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ソニーのロングセラーモニターヘッドホン「MDR-CD900ST」についての私見

レコーディング、ミキシング、マスタリング、歌ってみたや演奏してみたなどなにかしらの形で音楽制作やDTMに携わったことがある人なら必ず一度は耳にしたことがあるソニーのロングセラーモニターヘッドホン「MDR-CD900ST」。

業界標準」だとか「プロがみんな使ってる」とかそんな評判を聞いて試してみたら「あれ、こんなもん……?」と思った方も多くいると思います(笑)そんな900STについて、個人的に思っていることを以下にまとめました。


元々はソニーのスタジオだけで使われていた

今ではサウンドハウスをはじめ、いろんなお店で普通に買うことができますが元々はソニーのスタジオで使うヘッドホンとして開発され、ソニーのスタジオ以外では手に入ることもできなかったそうです。

その後、1989年(平成元年!)に法人向け販売が始まり、1995年に家庭向け販売もスタートしたそうです。

ほんとに業界標準で、プロもみんな使っているのか?

これについては「ある意味では本当だけど、ある意味では嘘」です。
「日本中のほとんどすべてのレコーディングスタジオに導入されていて」「プロのエンジニアはだいたいみんな持っている」のは本当です。
が、これは現代においてはレコーディングシーンだけに限定される話で、その後のミックスやマスタリングでもみんな使っているか?と言われると「人によって使っているものは様々だよね」という感じで、むしろあんまり使われていないヘッドホンになるかもしれません。

そう、ミキシングやマスタリングでの用途はさておき「レコーディング」という一点においては他のヘッドホンの追従を許さないくらいこのヘッドホンがめちゃくちゃ優れているのです。

MDR-CD900STが優れている点

個人的意見にはなりますが、箇条書きにするとこんな感じです。

  • 発売から現在に至るまで、一切仕様変更がされていない

  • 交換のパーツが、かなり細かい単位で入手することができて自力での修理が容易

  • 価格がモニターヘッドホンとしては安価

  • 耳を覆う形状ではなく、耳の上に乗る形状(オンイヤー)

  • すべての楽器が近くに感じるような音場感

  • ノイズがわかりやすい

  • どこに行ってもあるヘッドホンだから、みんな音を知っている

発売から現在に至るまで、一切仕様変更がされていない……これはプロの仕事道具としてはすごく大事なことで、「とても良いヘッドホンだったから買い足そうと思ったら、手に入らなくなってた」「仕様が変わっていた」だと仕事道具としては困るわけです。品薄になることもなく、ずっと安定して同じ物が買えるというのは仕事道具として大事です。
交換のパーツが、かなり細かい単位で入手することができて自力での修理が容易……ちょっと不調が出たとしても、買い直さずにちょこちょこっとパーツを交換すれば復活するのはやはり仕事道具として助かります。
また、レコーディングスタジオではヘッドホンを何本も、場合によっては何十本も買い揃える必要があるので価格がモニターヘッドホンとしては安価というのはかなりありがたい要素です。バンド一発録りでボーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラム、メインエンジニア用、アシスタントエンジニア用にそれぞれひとつずつ用意するだけでも7本必要になるので単価が安いのはレコーディングスタジオとしては見過ごせない要素です。

また、レコーディングは長時間に及ぶことがあるので、耳を覆う形状だと耳元が蒸れてきたりして体力的にも衛生的にもちょっとしんどいです。オンイヤー型のほうが長時間作業に適しているので(耳の形によって感じ方に個人差はあります)レコーディング用途においては重要な要素です。

すべての楽器が近くに感じるような音場感というポイントは、レコーディング以外ではマイナスポイントに働いてしまう場合もあるかもしれませんが、レコーディングにおいてミュージシャン的には「自分の音やバンドメンバーの音がわかりやすく返ってくるので演奏しやすい」というメリットになるわけです。

また、歯擦音などの演奏ノイズ、そのほか電気的なノイズなど耳に痛い成分が非常にわかりやすいので「録音にノイズが乗っていないか?」というジャッジがしやすいです。

最後に、これだけ普及しているから音楽制作シーンにおいては共通言語のひとつとして機能するわけです。ミュージシャンからすると、見たことないヘッドホン渡されて演奏するよりも着け心地も音色もよくわかっている900STが用意されていると安心するわけです。

MDR-CD900STが苦手なこと

  • 現代の音楽を制作する上では、ハイエンドの伸びもローエンドの伸びも物足りない

  • 奥行き感がわかりづらい

  • 音色がやや耳に痛い

900ST発売当時の流行音楽では考えられなかったくらい、現代の音楽はハイエンドもローエンドもかなり情報量が入っています。レコーディングでは問題になってきませんが、ミックスやマスタリングのジャッジをするにはその部分が物足りなくてジャッジしにくいと思います。
また、レコーディングにおいては利点だった「すべての楽器が近くに感じられる」という要素が、ミックスやマスタリングではその裏返しで「奥行き感がわかりづらい」ということになってしまいます。
また、同じくレコーディングにおいての利点だった「ノイズがわかりやすい」というのも、裏返すと「音色がやや耳に痛い」ということになってきてミキシングやマスタリングの作業においてはやや聴き疲れしてしまう要素になってしまいます。

というわけで、まとめると「レコーディングにおいてはめちゃくちゃ便利!」だけど「ミックスやマスタリングではもっとベストマッチするヘッドホンがほかにもある」ということでした。
とはいえレコーディング以降の作業でもノイズチェック用としてはかなり優秀ですし、音楽制作、DTMをされる方ならとりあえず1本は持っておいて絶対に損はないな、と思います!
900STをリケーブルしたり、イヤーパッドを社外品に変えたりしてしまうと利点のひとつである「みんな音を知っている」という部分が失われてしまうので改造される際はそのリスクについてやや注意です。

ちなみに、側面に付いている赤いシールは剥がしちゃうとややヤフオク買取金額が下がるような印象があります。ご注意を!笑

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