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公開講座「ワークショップデザイン・ファシリテーション入門講座【ベーシック】」(イベントレポート)

“創ることで学ぶ活動”と呼ばれるワークショップは、企業・地域・学校など様々な領域において、近年急速に注目を集めています。一方で、“流行りのメソッド”としてワークショップという言葉ばかりが一人歩きし、表層的な形式ばかりがとりだたされ、「ワークショップって、付箋紙や模造紙を使った楽しいブレインストーミングの場でしょ?」など、間違った認識が広まってしまっているようにも感じています。本来100年を超える歴史を持った変革の方法論のワークショップにおいて、参加者の学びと創発を最大化するためのプログラムデザインとファシリテーションの技能を学ぶ場として、2018年10月7日、公開講座「ワークショップデザイン・ファシリテーション入門講座【ベーシック】」は開催されました。

この講座では、創発や学びを深めるワークショップデザインやファシリテーションについて、基本的な知識から熟達に必要なトレーニング方法までを学び、ワークショップ実践者として成長していくための土台づくりを目的としています。講師はミミクリデザインの代表・安斎勇樹が務め、サブファシリテーターは和泉裕之が務めました。また参加者として、約60名の方にお集まりいただきました。

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ワークショップとは何か?

まずは、ワークショップという活動が、学術的にどのように定義づけられているのか確認するところから始まりました。領域や立場によって様々な定義があり、あくまでも暫定的なものとしながらも、安斎はワークショップを以下のように定義していると言います。

「普段とは異なるものの見方から発想するコラボレーションによる学びと創造の方法」

その後はいくつかの事例とともに、演劇を発端として100年以上領域をまたいで紡がれてきたワークショップの歴史的系譜や、ワークショップの根本を支える4つのエッセンスなどについて、解説していきました。

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安斎 非日常性の強い実践や民主性の強い実践などのバランスの違いはありますが、ワークショップではこの4つの要素が大切にされています。そういう意味で「ワークショップは単なるメソッドやフレームワークではない」と僕は思っています。確かにメソッドやフレームワークとして応用可能な部分もありますが、これらの要素を大事にしている限りにおいて、ワークショップはある種の態度や考え方だと捉えています。

ワークショップは元々「工房」という意味の言葉で、僕はものづくりのやり方のメタファーとして、この言葉を使っています。近代まで日本の大企業は、同じくものづくりのメタファーで言うところの、“工場的なものづくり”のやり方によって、飛躍的に成長してきました。工場的なものづくりのやり方では、トップダウン的な体制のもと、設計図通りに同じ製品が大量に生産されていきます。しかし変化の激しい現代では、そのような工場的なやり方ではなく、一人ひとりが作り手で、作りながら作るべきものを探っていく“工房的なやり方”が重要とされています。特に、人材育成や商品開発などのイノベーションが強く求められる領域においては、上手くいくかはわからないがとりあえずやってみたり、もし上手くいかなかったとしてもそこから学んでいこうとしたり、実験を繰り返しながら、プロセスから学んでいこうとするものづくりの態度が、特に大切だと考えています。

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ワークショップをデザインする

続いてワークショップのプログラムデザインについて解説がされていました。安斎は、ワークショップのプログラムを『導入』『知る活動』『創る活動』『まとめ』の4つの段階から構成可能だとした上で、「ワークショップデザインとは、すなわちワークショップのプロセスのデザインである」と話します。

安斎 会議の前にアジェンダを組んだり、教師が授業の前に教える内容をまとめたりするのと同じように、決められた時間のなかでどのようなプロセスを作っていくかが、ワークショップデザインの最初の一歩だと考えています。

そして参加者の体験のプロセスを具体的に作っていくために有効な二つの観点として「問いのデザイン」「遊びのデザイン」を挙げた上で、それぞれの説明と移っていきました。

ワークショップの「問い」をデザインする

安斎が学生時代にワークショップデザインを研究しはじめたきっかけは、「ワークショップは自由で創造的な場と言われているが、本当に自由度の高い問いから創造性は生まれるのか?」という問題意識だったそうです。修士研究を通じて実験的なワークショップを何度も開催し、その発話内容の分析を繰り返すうちに、「危険だけど居心地の良いカフェ」など、矛盾や葛藤を孕む“ひねった問い”が、創造的な発想・議論を生み出しやすいという事実を安斎は明らかにしてきました。

安斎 研究を通じて、メインワークの成否はお題の設定で決まることを確信しました。ファシリテーターの力量によっては自由度の高い設定の方が良い場合もあるにしろ、なんの考えもなく「創造的な発想や自由な議論を促すために、とにかく自由な問いでやりましょう!」というのは間違っていると思っていて、いかにして考えたくなるひねりを加える問いをつくるかが大切だと考えています。

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“ひねり“のほかにも、ワークショップ参加者に深い思考や活発な議論を促す仕掛けとして、「問いを段階的に設定する」「社会的と個人的、過去と未来など、様々な視座を提供する問いかける」などのポイントが、いくつかの事例やトレーニングワークの紹介とともに、述べられていました。

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ワークショップの「遊び」のデザイン

続いて「遊びのデザイン」について。ワークショップにおける「遊び」は先ほど挙げたワークショップの4つの主要素のうち、「非日常性」と密接に結びついています。子供の頃、鬼ごっこやお人形遊びといった遊びに夢中になった経験は誰しもにあると思いますし、日常的なルールの中でからだを動かしたり、想像力を働かせるうちに、普段からは思いもよらないような発想が生まれるというのは、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。

安斎は、社会学者のロジェ・カイヨワが提唱する4つの遊びの類型「アゴン(競争)・アレア(賭け事)・ミミクリ(模倣)・イリンクス(めまい)」のなかでも、ワークショップともっとも相性の良い「遊び」のタイプとして、見立て遊びを主とする「ミミクリ」を挙げ、重点的に解説していきました。

