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インクルーシブな公共交通に向け、本気で「密」を解消してほしいはなし

大病をすると、近所のクリニックというわけにはいかない。多くの人がかなりの時間をかけて専門病院に通っている。私も約2時間かけて東京多摩地域の自宅から千葉の国立がん研究センターまで通うようになって1ヶ月半。入院中をのぞき、検査や診察など、なんだかんだと週2〜3回行くことが多い。

この新型コロナの感染拡大の時期である。免疫が落ちた病人が満員電車に乗るのは厳しい。車で行けばいいと思うかもしれないが、私の場合、頸部の手術をしたので首が回りにくく自分で運転ができない。手術後だけでなく、抗がん剤の副作用で疲労が激しかったり、ひどい筋肉痛でじっとしていても辛い・・なんて時もある。私に限らず、結構多くの患者が一人で車で行くのは厳しいのではないか。そうなると、家族等に送迎してもらうか、大枚叩いてタクシーで行くか、そうでなければ公共交通で行くしかない。私の場合もそうで、夫が忙しい仕事の間に付き添ってくれることが多いものの、そうもいかないときは電車を使う。病院の予約次第では、混雑時に乗るしかないこともある(可能な限り避けているが)。

公共交通のインクルーシブネスは、これまでバリアフリーの議論が主だった。これも重要である。私のゼミに昨年まで車椅子の学生がいた。彼女は他の仲間と一緒にゼミ活動をしたい気持ちが大きく、一緒にバスや電車に乗って出かけることも何度となくあった。もちろん、どこでも駅員や車掌さん、運転手さん等が一生懸命スロープをつけてくれたり、車椅子の固定場所まで付き添ってくれた。駅にもエレベーターがほぼ完備されて20年前を考えると、本当にいい時代になったと思う。

しかし、そもそも混雑の中、車椅子で場所を取る上に、多くの人が立っている中で一段目線が低いところで車内の時間を過ごさなければならない彼女が、快適そうに見えるかというと全くそうではなかった。

公共交通のインクルーシブネス。目線を上げるにはバリアフリーだけでなく、混雑=密の問題に本気で立ち向かう必要がある。感染症対策が進みつつある今こそ、本気で「混雑しない公共交通」のビジネスモデルに取り組めないだろうか。

首都圏の電車の混雑率は、昔に比べると確実に下がっている。東京都に資料によれば主要31路線の混雑率は1975年には221%だったものが2015年には164%まで下がっていた。2020年現在では、ほぼ100%まで下がったという話も聞く。ただ、よく知られるところでは通勤時間の田園都市線のように混雑が常態化する区間や時間はある。そういうところではいまだに180%を超えているのが現状だろう。

新型コロナで記憶が曖昧になってきたが、オリパラによる混雑を見越して、2019年までも「時差Biz」など時差通勤を中心とした混雑緩和の取り組みは進められてきた。さらに、今進みつつあるリモートワークの普及は、確かに公共交通の需要を減らすかもしれない。ただ、単に需要が減るだけでは、鉄道会社はたまったものではない。

だから、鉄道会社には知恵と工夫を絞ってほしい。

すでに議論され始めているが、時間ごとに運賃を変動させ、混雑していない時間ほど安くするダイナミックプライシングで混雑を緩和する。通勤者の多くは雇用主が定期券として交通費を支払っているから、通学定期だけしっかり安くすればいい。すでに交通費補助を取りやめてリモートワークをデフォルトにした企業もあるように、交通費負担を感じる企業は時差出勤やリモートワークを進めるはず。高い交通費を払い続ける企業だけがラッシュアワーに従業員を通勤させることになっていくだろう。

また、通勤列車にも指定席を導入し、人数を稼ぐのではなく、一人一人から徴収する金額をアップさせるのもいい。すでに京王線の「京王ライナー」中央線の「ホームライナー」などが存在し、働く妊婦さんなどが使っている話も聞く。ぜひ本数、時間帯を広げ、今後のインクルーシブ交通を支える手段に育ってほしい。ここでは、低所得で病を抱える方などへの自治体等による交通費助成なども考えたいところ。

そう、公共交通の三密解消は、社会的弱者に向けたソーシャルデザインでもあるのだ。ほかにも、混雑軽減のアイデアがあれば教えてほしい。適密適疎なまちづくり、どんどん進めていきたい。

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