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note創作大賞を受賞するために、私は京都へと向かった

昨年、半日程度で書き終えた小説を、note創作大賞に応募した。

note創作大賞とは、作家やクリエイターを目指して活動している方を支援するコンテストのことだ。選考対象となる作品は、主に小説、エッセイ、マンガなど多岐に渡る。

note創作大賞の魅力は、なんといっても早々たるメディア、出版社が参加しており、受賞者すると書籍出版・メディア出演などの機会が与えられる点だ。

現代では、書籍出版の方法に電子書籍もあるが、個人で売り出そうとしてもなかなか売れづらいもの。

note創作大賞を受賞すれば、メディアや出版社が後ろ盾となり、宣伝にも協力してもらえるのは最大の魅力だ。

その他にも、各ジャンルのプロフェッショナルから直接フィードバックを受けられるのも大きなメリットである。注目度の高いコンテストなので、多くの読者から感想や、評価を得られるチャンスも。

クリエイターを目指す者にとって、作品のファンを増やせるnote創作大賞は、大きなチャンスとも言えるだろう。

私は昨年、note創作大賞2023に応募している。応募した時、正直「これはもしかして、いけるのでは?」と一瞬でも思った。

もちろん、賞にはカスリもしなかった。当たり前である。なぜなら、半日でブワーッと書いて、見直しすらしないものを提出したのだから。

それでも、微かな期待を残していた私は、がっくりと肩を落とした。

あれから1年が経過し、新たな「note創作大賞2024」の募集がスタート。

私は懲りずに、再び提出するための小説を執筆した。

今度は、昨年の反省を生かして、数日後に読み直すことを決めた。そして、読み直してふと、大きな過ちを犯したことに気づくのだ。

なんと、ストーリーの始まりと、後半で話の辻褄が全く合わないのである。これは一体、どうしたものか……。

もちろん、小説を書いた人間が、その理由を一番よく理解している。その理由は、私が気分で話の構成を変えてしまうからだ。

私が小説を書く時、必ずおおまかなあらすじ、キャラ設定、構成を決めてからスタートする。ところが、話を作成している途中で「こっちの方が、絶対面白いよね?」「エピソードが弱いから、もっと重いものを入れた方がいいはず」と、コロコロ設定を変えてしまう。

結果として、前半と後半で全く別のストーリーができてしまう。

私が書いた小説のダメポイントは、ストーリーが支離滅裂なだけではない。同じ言葉や言い回し、冗長表現も多い。こればかりは、文章力が稚拙であり、読書量が少ないことが原因である。

無理もない。昨年、読んだ書籍はたったの4冊しかないのだから。その中に、小説は1冊のみ。

言い訳をすれば「本を読む時間がなかった」になるが、本当は違う。本を読む気が、さらさらなかったのだ。

昨年の私は、仕事の繁盛期と育児、家族行事で精一杯だった。ここで仕事や創作のために、本を読む時間を作るとなると、私は死ぬか、倒れるかだった。

結局、私は成長より「生きる」を選んだのである。まぁこれも、綺麗な言い訳でしかないのだが。案の定、あれから私は何の成長もしていない。

小説を読み直して、がっくりと私は肩を落とす。自分のスキルのなさに落ち込み、しばし放心状態で部屋に佇んでいると、夫が「京都に行かない?」と声をかけてきた。

夫から京都旅行を誘われたのは、とある4月28日の日曜日、正午のことだった。

明日は祝日で、夫は休み。夫によると、その日はゴールデンウィーク直前割で、7割引でホテルに宿泊できるとのこと。

そして私たちは「そうだ京都へ行こう」のノリで、本当に京都に訪れることとなった。自分でも、JRのCMかよと思った。

夫から「どこか、行きたいところある?」と言われ、私は唐突に「安井金比羅宮へ行きたい」と答えた。

安井金比羅宮は、京都にある有名な縁切り神社のひとつ。

縁切り神社

その神社は、災いや悪縁を断ち、良縁を招くパワーが強いとの噂から、毎年全国から訪れる参拝者が後を絶たない。

私自身も、安井金比羅宮のパワーを信じる人物の一人だ。あれは、婚活で行き詰っていた37歳の時に遡る。安井金比羅宮にお参りして半年後に、今の夫と出会い、トントン拍子で結婚することができたのだ。

それから、大きな願いをかけたい時、私は決まって安井金比羅宮にお参りすると決めていた。

境内には、無数のお札が貼られた碑が鎮座している。碑は「縁切り縁結び碑」と呼ばれ、くぐる時は縁を切り、戻る時に縁を結ぶ効果があるとされている。

安井金比羅宮では、境内に置かれたお札に、自分のお願いごとを書くことからスタートする。神社のルールによると、お願いはいくつあっても構わないらしい。

私はnote創作大賞にかける意気込みと、あとは娘が発達遅延でしゃべれないので「娘が話せますように」と書くことにした。

「そうさく」の漢字をド忘れ

note創作大賞のことを先に書くつもりが、お札の最初に書いたのは、娘のことだった。この時ふと、私は本当にコンテストで受賞したいのかと、心の中で自問自答した。

願いを書けたら、あとは碑をくぐり、お札を貼って戻るだけ。

お参りのために、私は前に並んでいるカップルがすべての過程を終えるのを待ったが、一向に碑をくぐって戻る様子は見受けられない。どうしたものか。くぐるのが怖いのか?いや、行きはスムーズに2人ともくぐっていたはず……。

