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『泡沫唄《あわうた》 ―木偶《デコ》と瞼―』 

『泡沫唄《あわうた》 ―木偶《デコ》と瞼―』 

以下は、今はなき阿波しらさぎ文学賞に試しに出すために、拙作映画『あわうた』を掌編文学化したものであーる。映画中では脇役の幸治目線で書いたものだが、いかんせん15000字という縛りで中途半端な作品となった。わかっちゃいる、わかっちゃいるが関の山。そう、見事に落選したが、せっかくなんでひと目に触れるところにおいておく。

 やはり残り湯に温味などない。震える手で次から次へと扉を開ければ寒気のみ這い出て

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第4回阿波しらさぎ文学賞一次選考迄通過作『火夫』

第4回阿波しらさぎ文学賞一次選考迄通過作『火夫』

「なんあれ?」
 助手席の妻が低い声でそう呟き顎をしゃくった。
「え?」「そこよそこー」エイヤッと覚悟して首を右へ捻り、なんとか視線を向ける。羊羹屋横の原っぱに汚らしい猫の額程度の木造小屋があり、ボロ壁の隙間からにゅっと突き出た炎がトタン屋根を火先でペロペロ舐めていた。小屋の前にいる五十台後半と思われる見知らぬ男が農業コンテナの上からヒョイっと飛び降りると、素早く木片を小脇に抱えた。男は棒のような

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