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医療×ITで築く未来 part2

この記事は、Mikketa!!で2020年10月8日に公開されたものです。

FIMって皆さんは聞いたことがありますか?きっと医療業界、特にリハビリを必要とする領域に関わった事がある方であれば聞いた事があると思います。FIM=Functional Independence Measure(機能的自立度評価法)と言い、1980年代、アメリカにてリハビリテーションに関する統一的なデーターベースとして開発されたそうです。患者様の動作能力(ADL)をスコア化し評価する方法のうちの一つとのことです。

そのFIMを、AIで予測できるようにしようという試みに挑戦しているのが、前回から名前が登場していた臨床工学技士の遠藤さんです。

みなさん、臨床工学技士さんって普段どんなお仕事をされる方か、ご存じでしょうか?

人工心肺装置や、人工呼吸器など「生命維持装置」を医師の指示の下に扱うことが出来、医療機器の保守点検なども臨床工学技士の方のお仕事なんだそうです。

医療×ITと題してカレス札幌さんの取材第2弾!
今回は、臨床工学技士と理学療法士さん、二人の目線で見た医療×ITについてお届けします!!!

左:時計台記念病院   診療技術部部長 北海道医療大学客員准教授 理学療法士 小島伸枝さん 右:時計台記念病院 臨床工学技科 臨床工学技士 遠藤太一さん

遠藤さん:最近AIが使用できるようになったと話をしたら、院長が「FIMをAIで予測できないか」ときっかけをくれました。FIMっていろいろな項目があって、一個一個に点数があるんですよね。これを予測するのに、今までだとセラピスト(理学療法士)さんたちの経験をもとに、「この人はこういう兆候があるから、退院に向かっているんじゃないか」っていう評価が定期的に行われていました。ですが、それは経験則であったり、人の考えが大きいとこもあると思われます。なので、すごい経験がある人と、そうでない人の差がどうしても出てくるんですよね。あとは、退院に向かってる数値の中で(その数値付けは)正しいのかどうかっていう指標が出来てなかったんですよね。

そこで、当院のデータベースに蓄積されたデータをAIに学習させたうえで、予測させるような試作品システムが院長の案で動いているんです。

結構いい精度で、予測できていると思っています。LightGBMというAIモデルを使っているんですけど、ほとんど誤差なく実施できているんです。

小島:今は会議の場にそれをもっていってあのカンファレンス(会議)を必ず。リハビリってかならずカンファレンスをするんですけれども、そこでみんなで予後が妥当かどうかっていうのの参考にはしているんですよね。

私たちは「AIに言われたとおりにやろう」っていうのはさらさら思っていなくって、それ(AIシステム)は過去の蓄積のデータなので、ベテラン勢が多かった時代には、この患者さんはこの兆候でよくなっていたんだよっていうのが、データとして見れますよね。いまは、教育の関係なんかで、どうしても若手のセラピストが多いんですよね。その中でまずは過去のベテラン勢がいたところまで(精度を)上げてほしいっていうことと、あとは、外れ値ですね。AIが良くなるといったのに、良くできなかった患者さん。あるいはAIが良くならないよって言ったにもかかわらず、よくなった患者さんたちをちゃんと分析して、どうして外れたのか、その患者さんは本当にそれ以上良くならないのかっていうのを、検討する材料にしようっていう考えですよね。

セラピストとしては、ある程度は基準がないと、どうしてもリハビリテーションっていう医学自体が非常に経験則に基づいているところが多いので、客観性がすごく乏しいエリアなんですよね。ある程度指標があれば、そこからどれくらい(現状が)離れてるのかっていう距離がみれるので。なるべくこう、指標に向けて修復していけるようにできたら良いですよね。

入澤:一人の患者さんにたいしていくつもレコードってありますよね?

小島:えぇ、一週間おきにレコードが入ってきますね。

入澤:三次元ですもんね、データ量としては。人の数と時間軸とパラメーターと。三個あるっていう、大変な数ですよね?

小島:パラメーターも一つの枠自体5000くらいあるのかな。それくらいの量とデータを随時入れているので、精度はすごくいいんだと思うんです。ただ、これ単位施設のデータなので他の病院が同じことをやったときに同じ予後をAIがたたき出すかどうかってまだ検証してないんですよ。他の病院さんだとうちの病院ではこの患者さんはよくなりませんといったようになるかもしれませんし。

新岡:療法士さんの腕というか、それこそ経験もありますし。あとは患者さんとの相性もありますよね療法士さんって。そういうのも反映されると結構なんかすごくウェットなデータになりがちっていうことなんですね。

小島:そうです。きっと教育の仕組みとかも影響していきますし、

入澤:なるほど、ん?これは?

