アウスと男女不平等の怒り

私が産婦人科に初めて行ったのは、元彼に中出しされて緊急避妊ピルを貰いに行ったときのことだ。
不安の中受診した。ピル代金に2万かかって痛い出費だった。あいつが中出ししたんだからお金ぐらい払って欲しいとおもったが、言えずにもやもやした気持ちでいた。

2日前、セックスしたい気分じゃないのに求められたから仕方なし相手をした。無表情でやる気のないセックスをしたら、急に元彼に中出しされた。
「なんで中出ししたの?妊娠したらどうするの?」と責めた口調で言ったら、混乱した顔で、黒い瞳孔が開いていてフリーズした様子であった。
これ以上言っても仕方がないので私も黙ったが、無責任すぎて、他人事のような素振りにイライラした。

ある日、吐き気が来た。眠くてだるくて、胸が張る感じがした。生理がきていないことに気づき、検査薬を使った。
陽性だった。

産婦人科に二度目の受診で妊娠を伝えられた。おめでとうと言われた。
妊娠したため彼にエコー写真をみせて、
「せっかく宿った命だし産みたい。」と伝えた。
しかし返ってきた返答が、
「今産んでも俺虐待するから。堕ろしてくれ。」だった。
私の家庭環境を知っていてのこの発言。これ以上何も言えなかった。ショックだった。
学生の私だけでは産めるわけもなく、中絶手術を受けることにした。費用は元彼が持つと言った。手術代金11万円を受け取った。
彼は手術の同意書の保証人のサインと送迎だけで病院に付き添うことはなかった。

三度目の受診は中絶手術だった。
術後、麻酔から目覚めて、痛むお腹と赤ちゃんに対する罪悪感で涙が止まらなかった。
そんな私の姿をみて看護師は「ただの細胞でしょ。」と冷たく言った。
元彼の車の中でもずっと泣いていたが、彼は無言のまま私を自宅に送り届けた。
本当は辛いし痛いし寂しいし心細いし一緒にいてほしかったけど言えなかった。
この件でごめんねなんて一言もなかったし、まるで他人事のようであった。
また、それからしばらく連絡もなく会うこともなく、見捨てられた感があって寂しかった。

その後出血は1ヶ月続いたし、その後の通院費もかかったがもちろん実費である。避妊ピル代金ももちろん実費。
学生の私には支払いが辛かった。
心も体も傷ついて、経済的にも負担がかかって私だけが辛くて、彼は何も辛くなかった。
この不平等さは一体何なんだと今でも疑問だし、今この場で会えたら一発ぶん殴ってやりたい気分だ。
それから数カ月後、元彼が水子参りにいこうと誘われたため、京都に行った。
水子参りを一緒にしたけど、元カレは何を考えてるのかよくわからなかった。
ただ旅行したかっただけなのか、なにか思うことがあったのかは知らない。

もし生まれていたら今頃小学校6年生。
産んであげれなくて、私が非力で経済力がなくてごめんねと悔やんでも悔やみきれない後悔が今も残る。
あなたは今でも思い出すことはあるのでしょうか?もう忘れてるのかな。
ひどい言葉も、失った二人の間の命も。

私がオペ室で働いていたとき、同姓同名のアウスの手術に入った。
アウスとは中絶手術のことだ。
経験上、出産よりもアウスの手術のほうが圧倒的に多い。
だいたいが経済的理由だ。
同姓同名の彼女は術後麻酔から目覚めて泣いていた。本当は産みたかったと泣いていた。
彼との間で何があったのかはわからないが、
まるであのときの私を見ているかのようであった。
胸が苦しかった。かけてあげれる言葉が見当たらなくてせめて体に負担がかからないように手術室から病室に送り出すことしかできなかった。

アウスを受けた女性は体も心も傷ついて一生子供殺しの罪を背負うのに、何故男は無傷で無関心で忘れていられるのだろうか。
仮にもふたりの子供のことなのに全く痛くも痒くもない男たちに怒りを覚える。

私は今でもこのことを思い出すたびに怒りがこみ上げてくる。こんなに不平等なことあってよいのだろうか。同じ痛みと苦しみを味あわせてやりたかった。
そして、あのとき自分はどうすればよかったのだろうか今だに分からない。
このやり場のない気持ちを、どうすることもできないでいる。

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