お札を碑に貼ってから、何やらぼそぼそと2人が相談している様子が伺える。

その後、カップルはお札だけ碑に貼り付けて、そのまま帰ってしまったのである。

「あのカップル、不倫だろうか……。男性の年、女性よりかなり年上な気がするし……」

夫が不思議そうな顔をして、首をかしげる。そのカップルが不倫かどうかは定かではないが、なにしろここは日本最大の縁切り神社としても呼び名が高い。

縁切りの願いのみ、お願いする方も少なくないのであろう。

私は縁切りカップルがお参りしたのち、碑に願いをかけ、くぐり抜ける。くぐろうとしたが、途中で体が詰まり、動けない。

スムーズに通り抜けられない

後ろから「おい……大丈夫か?」と、心配そうな夫の声が聞こえる。

碑をスムーズに通り抜けられない時点で、私はすっかり自信を失っていた。

お札を貼り、碑をくぐって戻ろうとすれば、また同じタイミング、同じ理由で体が詰まり、動けない。どうやら私は、通り抜ける際に、腰を浮かしてしまい、それが原因で通り抜けられなかったようだ。

なぜ一回通った時に、それを学習せず、また同じ失敗を繰り返すのか。まるで「君は、学習しない。だから、また同じ過ちを繰り返すのだ」と、碑に叱られているような感覚を覚えた。

私はなんとか碑を通り抜け、ふらふらとした足で神社のおみくじを引く。ここでおみくじの結果が良ければ、本当に願いが叶うかもしれない……。私はどきどきした。おそるおそる、おみくじの紙を広げて、結果を確認する。

どきどきしたのも束の間、残念ながらおみくじは凶だった。

凶でした

凶のおみくじなんて、はじめて見た。おみくじに、凶ってあるんだ。おみくじを広げた瞬間、どこか他人事のようにも感じてしまった。

いや、むしろ。ここで結果を素直に受け止められないことが、私が成長できない要因ではないだろうか。君は、凶。凶なんだよ。

おみくじには、「自分自身は怠慢な生活を送り、日々努力せず、周囲の人々の幸せを羨むだけでは、決して幸福は訪れないことを自覚しなければならないのである」と書かれていた。

もはやおみくじではなく、ただの説教である。どうやら私は京都まできて、わざわざ神様に説教されに来たようだ。

放心状態の私に、夫は畳みかけるように「おみくじで凶なんて、俺はじめて見たよ!」と言って、ケラケラ笑った。そんな夫のおみくじは、末吉だった。末吉に、まさかおみくじマウント取られるとは。

うなだれる私に、夫は「今のままだとダメだったけど、忠告を守って、改善しなさいということじゃないの。ここは縁切り神社だし、もう悪運を落としたから、大丈夫じゃない?」といって、屈託なく笑う。

そんな明るい夫に、私はほっと救われた。

懲りない私は、おみくじを引いたのち、私は神社で「心機一転御守」を購入。

効果はいかに?

なんでも、このお守りは悪縁を切るの他に、悪習を断ってこれまでとは違った自分に生まれ変われるそうだ。

御守の中には、金色の輪っかが入っているらしい。自分が変わりたい時、何かを始めようとする時は、御守を手に取って「輪を潜り抜ける自分」をイメージするといいそうだ。

運勢は結局、自分の意識を変えていかないと、何も変わらない。そのことを、この御守は伝えているのだろう。

創作大賞の受賞云々に関わらず、結局のところ一歩前に進むには、自分が変わるしかないのである。

私はこの時、ふと気づく。自分が本当に欲しいのは、コンテストの受賞ではない。あくまで、自分が大きく変わるための「きっかけ」が欲しいだけなのではないかと。

変わりたい理由だって、現状に満足していないだけに他ならない。

そもそも現状とは、自分の選択と努力の積み重ねの結晶である。現状に満足できないのであれば、選択のミスマッチと、あとは努力が足りなかっただけ。

私は、自分の怠慢さをよく理解している。本当は怠け者だし、できれば努力なんてしたくない。ダメな人間だと、つくづく思う。

読書だってそうだ。「時間がない」だの言い訳をして、本を読む時間を作ろうともしない。自分が変わるには、その事実を受け止め、改善策を考えるしか他無いのだ。

私はこの日、そのことを本当は、指摘されたかったのかもしれない。この、縁切り神社を通じて。今度こそ、絶対に変わる。変わるぞ。いや、本当に変われるのだろうか……?いや、変わろう。絶対に今度、今度こそは……。

私はそう強く願って、御守をぎゅっと握った。

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