小島:これは全く別のシステムです。病院って資材をすごく使うんですよ。シリンジ、ガーゼって色んな資材がありますよね。で、それで病院は経営を考えなきゃいけないので在庫などを圧縮したいんですよ。ただし我々臨床科は診察や治療、処置においては「絶対必要なんだ」と、事務方と考えが異なるんです。患者さんのために必要だ。でも、事務は圧縮してくれ。と言う中でどれくらいだと多い少ないっていう基準がなくて水掛け論になってくるんですよね。ということで過去の資材の動きを遠藤さんが、作ってくれました。

遠藤:院内の資材データを一括で見ることができるシステムを作成しました。まず最初に部署を選択してもらいます。例えばリハビリテーション部を選択すると、リハビリテーション部が使用している資材データ全体が表示されます。一覧の中から個別の見たい画面を選択すると、たとえばガーゼだと、ガーゼがリハビリテーション部でどれくらい過去に使われているのかが表示されます。2019年の6月~2020年の8月。346使用しているとでるんです。基本的に定数が8で、じゃぁ具体的に最近どれくらい使ったのっていうのがこういう風に具体的に一覧で見ることが可能です。

ただこれ、データ数でみると約70万件以上のデータなんです。今までは、これをコールセンター対応で事務方がやっていたのもあって、データは大量にあるのにうまく活用出来てなかったんですよね。そのデータを、クリック一つでファイル変換してくれて、簡易的に全部データベースに入る仕組みにしました。これを各病棟間でも確認できるようにしました。例えばこのガーゼってリハビリテーション部だと使用数これくらいですけど、他の部署どれくらいかなって調べたい時に、リハビリテーション部も定数8だけど、本館6階定数8だし4階・・3階はこれぐらい使用しているな、と、ガーゼ一つでも自分の部署だけでなく他部署の情報を知れたりします。

その他にも期間ごとの使用量も見ることが可能で、週間でどれくらい使ってるか、月合計、四半期合計、年合計の使用数を見ることもできます。商品に対しても、全病棟がどれくらい在庫を持っていてどれくらい使っているのかっていう一例をこういう風に並び替えたりすることもできますし、一覧で見ることもできます。

新岡:あーすごい。でもやっぱり水掛け論なのですが、ガーゼも何も全部臨床に必要だから使ってるんだよー!!!みたいなところがどうしても出てきますよね?減らせって言われても!!!っていう領域が。

小島:そうです。バックグラウンドに患者さんの重症度とか数を入れていけば患者さんが少ないのに資材使いすぎてるというやりとりがきっとできると思います。それを言われたら、事務方からすれば次から気を付けてね。ということになると思うので。事務方とのやり取りの回数はとても減らせるのかと思います。

藤井院長:でも、薬剤もそうなんですよ。病棟に薬剤とか置いてありますけど期限がありますよね。あまり使われない薬だと、期限切れになってしまいます。なので、3階の病棟では期限が近い薬があるので、その薬を使うときにはこっち側のところから使ってあげてっていうような形を一括管理すればいいですよね。なので、遠藤さんに今後は薬剤管理も考えて下さいねーっていう話をね。(一同笑)

藤井院長:SPDカードっていうのが院内の物流管理システムなんですけど、それを送信する頻度とかデータが出てくるので、その期間で使い切ってるかっていうのがわかるんですよ。手術機材もそうなんですが、私たちが最近手術するときに、内視鏡手術とかすごく多いんですよね。そうすると機材の一つ一つが10何万してとても高額なんですよね。そうすると多く仕入れても、SPDに回っていないような機材もあるので、それがどれくらいの期間でどれくらいの手術件数があって、そこの診療科ではこのデバイスを使うからっていうこともちゃんと詳細に管理されていると期限切れで捨てることはないんですよね。

新岡:どれだけ病棟だったりとか各階ごとに資材を使っているかというより、使えたものを期限切れで捨てなきゃいけないとならずに、回して使えるというのは、無駄を省けるっていう意味ではすごくいいですよね。

入澤:ちなみにカレスサッポロ時計台病院さんでは情シスみたいな情報システム科みたいなのは?

院長:あります。

入澤:あって、遠藤さんはそこの所属なんですね?

