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MEMORIES 大友克洋 1995

MEMORIESは大友克洋監督が総監督を手がけるオムニバス三部作。
総監督:大友克洋
監督:大友克洋、森本晃司、岡村天斎
原作:大友克洋
脚本:大友克洋、今敏
出演:磯部勉、堀秀行、林勇
音楽:石野卓球、菅野よう子、三宅純、長嶌寛幸

彼女の想いで (Magnetic Rose)

2029年、スペースでプリの回収作業をしていた宇宙船コロナ。宇宙を漂流していた矢先、SOSの発信を受け、遭難船に近づいていく。強い磁気を発する遭難船の中のSOSの発信源を探しに、奥深く入って行く作業員ミゲルとハインツ。一歩足を踏み入れたその遭難船は、一瞬で豪華な屋敷になり、その中で、かつてのオペラ界の歌姫エヴァの姿があるのだった。
歌姫エヴァの想いでの中に迷い込むミゲル。エヴァの作り出す幻想とホログラムの中で、ミゲルはエヴァの強い幻想が作り出す異世界空間の中で陶酔していく。もう戻れないミゲル。ハインツはミゲルを連れ戻そうとするが、エヴァの怒りをかい、ハインツもエヴァの作り出す想いでという深い沼の中でもがくのだった。
強い磁気により宇宙船コロナも破壊され、宇宙のごみと化していくのだった。

感想

磁場からの脱出、想いでからの脱却。美しいオペラの楽曲の中で繰り広げられる映像は、ホラーとも言えるお話の中で悲しい最期をむかえる。
全然ハッピーエンドじゃない終わりは、現実的で生々しいとさえ言えると感じた。

最臭兵器

山梨県甲府市の某研究所勤務の田中信夫、風邪をこじらせながらも研究所に出勤した。所長室にある青い瓶にはいったカプセルが、風邪にきくと小耳にはさんだ信夫は、それを飲んで、応接室で仮眠する。

信夫が目を覚ますと、研究所の人々がすべて倒れて昏睡していた。驚いた信夫は、本社に連絡を取る。研究責任者のセンター長は、とりあえずサンプルと極秘資料を誰にも知られずに本社まで持ってくるように命令する。
信夫は資料を持ち、東京本社を目指して走り出す。

行く先々で信夫は、草花が狂い咲きしているのを見ながら、鳥が死に絶え、車の事故が多発発生しているのを垣間見る。なにが起こっているのかわからないままただ自転車を走らせる信夫。どこにも人っ子一人いないのも不思議に思いながらひたすら東京を目指す信夫。

カプセルを飲んだ信夫の身体は、生物兵器と化したのであった。

信夫の行く先々で信夫の発する異臭により、人々が悶絶し昏睡するのがテレビ中継される。
生物兵器と化した信夫を東京に来させないように政府と国連軍は軍を派兵する。上空では戦闘機がそろって信夫めがけてミサイルを撃ち、戦車も信夫を狙い撃ちするが、信夫の発する異臭は、上空の戦闘機まで襲いかかり、追撃は失敗に終わる。

特別なNASAの宇宙服を着た米軍の兵士たちにより無事、信夫は確保され、東京に帰還した兵士たち。
喜ぶ政府要人たちと研究所の責任者たち。

そこで、NASAの宇宙服を着た兵士が、おもむろに資料の入ったカバンをセンター長に手渡した。まさに、中にいたのは、信夫だったのであった。
最後まで信夫は自分がバイオ兵器をばらまいた張本人だとは気が付かないでいたのだ。そして・・・

感想

テンポのいい楽曲とともにコメディタッチでユーモラスに描かれた映像の中で、社会へのでたらめさを表現しているように感じた。
何も考えていない主人公がいい味をだしていて、世界を滅亡へ導くあたりが、ブラックユーモア。

大砲の街 

要塞のごとくそびえたつ超大型の大砲。その赤褐色の鉄の塊は街の中心に位置していて、白煙や蒸気を吹き出している大小の機械が大砲を取り囲むように設置されている。
人々は働きアリのように忙しく働いている。動いている人間たちは機械の一部分であるかのごとく、動きを止めずに一定のリズムを繰り返す。

空は見えない。白煙なのか大気汚染なのか、工場なのか、街全体が要塞なのか、そう、そこは、移動都市なのだった。大砲を撃つためだけの。
大砲を撃つためだけの街、そこで人々は働き、労をねぎらい、食い、寝るのであった。家庭を持ち、学校に行き、職場では愚痴を言い合い、笑いあう。普通の生活。一つ違うのは、人々は一つの目的のために生きている。『大砲を撃つ』という。

息子は母親に起こされ、父親と一緒に家を出て学校に行く。
家を出るとそこはすぐ駅で蒸気機関車へ乗り込む。
父親は17砲台で砲弾作業をこなす毎日だ。
母親は弾薬工場で働いている。
大勢の人たちが大砲を撃つためだけに働いている。
街からは
「撃てや撃て、力の限り、街のため」というスローガンが聞こえてくる。

就寝するまでのひと時、テレビからは本日の砲弾の成果を謡う声が聞こえてくる。それが何を意味しているのか。
テレビからは遠くの砂漠化した風景が見える。砲弾したあとがクレーターのようになっていて、それ以外はなにもない。砂漠化したなにもないような土地に大砲を撃つ。地底人との戦いなのか、地下都市への砲弾なのか。何に向けて撃っているのかは、人々はよく知らない。

息子は父親に尋ねる
「ねえ、一体お父さんたちは、どこと戦争しているの?」
父親は
「大人になればわかるさ、さあ寝なさい。」と答えるのだった。

寝室に入りぐっすり眠る息子。夜はひっそり静まり返っている。

大砲の街


感想

大砲を撃ち続けることでしか街が機能しない。
いったいこの街は戦争をしているのか、だれと戦争をしているのか。
ガスマスクをつけ、一日中ヘルメットをつけて暮らしている人々。
まるで大きな薄暗い工場の中のような街並み。薄暗い中で機械音と砲弾が響く日常。
敵は誰? みているほうはおいていかれているような不思議な感覚に陥る。
石野卓球の楽曲と少年の明るい声が対照的で、薄暗い大砲の街に生を感じさせているように感じた。

NHK メイキング映像



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