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長らく文章を書くことから離れていましたが、2021年より再び物語を紡いでいくことにしま…

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長らく文章を書くことから離れていましたが、2021年より再び物語を紡いでいくことにしました。読書と音楽とコーヒーが好きな主婦です。 純文学の作品を書いています。こちらには主に公募の予選通過作品を載せています。まだまだ修行中の身です。よろしくお願いします🌸

最近の記事

青と青

※第6回阿波しらさぎ文学賞 一次通過作品    ふわりと打ち上げられた感覚があって、空の青が間近に広がった。雲ひとつないという形容がぴったりの、眼に沁みる青。吸い込まれるような夏の青だ。  事実、私は空に吸い込まれようとしていた。自分の身体がそれを望んでいるのが、よるべない意識の中でもはっきりとわかった。私は一段と大きく眼を見開き、青を縁から縁にまで収めた。それから、せめても空の端きれをつかもうと——手を伸ばした。  短いトンネルを抜けた途端、それまで曲がりなりにもあった市

    • 【日記】高熱と大河ドラマと私。

      今週はじめに息子がもらってきた風邪がすっかり家庭内に蔓延し、息子のあと娘が、その次に私がダウンした。久々に40度越えの熱が出て、丸一日ほどうんうん唸っていたのだが、今日の昼頃からやっと解熱剤が効いて身体がいく分楽になってきた。 同じく熱は下がってきたものの、まだ食欲がなくて学校を休んでいる娘がつまらなそうにしているので、2人でテレビでも見ることにした。娘が見たがっていた『謎解き!伝説のミステリー』。今回は本能寺の変に関する謎を解き明かす回だった。 正直、私はテレビのこうい

      • 【雑記】深く潜る

        私は小説についてあれこれ書くのはあまり得意ではないのですが、ここのところいろんなことの区切りがついたので少しだけ。 創作に戻ってもうすぐ2年。実は去年の今頃まで、ずーっとつきまとって離れない感覚がありました。 それは『以前ほど深く潜れない』ということ。 13年ぶりに筆を執ってみると、年の功というべきでしょうか。以前よりずっと冷静に物語と向き合えるようになり、作り込むことも意識的にできるようになっていました。文章も再び書き始めた当初こそ苦労したものの、最初に長編1本書いた

        •  ※阿波しらさぎ文学賞一次予選通過作品  今日、恋人に別れを告げられた。  勢いよく水が流し込まれる洗い桶。さっきから私はずっと飽かずにそれを眺めている。蛇口のレバーをめいっぱい上げているので、水面は上下に激しく弾んで、あっちこっちに滴を飛ばしている。流し台はもちろん、私のお腹らへんにも、食器洗剤の容器の列にも、その先のキッチンカウンターの台の上にまで。あとであちこち拭かなあかん。そうわかってるのに、蛇口を締めようとは思わない。私の目はミニチュアの滝壺に釘付けになって、全然

        青と青

          【雑記】春の公募を終えて

          改めまして、はじめまして。 このようにnoteに雑記を書くのは初めてのことです。 これまで書いてみようかなと思いつつ、日常生活と作品作りに追われて全く手をつけられませんでした。 今回、春の公募祭り(新潮新人賞、文藝賞、すばる文学賞、ことばと新人賞)が終わり、新年度も少し落ち着いたこのタイミングで、自分なりに少し整理してみようと思い、筆をとることにしました。 私が13年ぶり、どころか継続的に書くという意味では20年ぶりくらいに再び小説を書き始めて、はや10ヶ月が経過しました

          【雑記】春の公募を終えて

          【短編小説】ゆりかご

          ※第21回女による女のためのR-18文学賞  一次予選通過作品  原稿用紙30枚程度の短編です。  眼下には闇の海が広がっていた。  海の底は見えず、漆黒がどこまで世界を浸しているのか、想像するのも億劫になるほどだった。辺りには物音ひとつない。唯一存在を主張しているのは、頬に触れる夜風だけだった。目には見えずともその冷たさだけが、ここを辛うじて現実らしく象っていた。  思考は、もうずっと前から放棄していた。この一ヶ月の間に、それは何の意味も持たないものに成り果てていた。考え

          【短編小説】ゆりかご

          【掌編小説】追放者

          ※原稿用紙10枚程度の短い作品です。  浅野先生、亡くなったのよ。  二週に一度、定期便のようになっている電話でふと思い出したように母がそう言った。  七月の終わり。いかに北の地とは言え、夏の盛りを迎えようとするこの季節、札幌も連日暑い日が続いている。それでも私は一瞬、背中に冷たいものが触れたような気がした。 『大動脈解離ですって。まだ定年前なのに、本当にお気の毒』  そう口にはするが、明らかに母は他人ごとの口吻だった。無理もない。浅野一真は母にとって、娘の中学三年時の担任

          【掌編小説】追放者

          【掌編小説】待ち人来ず

          ※今から20年ほど前、学生時代に書いた小説です。 拙い作品ではありますが、自分では好きな作品ですので掲載させていただきます。  今日は、千鳥ヶ淵まで桜を見に行きます。  以前からそこの桜がとても綺麗だということは、人づてにに聞き及んでいました。桜は、貴方が一番好きだった花です。その事もあって、いつかは見たいと思っておりましたが、何せ出不精のこの私、ずっと機会を逃して来ました。けれど今年は、折角九段下で働くことにもなりましたし、何より、今日は随分お天気が好いものですから、行っ

          【掌編小説】待ち人来ず