見出し画像

蒼色の月 #78 「弁護士探し①」

市会議員の事務所での一件以来。
私はしばらくなにも考えられず、なにもする気になれなかった。
私はあの日、人としての尊厳をズタズタにされた。

昼はことあるごとに、あの日のフラッシュバックに苦しみ、夜は吊るし上げにあった悪夢を見て魘された。

元々弁護士から、女と対決し会話を録音してこいと言われたことから始まった一件だったが、もうその弁護士とも連絡をとっていなかった。


今日は心療内科の受診の日。
診察が終わるとカウンセリングが始まった。

「そんなことがあったの。酷すぎて言葉がないね…」

もうこのカウンセリングを受けるのは何回目だろう。看護師さんは私と年が近く、子供も年が同じくらいと言うこともあってか、親身になって話を聞いてくれた。

「弁護士さんに、報告に行かなくてはならないんですけどなかなかそんな気力が湧かなくて」

「浅見さん、弁護士さんってどんな方に頼まれてるの?市内の方?」

「はい。まだ正式に依頼はしてませんけど。打ち合わせとか、遠くの弁護士さんだと行くの大変なんで、今の近くの弁護士さんにこのままお願いしようかと思ってます」

「ちょっと待って。余計なこというけどごめんね。市内の弁護士さんは私は止めた方がいいと思う」

「どうしてですか?」

「市内ってことは、浅見家の父親と面識があるかもしれない。経営者だったわけだから、いろんな集まりとかでその弁護士と知り合いってこともあるかもしれない。知り合いの知り合いとかね」

「なるほど、そうですよね。確かにあるかもしれません」

「私の親戚が裁判所にいるんだけど、結構あるみたいなの。裏の駆け引きが弁護士さん同士で」

「そうなんですか?」

「もし浅見さんの弁護士が、実は旦那さんの父親の知り合いで、かげで取引なんかされたらどうする?そういう意味でも弁護士さんは市内じゃなくて、できるだけ遠くの人を選んだ方が絶対いい。ほんとは看護師がこんなこと言っちゃいけないんだけど。ほっとけなくって、ごめんね」

私はそんなことは全く頭になく、目から鱗だった。でも言われてみればなくはない話だ。

「なるほどそうですね。ほんとそうです。私そんなところまで全然考えていませんでした。でも言われてみればあり得る話ですよね。ありがとうございます」

私は泣いた。
あんな目に合ったのに、こんなに良くしてくれる人もいるんだと思うだけで嬉しかった。

よし、いつまでも落ち込んでいられない。
弁護士を決めなくちゃ、なにも始まらない。
夫たちの思うままにされてばかりじゃいられないのだ。

私は早急に他市から弁護士を決めることにした。

打ちのめされても、打ちのめされても、私は何回でも立ち上がる。
本当は立ち上がりたくなんかない。でも、立ち上がらないわけにはいかない。
子供達の生活を、将来を守り切るまでは。
私には、落ち込んでいる暇なんてないのだ。



mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!