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Workshop Spirit #4「組織開発からワークショップのスピリットを探る(講師・中原淳)」 【イベントレポート】

【参加者募集】
9/28(土)にて、一般公開イベント「Workshop Spirit - 次世代に継承していくワークショップのスピリットを探求する」を開催します!プログラムで得られた知見を広く共有し、多角的な意見を募りながら、さらなる検討をかさねていきます。どなたでもご参加いただけますので、興味のある方はぜひお気軽にお申し込みください!

▼一般公開イベント「Workshop Spirit - 次世代に継承していくワークショップのスピリットを探求する」詳細・申し込みページ
http://ptix.at/okrQJX


全6回の講座とオリジナルワークショップの実践を通じてワークショップの源流を探求し、実践者としての“魂”を洗練させる『Workshop Spirit』。その第4回が、6/29(土)に開催されました。

『Workshop Spirit』講座スケジュール
・4/13「キックオフ - ワークショップスピリットへの旅立ち」
・5/19「ワークショップのスピリットを体感する(中野民夫)」
・6/15「創造性からワークショップのスピリットを探る(安斎勇樹)」
▶︎6/29「組織開発からワークショップのスピリットを探る(中原淳)」
・7/13「ワークショップのスピリットと自分」
・(ワークショップのスピリットを活かしたワークショップを公開・実施)
・9/28「ワークショップスピリットの開花-実践報告会」
※()内は担当講師。敬称略。

第四回のゲスト講師は立教大学経営学部 教授の中原淳先生。「大人の学びを科学する」をテーマとして、企業における研修・ワークショップを中心とした人材開発・組織開発のプロジェクトも数多く歴任されてきました。また、ミミクリデザイン代表の安斎が修士・博士課程に所属した研究室の隣にあったのが中原先生の研究室であり、様々な面で影響を受けた、いわば“師匠”のひとりにあたる人でもあります。

▼本日の講師(敬称略)
中原 淳 (立教大学 経営学部 教授〔人材開発・組織開発〕 / 立教大学大学院経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査 / 立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長)

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北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。著書に「職場学習論」(東京大学出版会)、「経営学習論」(東京大学出版会)などがある。

第4回となる今回のテーマは、「組織開発からワークショップのスピリットを探る」。前半では“逆張り人生だった”と語る中原先生の幼少期から現在研究者として活躍するに至るまでの主な出来事がエピソード形式で語られました。その後、中原先生の専門領域であり、ワークショップの源流のひとつである「組織開発」の思想的なルーツが、いわゆる企業の“現場”においてどのように取り入れられたのか、また、その結果何が起こったのか、アカデミックと企業内実践の双方の視点を往復するかたちで解説されていました。

「何を失えば、あなたは、あなたではなくなりますか?」


「何を失えば自分は自分ではなくなるのだろうか?」
中原先生は、今回の講義で自身のワークショップ・スピリット(実践者としての軸となる価値観・あり方)を伝えるために、このような問いを出発点として思考を深めていったそうです。そして、幼少期から現在に至るまで一貫して大事にしてきた、次のような姿勢が浮かび上がってきたと言います。

「外に向かうこと」×「変わり続けること」

その後中原先生がこれらの思いを強く抱えながら、どのような経緯で組織開発やワークショップに触れるようになったのか、時系列順に語られました。「決して嫌いではなかったが、だんだん息苦しくなっていった」と語る北海道での幼少期から学生時代。「学ぶことが、外に出るための手段だった」と話すそのような時期のエピソードから、猛烈に勉強に励んだ大学受験期。東京大学に進学したものの、結局そこでも別の閉塞的な枠組みに押し込められてしまうのだと気づき、「何が目的なのかわからない」と、虚しくなってしまった時のこと。

そのような日々を過ごす中で、何気なく受講したある講義で、「なぜ自分の人生はここまで教育に翻弄されるのか?」と疑問を抱き、学習研究に興味を持ち始めたと言います。それからは佐伯胖先生や苅宿俊文先生といった先達的研究者の方々から教えを受けるうちに、学習研究に惹かれ、ワークショップについて実践的に学んでいくようになったのだと述懐していました。

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そうして研究者としてのキャリアをスタートさせた中原先生は、コンピューターを用いた対話的な学習に関する研究で博士課程を修了します。しかし、ほどなくして「わたしが研究することで、誰に何をもたらしているのだろうか?」という悩みに行き当たり、すでに確立された領域ではなく、あくまでこれから確立されるだろう領域にこだわりたいという思いから、研究の方向性を大きく変え、人材育成の領域に飛び込みました。

「皆さんはワークショップを通して、誰に何をDeliverしていると思いますか?」

中原先生から参加者に向けて投げかけられたこの問いかけが、自身のワークショップ・スピリットについて理解を深めていくこの講座ならではのシーンとして特に印象的でした。

研究と現場のはざまで..


