見出し画像

#それでもスポーツで生きていく・#21

~各論【第2章】
スポーツの『自治』から『自主経営』へ

こんにちは、スポーツエッセイスト・岡田浩志です。

今回の投稿から各論【第2章】に移ります。#それでもスポーツで生きていく・#2 で掲げた「スポーツ界のやりがい搾取」という問題提起に対し、#7 で提示した問題解決の糸口「スポーツ界の自立(autonomy)について」という話をこれから深掘りしていこうと考えております。

過去の投稿をご覧になっていない方は、以下の2本の投稿をご覧になっていただけると、話が分かり易くなるように思います。

≪ 自立のための5つの行動原則 ≫

1. 存在すること自体に価値を認める
 (Being Management)

2. 本心からやりたいことだけをする
 (気の進まないことはしない)

3. 過去と決別して今ここに集中する
 (今できることに専念する)

4. ダメなことを理由に頑張らない
 (高すぎる理想を掲げない)

5. 内面の想いと表出行動を一致させる
 (インテグリティを持つ)

前回の投稿までで、上記の1.のテーマにつき、議論を一段落させ、今回からは2.の「本心からやりたいことだけをする」がテーマとなります。

好きなことを仕事にしてよい、むしろすべき

スポーツビジネス界の議論では、「スポーツ好きはスポーツビジネスに向かない」的な論調がここ10年くらいは主流にあったように思います。

確かにスポーツとは関係ない実業界の大物が、スポーツ経営に参画することで、見違えるようなイノベーションが起こっている例もあります。

楽天の三木谷氏しかり、地元長崎でサッカークラブの経営に参画した高田氏しかり、ビッグビジネスを牽引するだけの経営手腕やカリスマ性を備えた経営者は、まだスポーツ畑の人たちから、なかなか育たないのが現状かもしれません。

しかしながら、スポーツ界の経営は、数少ないトップ層が動かしているのではなく、実際には組織末端で、恵まれない環境のなか、歯をくいしばり実務にあたる多くの現場労働者によって支えられています。

来る2020東京五輪でも、実際に世界中からやってくる来場者に面と向かって対応することになるのは、総勢11万人ともいわれるスポーツボランティア

東京五輪ボランティアの過酷さが改めて浮き彫りに 終電で会場入り?
2019年8月16日 15時0分 livedoor NEWS

プリペイドカード1日1,000円という「やりがい搾取」的条件であっても、自主性・主体性をもってスポーツの発展に関わろうとする層がそれだけいる、という、スポーツ界の、ある意味別の側面を物語っています。

この自主性・主体性を、これからのスポーツ界の自主自律(autonomy)に正しく活用せずして、どう未来を描くのだろう、というのがこの章を通じて検討したいことなのです。

スポーツボランティアの歴史

オリンピックにおいて、初めてスポーツボランティアが活用されたのは、1948年のロンドン五輪と言われています。ロンドンでは2012年の五輪でも、7万人のボランティアを組織しており、ボランティア先進国といえる実績を残しています。

ボランティアや慈善活動の文化はアメリカにおいて盛んで、ボランティア活動はアメリカの伝統とも言われています。ボランティア(Volunteer)の英語訳は、名詞は「志願兵」・動詞で「自発的に申し出る」という意味。ラテン語語源Voluntasは「自由意思」を意味します。

日本においては、1985年のユニバーシアード神戸大会で、初めてスポーツボランティアが機動されたとされます。1998年長野五輪では、3万6千人のボランティアが活動したほか、小中学校による「一校一国運動」でおもてなししたことも有名なエピソードです。

1993年のJリーグ開幕時には、鹿島アントラーズのホームタウン、鹿嶋市の文化スポーツ振興事業団、体育協会、サッカー協会が中心となって作った「カシマスポーツボランティアセンター(KSV)」がスタート。プロ野球界では2004年に楽天球団が球界再編で誕生した際にボランティア組織が立ち上がったとされます。

それ以外にも、地域のスポーツクラブや少年野球団の指導など、伝統的に無報酬のボランティアで成り立っている世界があることを考えても、日本においてもスポーツボランティアの歴史は、決して短いスパンで考えられるものではありません。

「ささえるスポーツ」と笹川スポーツ財団

する・みる・ささえる、と大きく3分類されるといわれるスポーツ分野のうち、「ささえるスポーツ」つまりスポーツボランティア分野を統括しているのは、笹川スポーツ財団です。

スポーツボランティアの定義 
地域におけるスポーツクラブやスポーツ団体において、報酬を目的としないで、クラブ・団体の運営や指導活動を日常的に支えたり、また、国際競技大会や地域スポーツ大会などにおいて、専門的能力や時間などを進んで提供し、大会の運営を支える人のこと (文部省,2000)

2012年には、特定非営利活動法人として日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)も設立され、スポーツボランティアの養成やコーディネート、周知啓発等の事業が推進されています。

どこまでがお手伝い?どこからが労務?

2014年に文部科学省の委託事業として、笹川スポーツ財団が発行した、イベント主催者向けのスポーツ・ボランティア運営ガイドブックの一節に、スポーツボランティアに関する一問一答があります。

どのようなお仕事を依頼すべきかについて、警備や金銭管理など、リスクを伴うものは原則として避けてください、という指針はあるのですが、交通費等に関する決まりはない、とされます。

このあたりに明確な規定がないことが、いわゆる「やりがい搾取」と言われるような事態を招く根拠になっているとも考えられます。

関わる人の自主性を、「スポーツ界の自立」のパワーに

2020年に向け、11万人。ラグビーワールドカップを支える方々の数も含めればそれ以上、この国に存在するスポーツ界の志願兵。大会が終わったら、ただお疲れ様と声をかけるだけでなく、これからのスポーツ界の自立に貢献できる可能性を秘めた戦力として、考えられないものでしょうか。

一方では『働き方改革』の旗印のもと、副業が推進されたり、様々な変化が予測されるこの国の労働環境です。

当連載では、スポーツボランティアをはじめとして、スポーツ界の働き方に関する記事を、これから10投稿を目処に綴っていこうと考えます。これから、わが町ではラグビーのワールドカップも4試合行われますので、その辺りも意識し取材等も行う予定です。

ご愛読のほど、どうぞ宜しくお願いします。

スポーツエッセイスト
岡田浩志

『みるスポーツ研究所』では、「それでも、スポーツで生きていく」皆さまの取り組みにもっと寄り添っていけるよう、随時サポートを受け付けております!