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好きな詩

随時更新

寺山修司

水になにを書きのこすことができるだろうか
たぶんなにを書いても すぐに消えてしまうことだろう
だが 私は水に書く詩人である
私は水に愛を書く
たとえ 水に書いた詩が消えてしまっても
海に来るたびに 愛を思い出せるように

映画館の暗闇というやつは、ときには数億光年の遠さを感じさせる。

ぼくが死んでも歌などうたわず  
いつものようにドアを半分あけといてくれ
そこから青い海が見えるように
いつものようにオレンジむいて
海の遠鳴り数えておくれ
そこから青い海が見えるように

野に咲く花の名前は知らない
だけども野に咲く花がすき
帽子にいっぱい摘みゆけば
なぜだか涙が 涙が出るの

谷川俊太郎

きみはぼくのとなりでねむっている
しゃつがめくれておへそがみえている
ねむってるのではなくてしんでるのだったら
どんなにうれしいだろう
きみはもうじぶんのことしかかんがえていないめで
じっとぼくをみつめることもないし
ぼくのきらいなあべといっしょに
かわへおよぎにいくこともないのだ
きみがそばへくるときみのにおいがして
ぼくはむねがどきどきしてくる
ゆうべゆめのなかでぼくときみは
ふたりっきりでせんそうにいった
おかあさんのこともおとうさんのことも
がっこうのこともわすれていた
ふたりとももうしぬのだとおもった
しんだきみといつまでもいきようとおもった
きみとともだちになんかなりたくない
ぼくはただきみがすきなだけだ

ぼくはきっとうそをつくだろう
おかあさんはうそをつくなというけど
おかあさんもうそをついたことがあって
うそはくるしいとしっているから
そういうんだとおもう
いっていることはうそでも
うそをつくきもちはほんとうなんだ
うそでしかいえないほんとのことがある

万有引力とはひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に僕は思わずくしゃみをした

ほんとうに出会った者に別れはこない あなたはまだそこにいる 目をみはり私をみつめ くり返し私に語りかける あなたとの思い出が私を生かす 早すぎたあなたの死すら私を生かす 初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も

カムチャツカの若者がきりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は柱頭を染める朝陽にウィンクする
この地球では いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

最果タヒ

都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。塗った爪の色を、きみの体の内側に探したって見つかりやしない。夜空はいつでも最高密度の青色だ

なにが恋かなのかなんて誰もわかってないのに、また誰かが誰かに説教している。異常だねって、雨の中できみが笑って、羨ましい気がしたとき私はそれになにも名前をつけたくなかった。

西條八十

やがて地獄へ下るとき、そこに待つ父母や友人に何を持つて行かう。たぶんわたしは懐から蒼白め、破れた蝶の死骸を取り出すだらう。さうして渡しながら言ふだらう。一生を子供のやうに、さみしくこれを追つていました、と。

アランチュールランボー

ある夜俺は“美”を膝の上に座らせた。苦々しい奴だと思った。俺は思いっきり毒づいてやった。

もう一度探し出したぞ、
何を?永遠を。
それは、太陽と番(つが)った海だ。
待ち受けている魂よ、一緒につぶやこうよ、
空しい夜と烈火の昼の切ない思いを。
人間的な願望から 人並みのあこがれから、
魂よ、つまりお前は脱却し、
そして自由に飛ぶという……

その他

牛乳の中にいる蠅
その白と黒はよくわかる 
どんな人かは 着ているものでわかる 
天気が良いか悪いかもわかる 
何だってわかる 自分のこと以外なら /フランソワヴィヨン

君は美しかったが、美しくなかった
事実、美しいという言葉は間違いだった
少なくとも君を叙述するなら
もっと偉大なる単語でなければならなかった
まだこの世界なんかに君を説明できる言葉はない
/백가희

愛してます。床に就く前にこの言葉を大切に包みました。夢の中で逢えたら君にあげるために。/?

降る雨には服が濡れますが
溢れる恋しさには心が濡れますね
脱ぐこともできず 乾かすこともできず /?

私は静かに生きるため森の中へ 人生の真髄を吸収するために 命ならざるものは拒んだ 死ぬ時に悔いのないよう生きるため /ソロー

風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。/長田弘

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難かしくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ /茨木のり子

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