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ファスト映画、無断利用そしてリスペクト

「ファスト映画」というワードを見聞きするようになった。ある映画作品の「あらすじまとめ」を映画本編の映像、画像、セリフを用いながら、10分程度の動画に編集し、Youtubeなどにの動画配信したものを指すというものである。それが相当な再生回数となり、劇場での鑑賞、DVD販売、配信の妨げとなっているということで問題になっているらしい。

「そりゃ問題になるわいな」と、記事にまとめていたらとうとう逮捕者が。

「ファスト映画」で全国初の逮捕者 著作権違反容疑 宮城県警(2021年6月23日、NHKニュース)

「ファスト映画」については、実際の映像を見ていないので、可能性ばかりの話になって恐縮だが、ウェブ記事での見出しを見ているとちょっと誤解を招くのでは、というものもある。「広告収入目的」とか「ネタバレ」などの表現が入っているものだ。それらのせいで著作権法違反になるか、というとそうではない。金儲け目的でなくても、ストーリーがすべてわからなくても、法的問題(※1)が生ずる可能性はある。

「ファスト映画」について問題が考えられる点は、「引用」の範囲を越えて、映画作品を無断で利用すること。つまり、「映像本編の映像、画像、セリフ」を、自分の主張の裏付けなどではなく、単純に切り取って利用すること。また、映画に対する感想や意見でなく「映画のストーリーのまとめ」をアップロードすること。さらに、ある作品について、「何が重要ポイントか」を選択すること。これは、裏を返せば「何が重要でないか」を作者に無断で判断し、切り捨てる行為であって、作者の思いを踏みにじるかもしれないからだ。

もちろん、映画作品に対する感想、レビュー、評論がそれに該当するわけではない。ネタバレ(※2)は、映画ファンならご存じだと思うが、感想サイトでは普通に語られるものである。ただし、知りたくない人にはそれが見えないようなしかけが取られている。ネタバレをしてはいけない、というのは、「作品の結末をそれを鑑賞する前に知りたくない」方々への配慮であって、著作権法とは関係ない。

ところで、他人の作品の無断利用について、よく反論として出されるのが「リスペクトがあればいい」ということだ。だけどそれは、「利用された側」しか言ってはいけない言葉だ。こう書くと、私のオリジナルキャラクター、コブタちゃん(アイコン参照)を真似て絵を描いてくれた人を委縮させてしまいかねないので書いておくが、これまでのところ100%嬉しかった。だが、意地悪なコブタちゃんとか、下品なコブタちゃんを描かれたらやっぱりいやだし、私の描いた絵を勝手に知らない人にアイコンにされたらいやかもしれない。好きだから使いました、と言われたとしても。

リスペクト自体は一方的であっていい。だが、それゆえの愛情表現は、相手の立場に立ったものであるべきだ。災害の被災地の支援に、折り鶴を送るのだって、しばしば「受け手の迷惑だ」という言葉を聞くけれども、送り手はリスペクトとか愛情ゆえに送っているはずだ。同様に、「リスペクトを根拠にした無断利用」は、「迷惑」になりうるし、最悪の場合訴えられることを意識すべきだ。

ー以下、2021年6月25日追記ー
私が「ファスト映画」について問題だと思うのは、「他人の著作権を侵害する可能性があるから」であって、まとめを作ることそれ自体には反対しない。保護期間を過ぎたパブリックドメインであれば問題ないし、文学作品のダイジェスト版を作ることと同じだと思う。作り手の力量によっては、なかなかいいものができるかもしれない。ただ、それを見た、読んだからといって、その作品の神髄を理解したということにはならないよ、というだけのことだ。たとえテレビでほぼまるごと観たとしても、池波正太郎氏に言わせれば、「テレビでは本当の映画の味を堪能することはできない」のだから(※3)。
ーここまでー

(※1)具体的には映画の著作者もしくは著作権者の「複製権」「送信可能化権」「翻案権」もしくは「著作者人格権」の侵害を想定。ちなみに、アメリカの映画でも、国際条約の関係で日本の著作権法をベースに保護される。
(※2)ネタバレとは、作品(小説、劇、テレビ番組、映画、漫画、ゲームなど)の内容のうちの、物語上の仕掛けや結末といった重要な部分を暴露してしまうこと(項目名: ネタバレ、ウィキペディア日本語版、更新日時: 2020年12月31日 16:06 (UTC))
(※3)池波正太郎『映画を見ると得をする』新潮文庫、2008. 第一章75頁から「テレビの「何とか劇場」で何十本映画を見ても、本当に映画を「観た」ことにならない。と述べている。面白いエッセイ本。


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