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indigoの星空(キャンパス)

登場人物:
瀬原 藍衣(せはらあい)
小瓦 恒一(おがわらこういち)
瀬原 宗介(せはらそうすけ)
瀬原 真希(せはらまき)

あらすじ:
声優を夢みて、芸能事務所『オーロラプロダクション』が経営する養成所『オーロラスクール』に通う、この物語の主人公、練習生の瀬原藍衣(せはらあい)は、養成所のレッスンやバイトに忙しい毎日を過ごし、遅めの夏休みをかねて、親せきがやってるペンションでアルバイトをするため向かっていた…久しぶりに親せきのペンションに行くアイは道に迷っていた…そんなところに1人の男性と出会う…

第一章:
夏も終わりに近づき、紅葉も色づいてきた頃…

アイはレッスンやバイトに明け暮れた、毎日から遅めの夏休みのため、親せきがやってるペンションにお手伝いもかねて親せきのところへ向かっていた…

アイ『あれ…れ?どこにいるのわたしは?』
アイ『また、迷子か〜!!』
アイ『1人で来るんじゃなかったあ〜!!』

生粋の方向音痴でもあるアイは迷子は慣れっこのようで、ポケットからケータイを取り出した…

アイ『とりあえず、おばさんに電話…しよう…』

と、ケータイを取り出したものの…

ケータイも圏外だった…

アイ『ありゃりゃ…圏外かあ〜!!』
アイ『まいっか!!とりあえず、歩こう!!』

生粋の方向音痴で根っからの能天気、楽天家のアイは少々のことではビクともしなかった…

それからしばらく歩くと、見覚えのある公園が出てきた…

アイ『ここまで来たら、もう大丈夫!!』

アイはその公園の遊歩道を意気揚々と歩き出した…

そんなアイに1人の男が話しかけた…

男『あの…すみません。』
アイ『はい?』
アイ『あ!!おじさんも迷子ですか?』
アイ『わかります!!わたしも迷子なんで!!』
男『え?あ、いや…そうじゃなくて…』
アイ『え?じゃあなに?』

男は腰をかけていた公園のベンチから立ち上がり、アイの傍にいった…

男はアイに1枚の名刺を渡した、そこには『画家 小瓦恒一(おがわらこういち)』と書かれていた…

アイ『画家…の、お、かわら?』
男『小瓦(おがわら)です。』
アイ『おがわらさん…。』
小瓦『はい…。』
アイ『で、わたしになんの用なんですか?』
小瓦『あなたに私の絵のモデルになってもらいたいんです。』
アイ『はい?モデル!?…わたしがですか?』

見知らぬ男からの突然のお願いに能天気で楽天家のアイも驚いた…

だが、小瓦のそのまっすぐな眼差しは真剣さを物語っていた…

その眼差しに真剣さを感じ取ったアイは、真剣に答えた…

アイ『ごめんなさい。モデルとか恥ずかしいし…それに親せきのペンション手伝わないといけないから…モデルはほかの人を探してください。』

小瓦は寂しそうな笑みを見せる…

小瓦『そうですか…。』
小瓦『無理なお願いをしたようですね…』
小瓦『忘れてください…。』

そういうと小瓦はアイに背を向け、ベンチにまた腰をかけ、目の前のキャンパスに筆を傾けた…

その寂しそうな姿に気になりつつも、ペンションへと急ぐ…

遊歩道を抜け15分歩き、やっとペンションにたどり着く…

アイ『はあ〜…やっと着いたよ!!』

アイがペンションに着いたときには、空はもう茜色へと染まっていた…

アイ『こんばんは…』
真希『あら〜藍衣ちゃん…遅かったわね…また迷子になったの?』
アイ『まあそんなところ…』
宗介『いらっしゃい…』
アイ『こんばんは…おじさん…』