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しかしながら、ただ楽しく没頭できる活動を設定すれば良いわけではなく、ワークショップは創造の場であると同時に学習の場でもあるため、「その楽しい遊びがどのような学びにつながるのか」について考えなくてはなりません。すなわち、「生起したい学習のねらい」と「夢中になって取り組める遊び」が結びつくような工夫が重要となるのです。今回の講座ではそのような結びつける思考法のトレーニングワークが設けられていました。

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安斎 遊びのデザインにおいて学びや創発を促すための大きなポイントであり、問いのデザインとは異なる点として、狙ったテーマについて思わず考えたくなる、あるいは考えざるをえなくなるような、楽しげで面白い遊びの中に埋め込んでしまおうとする考え方があります。そのため、問いを用いるのか、または遊びを用いるのかでプロセスが異なってくることから、状況に応じたアプローチの選択が重要となります。

ワークショップにおけるファシリテーションとは

続いて、ワークショップのファシリテーションのレクチャーへと移っていきました。ここでも、先ほどプログラムデザインに関するところで紹介した「問い」と「遊び」の二つの観点が重要となる、と安斎は話します。「問い」について事前に良い問いを用意しながらも、当日の参加者の様子を見て別の問いに切り替えることも珍しくないそうで、柔軟かつ即興的適切な問いを作る力が、参加者の学びをさらに深めているためには重要なのだそう。また、「遊び」については、参加者が楽しく活動にのめり込むためにはまずファシリテーター自身が遊び心をもち、参加者を「非日常」の世界へと誘っていくような姿勢が非常に大切なのだと説明されていました。

そのあとはミミクリデザインが昨年調査した「ファシリテーターの困難さによる研究」のデータを紐解きながら、実践者の経験年数や領域によって困難さを感じるポイントが異なることや、ファシリテーターにも“芸風”とも呼ぶべきスタイルの違いがあり、自分の得意なタイプをしっかりと見定めることの重要性などについて、解説がされていました。

安斎 様々な人に「ファシリテーターってどんな人?」と聞くと、「笑顔で、和やかで、人の意見を引き出して…」と答える人もいれば、ズバッと切っていくイメージの人もいます。そして、理想として描いているファシリテーター像が、一つのタイプに偏ってしまっていることが結構あるんですよね。中には、自分のとは違う芸風の人を理想として目指してしまい、ものすごくぎこちないファシリテーションになってしまった、というケースもありました。自分の人間性と一致しないファシリテーションタイプを無理に当てはめてしまわないように注意することが重要なのでしょう。もし自分が苦手とするタイプの関わり方をする必要があるのなら、そういう人とペアを組んで実践することも有効ですし、あるいは芸風として苦手な部分をプログラムデザインで補おうとする意識もとても大切です。

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目的の希望に応じてワークショップデザインのスケールを考慮する

その後は質疑応答を経て、最後に安斎から「ぜひ考えてみてほしい視点」として、「ワークショップの部分活用と複合活用の可能性」に関する話題が語られていました。

安斎 「半日かけて行われる単発のワークショップの作り方を学んで、それを実際にやってみる」という規模の実践をMサイズだとしたら、それよりも小さい部分活用(Sサイズ)と、それよりも大きい複合的な活用(Lサイズ)もあると思っています。

部分活用というのは、ワークショップをやるわけではないけれど、ワークショップデザインやファシリテーション的な考え方を日常の仕事に応用するレベルのスケールの実践のことですね。会議やイベント、一対一のコミュニケーションを改善させるヒントとして、ワークショップのエッセンスは大いに活用できると思っています。一方で、もっと複合的に大きな課題を解きたいという時には、一回のワークショップでなんとかしようとしても無理がある場合が多く、半年なのか、一年なのか、適切な期間のプロジェクトを設計した上で、リサーチなど他の手法とも組み合わせながら、数回のワークショップを構成した目的達成のプロセスづくりを考えていくことが有効です。その意味で、目標に見合ったスケールのプログラムをデザインしていくことが重要なのだろうと感じています。本日はどうもありがとうございました。

ミミクリデザインでは、今回のような【ベーシック】レベルの講座を受講済みの方のみを対象として、さらに発展的・実践的な内容が学べる【アドバンス】講座も開催されています(詳しくはこちら)。

また、職業としてワークショップを開催したり、ファシリテーションをする機会はなくとも、ワークショップデザインを通じて養われる複数の物事を結びつける力や、多様な人とコミュニケーションを取るための場をつくる姿勢は、今後の生活における思考や行動の幅を広げてくれるのではないか、と感じています。今後もベーシック講座は定期的に開催し続けていきますが、講座を通じて、世の中にそうした工房的な精神を持つ人が増えていくことがより豊かな社会の形成に繋がっていくのではないか、と想像しながら、さらに良いワークショップデザインの学習の場を提供していきます。それらについてもレポートしていく予定ですので、どうぞお楽しみに!

【大阪編、開催決定!】
今回からさらにアップデートされた内容の講座を、大阪市にて6/27(土)にて開催いたします。現在参加者募集中ですので、興味のある方はぜひ下記ページよりお申し込みください!
▼6/27の詳細・お申し込みはこちら
http://ptix.at/G8lHFg

最新のワークショップデザイン論が体系的に学べるファシリテーターのための探求と鍛錬のコミュニティ『WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)』では、様々なイベントに加えて、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループ内で交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域に対する学びを日々深めています。現在参加者募集中ですので、興味のある方はまずは下記バナーより詳細をご確認ください。

執筆・水波 洸

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