今では分かるが、この時は意味を持たない他人事の数字に近かった。おちゃらけたつもりも無く、宮本先生の言葉に答えた。

「宮本先生、でも、こうして歩いてここにきていますよ」よく言えば楽観的な響きもあると思うのだが、宮本先生の逆鱗にいささか触れたようである。
「小野さん、ちゃんと聞きなさい!ここにインシュリン準備してあります。医者の立場として、すぐに血糖値を測ります!血糖値が300超えていたら、すぐに打ちます!」
「ええ〜、打たなきゃダメですか〜。イヤだなあ。インシュリンって一度打つと、ずっとお世話になるんじゃないんですか。先生、ともかく血糖値測ってみませんか」
「ホントにもう〜、この人は〜!」

掌サイズの大きさで先端に針の付いた器具、血糖値測定器とでも言うのか、宮本先生は、器具に付いている針を僕の左手の親指に押し当てた。チクリとして、器具にデジタル数字が表示された。

・・・続く

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