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漂流(第二章②)

第二章

2.
罰が当たったと思った。母が死んだのは俺のせいだと。あれから十三年、未だ轢き逃げ犯は捕まっていない。好き勝手をして生きていた俺に神は天罰を下したのだ。聡子が姿を消したのもそれが原因だと思った。俺は懺悔する様にその後の人生を歩いた。母が死に益々貧しくなった俺は高校には行かず、その恵まれた体躯を生かして地元で土木作業員になった。現場では重宝された。先輩や仲間達からは信頼され、再び俺は居場所を手に入れる事が出来た。喧嘩も辞めた。全ての解決手段だった暴力を俺は封印した。その頃から自然と周りに仲間が出来た。聡子が言っていた言葉の意味が少し分かった気がした。二十八歳になった俺は相変わらず作業現場にいた。もうベテランの域に達した俺は所長の右腕となって働いていた。部下や後輩も出来、責任という言葉も覚えた。そんな時に事件は起こった……。

現場には一人、厄介な人物がいた。暴力団上がりの半端者で仲間達を悪い遊びに誘う。実際それが原因で何人も作業員が辞めていた。所長も手を焼いていた。俺は何とかしたくて、奴に物申した。
「横山。もう少し真面目に働いてくれないか?」
横山は薄ら笑いで煙草を踏み付けながら、
「お前には関係ない。しゃしゃり出て来るな。」
「これはお願いだ。みんなに迷惑が掛かる。」
「お願い?それならもっとやり方があるだろう。」
相変わらずニヤニヤしながら横山は言う。
俺は拳を握りしめながら深々と頭を下げた。
「ハハハ。考えておいてやるよ。」
笑いながら奴は持ち場に戻った…

「毎度様です!」
昼時になり弁当が運ばれてきた。近くの弁当屋から馴染の美代ちゃんが毎日運んでくれる。
「中に置いておきますから。」
はにかみながら俺の前を取り過ぎる…
一息ついて飯にしようと思い、ふと気づいた。美代ちゃんがまだ事務所から出てきていない。そう言えばさっき横山も中に入った。胸騒ぎがする。
急いで事務所に向かって走り出す。中に飛び込むと、横山が美代ちゃんに覆い被さっていた。目の奥で火花が弾ける。頭の中で不快な音が反響し続けた。気が付くと目前に肉の塊が転がっていた。その横で美代ちゃんが泣きじゃくる。遠くでサイレンが鳴り響いていた……。


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