ミクタギ

ミクタギと申します。 ツイッターやワードプレスで小説配信しています。 #140字の…

ミクタギ

ミクタギと申します。 ツイッターやワードプレスで小説配信しています。 #140字の風景のタグで辿れます。 この度ツイ友の後押しも頂いて noteデビューいたします!笑 今後ともよろしくお願いします 🙏

マガジン

  • 140字の風景

    ツイッター、1ツイートの上限140字で、日常·非日常の様々な出来事を切り取る。 恋愛、感動、ユーモア、イヤミス等々、あらゆるジャンルで皆様に楽しんで欲しい!

最近の記事

  • 固定された記事

最愛の薫り

◇****◇ 逃げていた。 誰かが追ってくる。 誰なのか?何故なのか? それは分からない。 ただ捕まってはいけない。 それだけは分かる。 ここは…森の中か? 鬱蒼と生い茂る木々たちを払いのけ ひたすら逃げていた。 が、何かに引っ掛かり、転んだ。 木の根に足をとられたようだ。 不味い。追手は迫る…。 その時、“ こっち!” 私を抱き起こし、手を引いて走る。 誰? 肩越しに顔を覗く …。 西日に重なりよく見えない。 貴方は誰なの? ただ、言い

    • 漂流(第三章⑪)

      第三章 11. 久し振りに会う光男は変わらなかった。いや、少し痩せただろうか?それが持前の精悍さを際立たせていた。込み上げる懐かしさを抑え、聡子は光男に語り掛ける。 「父に会ったのね?秋山の事は聞いたんでしょ?」 しかし光男は答えない。答えられないが正しいのだろう。やはり秋山の死を既に知っている様だ。ショックは大きいと思う。 「ねえ、光男。ごめんなさい。本当にごめんなさい。もっともっと早く、私から真実を伝えていれば、光男にこんな思いをさせないで済んだと思う。私が悪かったの

      • 漂流(第三章⑩)

        第三章 10. 秋山の刺殺体が発見された。その一報は全国放送のニュースで流れた。犯人は直ぐに見つかった。逮捕されたのは、秋山の経営する弁護士事務所に所属する宮本という弁護士だった。以前から依頼人の振り分けを巡って対立があったと本人が証言しているらしい。長野県の避暑地にある彼の所有する別荘での出来事だった。光男はそのニュースを呆然と眺めていた……。慎太郎の独白は、光男を混乱させた。長年に渡る調査で漸く辿り着いたと思っていた真実が、寸でのところでまた擦り抜けていく。正直そんな

        • 漂流(第三章⑨)

          第三章 9. あの日、秋山から真実を聞いた日から、聡子の心はそれまで以上に凍り付いていった。司法試験、その後の弁護士としての仕事も全く心の通わないものとなった。父の嘆願。秋山から聞いた真実。光男との決別。繋がる様で繋がらない。いや、所詮15歳の聡子にはどうする事も出来なかった現実。そんな諦念が聡子を自暴自棄にさせた。それでも光男と再会し、ほんの少しでも償いが出来たかと思っていた矢先の光男の失踪……私はいつも不本意な場所に立っている。そんな思いがふと胸を過ぎった。 美代子に光

        • 固定された記事

        最愛の薫り

        マガジン

        • 140字の風景
          8本

        記事

          漂流(第三章⑧)

          第三章 8. 病室のベッドで上半身だけを起こし、痛みがあるのか時折顔をしかめながら慎太郎の独白は続いた。 「その場から走り去った私達は、事故の後処理を考えた。土砂降りが幸いし目撃者は恐らくいない。そして雨が証拠も洗い流してくれる。しかし警察が本気で捜査をすれば、いずれ該当車両を割り出すだろう。それは公安任務遂行の大きな妨げになってしまう。私は当時の上長である警視庁副総監へ事故についての報告を入れた。」 光男は意外と冷静だった。ずっと知りたかった真実。やっとそれが明らかになる

          漂流(第三章⑧)

          漂流(第三章⑦)

          第三章 7. 「あの日、車を運転していたのは俺なんだよ。」 秋山は、聡子の方は見ずに天井へ煙を吐き出しながら話し出した。話の展開は何となく予想は出来た。自分がずっと感じていた違和感と答え合わせする様な気持ちで秋山の話に耳を傾けた。 「当時俺は弁護士をする傍ら、お前の父親の情報屋をしていた。俗にいう “エス” というやつだ。キャリアである早川は、現場での最後の仕事である公安任務に従事していた。既に警視正という階級にいて、これを問題なく熟せばいよいよライバル達を蹴落とし、警視長

          漂流(第三章⑦)

          漂流(第三章⑥)

          第三章 6. 「何故あの時逃げたんだ!直ぐに救急車を呼んでくれたら、母さんは助かったかもしれないのに!」 積年の恨みを吐き出すべく、光男は慎太郎に向けて思いの丈をぶつけた。 「たった……二人だけの家族だったんだぞ…俺のために毎日……それをお前は!」 いくら叫んでも収まらない。寧ろその思いは強くなっていく。慎太郎はそれを静かに見つめていた。僅かに微笑を浮かべながら……。それが光男を苛つかせる。 「何とか言ったらどうだ!」 涙を浮かべながら激高する光男に対し、慎太郎は静かに切り

          漂流(第三章⑥)

          漂流(第三章⑤)

          第三章 5. 暫く黙り込んでしまった美代子に対して、聡子は一つの大きな決断を迫られていた。全てを知った光男の次なる行動を予想するのは容易い。そしてそれが重大な結果をもたらす事も火を見るより明らかだ。何としてもそれは避けなければならない。それが聡子に課せられた最後の任務とも言える。しかし……。 そこで思考はストップする。美代子が言った重要な何か……。そこには恐らく彼女も、そして光男もまだ気づいていないであろう真実が隠されている。それを知らない光男は、まず間違いなく聡子の父であ