宗介はアイの母親の兄である…

宗介の妻の真希が身重のため、アイの夏休みがてらペンションのお手伝いに来たのだった…

真希『藍衣ちゃん…ごめんね…手伝いなんかに呼んじゃって…』
アイ『ぜんぜん大丈夫!!』

と、そこに公園で出会った小瓦がペンションに来た…

小瓦『すいません。遅くなってしまって…』
真希『先生…おかえりなさい…』
真希『夕食の支度出来てますから、食堂でお待ちください。』
小瓦『はい…ありがとう。』

小瓦が真希の傍にいた、アイに気づき、会釈して食堂へと行った…

真希『藍衣ちゃん…先生のこと知ってるの?』
アイ『うーん…さっきここに来る途中の公園でちょっと会っただけ…』
アイ『画家さんなんだって…』
真希『そうね…』
真希『今は作品描いてないみたいだけど、一時期は一枚描くとオークションでウン千万にもなったんだって!!』
アイ『ほえ〜そんなすごい人なんだ〜!!』
宗介『さあ〜藍衣ちゃんも食堂で夕食食べな!!』
アイ『はーい!!』

第二章:
夕食を済ませた2人…

アイは食堂の片付けを真希と共に手伝っていた…

小瓦『あの〜すいません。』
小瓦『テラスでコーヒーをいただきたいので、運んでもらえますか?』
真希『コーヒーですか?わかりました。』
真希『あとで、お持ちします。』
小瓦『ありがとうございます。』

真希の淹れたコーヒーをアイが小瓦の居るテラスまで運ぶ…

真希『藍衣ちゃん…これ先生のところへお願い…』
アイ『わかった…』
アイ『小瓦さん…これどうぞ…』
小瓦『あ、ありがとう。』
アイ『これから冷えてくるから、長居しないように…って、真希さんが…』
小瓦『わかりました。そうします…。』

アイは小瓦の寂しげな佇まいが気になり、昼間の話を聞いた。

アイ『あの…モデルの子、見つかりましたか?』
小瓦『いいえ。』
アイ『そうですか…なんでわたしに声をかけてくれたんですか?』

小瓦はコーヒーカップを傾ける手を止め話し出した…

小瓦『実は、私、指名手配されているんです。』
アイ『へぇー…えッ!?』
小瓦『私の友人が1ヶ月くらい前に何者かに殺されてまして…その目撃情報や近くを彷徨く不審者に私がよく似てたらしく…』
小瓦『もちろん、私はそんなことやっていない!!』
小瓦『ですが…当時の私にはアリバイもなく、動機もあるってことになって…』
アイ『動機?』
小瓦『はい…その友人に借金をしてて…そのお金を返せなくなって殺したんだろ…って…』
小瓦『画家というのは、絵を描いて生計を立てています。その絵が売れればお金は入ってきますが、売れなければ一円も入ってきません。』
アイ『なるほど…警察には行かないんですか?』
小瓦『警察に行く前に私にはやり残したことがある…だから、それを成し遂げるまで警察には行けないんです…』

小瓦はカバンから古びたスケッチブックを取り出し、アイにスケッチブックを渡す…

そのスケッチブックの中をめくると、少女の姿が描かれていた…

太陽のごとく温かみのある少女の笑顔、スケッチブックから涙が溢れてくるかのような泣いている少女、母親らしき人と手を繋いてる少女、照れくさそうにお澄まししている少女、まん丸に頬をふくらまし拗ねている少女…

スケッチブックの中にはいろんな表情をした少女の絵で溢れていた…

小瓦『私には娘が居ました。そこに描かれてているのが娘です。』
小瓦『娘は、小学校に入学したばかりの7歳という短い命が尽き、夜空に輝く星となりました。』
小瓦『まだ小さな背中に真っ赤なランドセルを背負い、黄色い通学帽を被り、その日も太陽のような笑顔で『いってきま〜す!!』と、家を出た10分後…過積載のトラックがカーブを曲がりきれず、横転…娘はその下敷きになりました。』
小瓦『そんな娘も、生きていれば今年で22歳…』
アイ『(22歳…わたしとおなじ歳だ…。)』

自分とおなじ歳の女の子の話に他人事には思えなかった…
小瓦は堰を切ったように話を続ける…
アイは時間も忘れて、小瓦の話に聞き入る…
小瓦はアイに渡したスケッチブックを手に戻し、一枚一枚ページをめくる…

小瓦『このスケッチブックには7歳までの娘の姿しか描かれてません。』
小瓦『中高生となり思春期の娘の姿や大学生の娘の姿、二十歳の成人式を迎えた娘の姿…これまでなん枚もなん枚も描いてきましたが、キャンパスの中の娘は娘じゃないんです…』