一同笑い

新岡:笑いが出るということは違うということですね。

遠藤:そうなんです。僕がちょっと趣味の範囲で、AIの解析を行っているのですが、臨床工学技士の業務の中で医療機器を扱ったり保守点検したりするんですよね。それで、医療法上管理しなければいけない特定保守管理医療機器と呼ばれる医療機器は400台以上あり、データベースが必要だったので、システム管理室の主任さんに教えてもらい作成しています。その延長線上として、医療機器管理業務にAI解析も 「ぷらす」 できないかと考え行動したことが、すべてのきっかけですね。

入澤:それでは、システム管理室のSEさんはいわゆるネットワークのような、インフラ回りがメインなんですかね?

遠藤:そうですね、パソコンの故障対応や。サイバーセキュリティ、既存のデータベース管理、データを引っ張ってくるとか、様々なことをされていて、AI解析以外の事はもう絶対的にかなわないですね。今でもデータベース関連の事は全てシステム管理室の「師匠」に教わっていてとても感謝しています。

入澤:遠藤さんが、今やりたいけどできない物ってあったりしますか?

遠藤:僕は院内のいろんなデータを解析して行きたいな、と考えております、例えば

(前述の)リハビリのシステムとか本当に今実施することが重要で。もしかするとあと1-2年でAIの大衆化が始まっちゃってだれでも出来るようになると思うんですよね。

あとは、院内でどんどんAIシステムの作成と実施をやってかなきゃいけないなって思ってます。そうなるとチームワークってすごく重要になるなって考えているんです。チームワークがこれからの課題ですかね?

入澤:今、小島部長の下には何名いらっしゃるんですか?

小島:セラピストは今、57人いますね。

遠藤:その中でもAIを使える人がいるんですよね。僕はドメイン知識とかリハビリテーションの専門知識がないので、そこでディスカッションすることによって、より良いAIシステムが構築できると考えております。院長や部長は、その要素をうまくつなぎ合わせてくれているんですよね。この人が合うって、こう人を見てなんじゃないかなって。

新岡:でも、なんだかお話を聞いていると、遠藤さんのお人柄があるからできるっていうところもすごくありそうな気がしますよね。本当に今日お話していても、すっごいキラキラしてますし、「なんかこんなのあるけど、どう?いっしょにやってみない?」って声をかけたくなる感じです。

藤井:そうなんですよ。彼は、好奇心がもう顔に出るでしょう。そうすると、あ、遠藤さん、こういうのやってみようよっていう風にコミュニケーションの中心になりやすい性格だよね。

入澤:DXって、デジタルトランスフォーメーションっていうんですけど、デジタル化していくことだけが全てじゃないんですよね。ITを使ってどうやって経営を伸ばしていくかどうやって、売り上げを上げてコストを下げるかっていう事なんですよね。(前項で)言ったみたいにリハビリの精度を上げるっていうのもそうですし、それの一番のキーファクターってやっぱ組織なんですよ。

藤井院長:組織としては時計台記念病院とは別に東区に北光記念病院という病院があります。320床っていう大きさの病院を2024年に、北六条東三丁目の所、ちょうど新幹線の札幌駅のホームの近くに建つ予定です。

北海道の人口も半分に減りますよね。そうすると、やっぱり見えてくるのは人手不足だったりします。そういう中でやっぱりロボットが担えるものは、どんどんとロボットに変えていったほうが良いと思われます。だから、もしかしたらかわいらしいロボットが院内をはしりまわるっていう形になるかもしれません。

そういう意味では人がやっぱり考える存在。そして患者さんと一緒に気持ちをわかる。そういったところの部門に人間は配置され、そうじゃない部門はロボットという形の分離が実現する病院になるだろう と描いているんですよね。

この先の人口減によって、最終的に、良い病院・残る病院というのは、やはり患者さんにとって、あるいはそこで働く人たちが「ここで働きたい」という誇りを持ちながら、そして、患者さんが『あ、ここの病院で治療を受けたいな』っていう信頼関係が成り立つそういう様なコアのところが大事なんだと思うんですよね。


入澤会長が良くインタビューをしているときに、口にするので、私も頭に強く残っている言葉があるんです。それは「ITは目的ではなく、あくまでも手段」という事です。

DXがうまく進んでいる、そして進もうとしている組織のお話を複数回聞かせていただくと、どの組織も「人」が大事だと必ず口にされていらっしゃいます。

誰が進めるかも大事ですが、「誰と」「どのように」進めるのか、というのがDXではもしかすると一番大事なファクターなのかもしれません。

インタビュー:入澤会長
文字起こし:安藤有紀
編集、写真:新岡唯


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