          漂流(第三章⑤)

          漂流(第三章④)

          第三章 4. 院内に入ると急激に冷気で包まれた。沸騰しそうなほど熱せられた肌には心地よい。しかし入り口から広い待合室を通り過ぎ、エレベーターへ続く長い大理石の床を歩いている間にそれはやがて寒気へと変わった。 15階建ての院内は、1階が受付や待合室などになっていて、2階から6階までが内科などの診察室、その上10階までが各科検査病棟、11階から最上階15階までが入院病棟となっている。光男が向かうのは最上階に入院している早川慎太郎の病室だ。 三台並ぶエレベーターの真ん中が扉を開

          漂流(第三章④)

          漂流(第三章③)

          第三章 3. 「朝倉さん…」 一見して直ぐに彼女だと分かった。しかし口をついて出た言葉は、そのたった一言。言いたい事、聞きたい事はたくさんあった。でも、それらは頭の中をグルグル回り、そのまま鼻の奥から喉を伝い食道を通って、胃袋に落ちていった。 「ご無沙汰しています。」 聡子とは対照的に、美代子は落ち着いた面持ちで深々と頭を下げた。自分より多少若い筈だが、彼女も三十代の後半に差し掛かる。そういう意味では聡子よりも数段落ち着いた雰囲気を醸し出していた。元々持ち合わせていた憂いと

          漂流(第三章③)

          漂流(第三章②)

          第三章 2. 記録的猛暑という言葉が使われ始めて久しいが、この年ほどそれを実感した事はない。昭和から平成になり、人々が浮かれ切っていた時代から、失われた十年を取り戻そうと皆が必死になって何かを掴もうとしても何も無い事に気づき、しかしそれを認められず日々を胡麻化して生きる事で人々が折り合いをつけていた時代へ。北村光男もその真っ只中にいた。大人達が飲み食い散らかした宴の後始末を何も知らずに行ってきた人生。それで良いと思って歩いてきた。しかしその宴が、まさか自分のカネで行われてい

          漂流(第三章②)

          漂流(第三章①)

          第三章 1. 「先生。いつも有難うございます。」 目の前で、深々と頭を下げる老女。 「吉川さん、頭を上げてください。」 聡子はそれに目線を合わせ、優しく語り掛ける。 ここは、北海道N市の某雑居ビル二階。そこで私は弁護士事務所を開いている。とは言っても、それは名ばかりで、ほとんどボランティアの様なものだ。月に訪れる相談者の数は五人いれば多い方だろう。それでもその数は徐々に増えてきている。犯罪被害者が抱える様々な不条理に法律的な観点でアドバイスし、彼らの経済的、精神的なバックア

          漂流(第三章①)

          漂流(第二章⑩)

          第二章 10. “懲役三年。但し、この刑の執行を五年間猶予します。” 勝った!聡子はホッと胸を撫で下ろした。正直かなり無理のある筋書きだった。光男を説得して真実を証言させたとしても、それでは朝倉さんの証言も必要となってくる。しかし朝倉さんは亡くなった事になっているので、それは出来ない。そこを突かれない様に周到な根回しが必要だ。所長の秋山も巻き込み関係各所へのお土産も沢山用意した。かなり汚いやり方だった。それでも良かった。ここで光男を救えなければ、何のために弁護士になったのか

          漂流(第二章⑩)

          漂流(第二章⑨)

          第二章 9. 「少しやり過ぎじゃないか?」 弁護士事務所ビルの地下にある行きつけのバーで、宮本が窘める様に詰問する。聡子はそれには答えず、手元のシェリー酒を一気に煽った。数年ぶりに、秘書・宮本の誘いを受けた。誰か側に居て欲しい。そんな心の隙に彼はいつも上手に入り込んでくる。一度起こした過ちも、今日の様に聡子が心を擦り減らしていたタイミングだった。 「そんなの私が一番良く分かってる!」 アルコールで刺激された感情を、腹の底から吐き出した。宮本に言われるまでもなく、やり過ぎなの

          漂流(第二章⑨)

          漂流(第二章⑧)

          第二章 8. その一報が入って来たのは、第一回公判の前日だ。 美代ちゃんがビルから飛び降りた。まさに青天の霹靂だった。朝一の面会に嫌な予感がしていた。それが聡子だと直ぐ分かったからだ。このタイミングでやってくるのは、いずれにせよ良い話ではない筈だ。かなり心の準備をして彼女の言葉を待ったが、放たれた台詞は想像を越えるものだった。 「どうして……。」 俺は漸く、それだけ絞り出した。聡子は、ビルから飛び降りた、と言った。それだけではまだ状況はわからない。俺は一縷の望みをかけて次の

          漂流(第二章⑧)

          漂流(第二章⑦)

          第二章 7. 思いの外、光男は頑なだった。 昔から私の忠告を素直に聞く方ではなかったが、丁寧に説得すれば渋々でも従ってくれる事も多かった。特に今回は人生を左右する重大な選択だ。それなのに全く聞く耳を持たないとは……。やはり朝倉さんが理由か… 次の日、私は朝倉さんに連絡を取った。距離的な問題もあり、連絡手段はズームを採用している。忙しい昼時を避けて彼女に画面を繋げた。久しぶりに見た彼女は少しやつれた様にも見える。 「お久し振りです。本日は北村さんの件でお聞きしたい事がありま

          漂流(第二章⑦)