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#それでもスポーツで生きていく・#22

~各論【第2章】
スポーツの『自治』から『自主経営』へ

スポーツ界の「生産消費者(prosumer)」編

こんにちは、スポーツエッセイスト・岡田浩志です。

第2章、2本目の投稿は、スポーツ界の「生産消費者」というテーマを持って文章を綴っていこう、と思います。

「やりがい搾取」と言われるスポーツ界ですが、そのような環境下のなかでも、自ら志願し、ボランティア精神を持って、スポーツの現場に横たわる諸雑務に、前向きに取り組む方々がたくさんいるのも、この業界の特徴です。

そうしたスポーツ界が、これから自立の道を歩むためには、スポーツボランティアの存在に依存を強める方向ではなく、ボランティアが持つ自主・自律性を有効に活用することが重要ではないか、と僕は考えます。

このテーマを考える上で、一番のキーワードとなるのが、「生産消費者(プロシューマー:prosumer)」という概念です。

生産消費者(prosumer)とは

生産消費者 (せいさんしょうひしゃ、prosumer) もしくは生産=消費者プロシューマーとは、未来学者アルビン・トフラーが1980年に発表した著書『第三の波』の中で示した概念で、生産者 (producer) と消費者 (consumer) とを組み合わせた造語である。生産活動を行う消費者のことをさす。
-Wikipediaより

プロシューマーと聞いても、すぐに事例がなかなか浮かびにくいかもしれませんが、例えば、主婦の方が、消費者の視点でモノ作りのアイデアを生産者に提案し、それが商品開発に活かされるようなケース。最近だと、インフルエンサーマーケティングのように、フォロワーの多い消費者を周知活動のなかに取り込み、拡販を計ったりするような取り組みが見られるように思います。

熱心なスポーツの消費者は生産に関わりたい

僕は、プロスポーツの世界で BtoC (Business to Customers) の仕事に関わっていたのですが、熱心なファンというのは、我々サービスの生産者以上に生産的、と感じるところがあって、そのパワーをもっとダイレクトに生産活動に活かしてもいいのでは、と感じておりました。

自分が、プロスポーツクラブで対顧客の仕事をしていた頃は、まだCRM(Customer Relationship Management)が主流で、ビッグデータとか言われる前の時代でしたから、概ね顧客データを来場頻度などでセグメントし、その対象層ごとに施策を立てるような組み立てをしていました。

この顧客ピラミッドの一番上に向かって、来場頻度が上がるように策を打つことと、一番下の裾野を常に大きく育てることが一番の命題で、一番上に行き着いたら、その人たちにはなす施策がなくなる、といった感じでした。

クラブのあらゆる施策にお金を出してくださるような方になると、「次は何に協力したらいい?」とか「具体的に協力して欲しいことを提示して欲しい」など、サービスを享受したい、というよりは、クラブの発展のためにむしろ労力を提供したい、という方が増えていく印象なのです。

年間券を買った方々に招待券の束を渡すと、どんな層よりも確実に新規顧客を連れてくるという事実

新しいファンを増やそうと、着券履歴が取れる招待券を配布するキャンペーンをやったことがあるのですが、一番招待券の着券率が高くなるのは、年間席を保持しているようなコア顧客にお渡しした招待券なのです。

1年間チケットを真面目に自費で購入された方が、招待券の束を見れば、普通は、真面目に買ったことが馬鹿らしく思えるのが正常ですが、新しいファン層を集めたい、というクラブの思いをセットで伝え、協力を仰げば、その方々は誰よりも、クラブの宣教師として活動してくださるのです。

顧客ピラミッドの頂点にいる優秀な消費者は、むしろ生産活動に巻き込んだ方がいい、という思いを確かにする出来事でしたし、それをうまくやれていないクラブほど、概ねコア顧客が、問題を起こしたり、新規顧客を遠ざけるような動きを誘発しているように思うのです。

生産消費者によるボトムアップ改革の時代へ

世間では『働き方改革』の旗印のもと、兼業が容認される空気や、投資のようなポートフォリオ型のキャリア像を提言する流れがあります。

それと同じようにスポーツ業界においても、同様の変化が、これからは起こってくるものと考えます。

プロスポーツ分野においては、サービスの「生産者(producer)」「消費者(consumer)」が、以前は大きく分離し運営がなされていましたが、昨今スポーツボランティアの世界が拡大し、「生産消費者(prosumer)」的な特性をお持ちの方も増えてきています。

そして旧来のアマチュアスポーツ分野では、ほとんど「生産者」がおらず、「消費者」のみが無給でシステムを支えるような仕組みで成り立っているのです。

公共事業としてトップダウンで大きなお金が動いている2020年のビッグイベント後、スポーツ界が自立して生き残りを図る上では、これら「生産消費者」の方々によるボトムアップな貢献が、市場拡大のキーマンになってくるのではと、私は考えます。

そして、これまでスポーツ界で「生産者」の立場であった人たちは、この「生産消費者(prosumer)」を戦略的に活用できる「消費生産者(conducer)」(※造語です)的な視点を持つことが、今後求められると考えています。

繋がりあう人を多くすること

いずれにしても、これからのスポーツ界は、「生産者」と「消費者」の垣根が緩くなってくるものと思われます。そして関わり合う人が多くなればなるほど市場が拡大し、この関係性の構築に失敗した事業者は、規模の衰退に悩むことになるでしょう。

この変化について、私はアンテナを立て、今まで「消費者」だった方々に「生産者」の視点を紹介したい、と思いますし、「生産者」の方々には、「消費者」を取り込んで事業を行っていく視点を啓発していきたいと考えています。

今回は概論的な話でしたが、これからケーススタディなども交えつつ、論点が分かりやすくなるような記事を増やしていきたい、と思います。

スポーツエッセイスト
岡田浩志

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