菜の花

 「あ…そっかぁ…。」黄色い花が風に揺れているのをみて、思わず呟いた。もう春なのか。

3/14、今日は父の命日だ。世間的にはホワイトデー、「男の子から誘われても、お父さんのことが頭に浮かぶようにこの日にしたのかもね。」と母はよく笑って言っていた。その言葉通り私は「3/14」「ホワイトデー」で父を連想するようになってしまった。チョコが並ぶコーナーでもお供えするビールを買わなきゃと考えてしまう。父はビールが大好きだった。おいしそうに飲む姿をみて、いつか飲みたいと思っていたが、どうも私にはまだ早いらしい。ビールを飲みながら野球の中継をみる 典型的な「お父さん」だった。

 父は映画が好きだった。色々なビデオを借りてきてくれたし、映画館にも連れていってくれた。寝室にあるテレビで1人でみていることもあったが、私と兄は寝ているふりをしてこっそりみていた。「ハンニバル」をそんな感じでうっかりみてしまって、トラウマになってしまったことを、よく兄と笑って話す。

 父は本が好きだった。一緒に読んだりしたことも、読み聞かせをしてもらったこともないけど、父の部屋には本がたくさんあった。子供のわたしが手に取りたくなるような本はなかったけど、私はその部屋が好きだった。難しい本を読んでるような顔をして、よくそこで絵本を読んでいた。

 父は菜の花が好きだった。なんで好きなのかその理由も知らないんだけど。よく菜の花をみて「春だな。」と嬉しそうにしていたのは覚えている。私の姉は「夢菜」、私は「あす花」、二人の名前には「菜」と「花」が入っている。二人合わせると父の好きな菜の花になるのだ。

父は私のことが好きだった。たくさん写真を撮ってくれて、ビデオも撮ってくれた。肩車してくれたしおんぶもよくしてくれた。家族旅行でディズニーランドに行った時は、シンデレラのガラスの靴をくれた。「片方しかないから、もう片方は将来大事な人ができたら買ってもらいなさい。」と。

そして彼からのプロポーズ。彼の手にはガラスの靴。

お父さん、揃ったよ。


菜の花の咲く季節、思い出すことがたくさんある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?