小瓦は夜空に顔を向け、天を仰ぐ…
その寂しげな横顔は晴れることなく、月夜が照らす…

小瓦『そんな時にとある事件の容疑者となり、殺人犯の汚名を着せられました…』
小瓦『どうせ捕まるなら最後に一枚、大人になった娘の姿を描きたいと思い時間がほしくて姿を消しました…』
小瓦『姿を消し、1ヶ月…』
小瓦『娘の姿を思いながら描くも、娘じゃないみたいで…そんなときに貴方が私の目の前にあらわれたときには娘が生まれ変わり、私に会いに来てくれたのかと思い、咄嗟に声をかけモデルをお願いしてしまいました。』
小瓦『無理なお願いをしてすいませんでした。』
小瓦『大人になった娘の姿を観れたようで、決心がつきました…』
小瓦『明日、警察に出頭します。』
小瓦『こんな話に付き合ってくれてありがとう…もう遅いから休みましょう…』

小瓦はコーヒーカップを傾け、冷めたコーヒーを飲み干し立ち上がる…

アイ『いいえ…ぜんぜん大丈夫です。』
アイ『おやすみなさい…。』
小瓦『おやすみなさい。』

第三章:
一夜明け、アイはペンションの庭を掃除していた…

そこに小瓦が荷物をまとめ、チェックアウトを済ませ出てきた…

アイ『おはようございます。』
小瓦『おはようございます。』
アイ『行くんですか?』
小瓦『ええ…今から行ってきます。』
小瓦『それでは…お世話になりました。』

小瓦が会釈をし、アイの横を通り過ぎる…
その後ろ姿を見送るアイが深呼吸をし、小瓦を引き止めた…

アイ『あの〜!!』
アイ『わたしで!!わたしでよかったら、描いてくれませんか?』

小瓦が静かに振り向き…
寂しげな笑みを観せる…

小瓦はアイの目の前まで歩み寄る…

小瓦『ありがとう。ありがとう。』

2人は絵を描くために、あの公園の湖へとやってきた…

湖のほとりに着くなり小瓦は画材道具一式を広げ、準備をする…

小瓦はアイにポージングの指示をする…

小瓦『準備ができました…では、湖を背に斜め前を観るように立ってください。』
アイ『はい…。』

小瓦はそう言うと今まで寂しげな佇まいから、眼光鋭く、キャンパスにむかった…

その手は迷いなく、キャンパスの上を走る…

時間も忘れて、キャンパスにむかい気がつくと、辺りは日が沈み、月夜が広がっていた…

その空はまるでインディゴ(藍色)に染まった星空(キャンパス)のようだった…

小瓦『できました…。』
アイ『え?おつかれさまです!!』
小瓦『いいえ…とんでもない…。』
小瓦『ありがとう。貴方のおかげで最高の最後の一枚を描くことができました。』
小瓦『これで、思い残すことなく、自分の無実を明らかにしに行けます。』
アイ『お役に立てたみたいで…よかったです!!』

小瓦は画材道具を片付け、2人は公園の遊歩道を歩く…

公園の出口まで来るとアイが…

アイ『先生…いってらっしゃい…』
小瓦『いってきます。』

2人は公園の出口から別々の道を歩き別れた…

アイの短い夏休みはそうして終わり、地元に帰ってきたアイはまたいつもの忙しい日々を過ごしていた…

そんなある日、バイトを終え、一人暮らしの部屋に帰ってきた、アイがテレビをつけると小瓦が容疑者となっていた、事件の真犯人が逮捕されたニュースがやっていた…

アイ『あ!!犯人逮捕されたんだ…やっぱり先生が犯人じゃなかったんだ…よかった!!』

と、一息ついてると部屋のチャイムが鳴った…

アイ『ん?なんだろ?』
アイ『はーい…』
宅配業者『お荷物でーす!!』
アイ『うわ!!重ッ!!デカッ!!なんだこれ!?』

送り主をの名前をみると、宗介・真希の2人からだった…

アイ『なんだろ?』

一人暮らしの小さな部屋に似合わないほどの大きな荷物に驚きながら荷物を開けると…それは、小瓦がアイをモデルにして描いたあの絵だった…

見るからに高価そうな額縁に額装されて、ペンションに送られてきた絵をアイのところに転送したのだった…

絵のことは一切わからないアイだったが、その絵の素晴らしさはわかるような気がした…

アイ『これがあの絵なんだ〜!!』

その絵はインディゴ(藍色)に染まった星空の下にある、湖のほとりに1人佇む女性が描かれていた…。



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