そうして企業の人材育成を專門とする研究者として歩み始めた中原先生でしたが、そこでは現場とアカデミックのはざまで起こる様々な苦労の数々が待ち受けていました。「(研究は)企業にとって何の役に立つの?」「人材開発の研究者ならオマエがやってみろ」「調査は良いんですけど、その後はどうするんですか?」といった(たとえ本人に悪気はなくとも)容赦のない言葉を嫌というほど浴びていた当時の中原先生にとって、ワークショップ・研修・組織開発のプロジェクトは、自分の研究内容を企業の人に届けるための手段だった、と言います。

そして、ワークショップや対話的活動をはじめとした「相互作用を通した学習」を企業に導入するためのアプローチをくり返し実践していくうちに、中原先生が大学生の頃に取り組んでいた教育系のワークショップで大事にされていたコア・エッセンスは、企業の人材育成や組織開発においても共通して重要であることに気がついたと話していました。

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人材育成から組織開発へ


はじめは"人材育成"というワードに焦点を当て研究と実践に取り組んできた中原先生でしたが、働き手や働き方が多様化し、それらに対応した職場環境を構築する必要性が高まるにつれて、”人材"よりも、”組織"全体に向けたアプローチを企業から求められるケース、すなわち「組織開発」の案件の数が増えていったそうです。もっとも、より大きな成果を出そうとすれば、「人材」だけでなく、その受け皿となる組織も成熟する必要があるのは当然で、中原先生としてもその頃には自然と「人」と「組織」の両面に働きかけるようになっていたとのこと。組織が良くなるためには、「社員の一人ひとりが大きく成長する」や「成長する人の数を増やす」ための施策もある程度重要ではあるものの、それだけで組織が変わるのかと言われればそれほど単純な話ではなく、組織を変えるためには、「関係性」や「目標」といった、組織内で空気のように存在する要素にも目を向けなくてはなりません。だからこそ組織開発は難しく、また、”フロンティア”なのだと、中原先生は語っていました。

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途中、中原先生によって、思考を深める切り口となる問いが次々に書き出されていきました。

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そこから先は、中原先生による書籍「組織開発の探求 (著・中原淳、中村和彦/ダイアモンド社)」の内容に沿って、「組織開発」とはどんな概念なのか、改めておさらいする時間に。学術的定義が「27通りの組織開発の定義のなかに60個もの変数が存在している状況」にあるとされ、完全に統一された定義を打ち出すことは難しい中で、実務の上でどのように「組織開発」という言葉をとらえたらいいのか、「風呂敷」をキーワードとして、解説されました。

また、組織開発の基本的なプロセスである「①見える化」「②ガチ対話」「③未来づくり」の3つのフェーズにおいて、ワークショップがどのように有効に機能するのか、具体例とともに語られました。「データだけでは"現場"は変わらない。データは対話を通じて『意味づけ』られてこそ"現場"を変える」という台詞が特に印象的でした。

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ただ聴講するだけでなく、合間合間に「教え合い」というグループワークの時間が設けられていたのも重要なポイント。聞いた内容を自分の体験と紐付けて語り合うことで、多角的に理解を深めていきました。

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組織開発とはグループ単位の経験学習である


引き続き「組織開発」の講義は続きます。午前中の現場での実践の様子を踏まえた上で、午後からはアカデミックにおける組織開発の研究がどのような歴史的変遷をたどってきたのか、語られました。中原先生によると、組織開発は、組織開発と呼ばれるよりも前の時代を含めると、現在に至るまでに「3つの階層」を積み重ねるように発展してきた、と言います。

3F: 組織開発の独自手法
2F: 集団精神療法
1F: 哲学的基盤

組織開発の基盤となる思想・考え方は、学習における経験の重要性を説いた哲学者であるジョン・デューイ(1859-1952)や、デューイの理論を二次元化し、「経験学習サイクル」としてモデル化したディビット・コルブ(1939- )による影響を大きく受けています。中原先生は経験学習の「メタにあがり、過去を見つめ、未来をつくる」というプロセスは、対象を個人から組織へと拡大したとしても有効だとして、「組織開発とはグループ単位の経験学習である」と簡潔にまとめていました。

また、経験学習というキーワードに触れる際に、「(ワークショップを実施する時に)得意技に逃げてはいませんか?」と、比較的強い語調で問いかけていた場面は、非常に印象深いシーンのひとつ。実践者として質の良い学習を得ていくために、多様な経験を積むことができているか。逆に言えば、得意なやり方に逃げてはいないか。確かに得意なやり方に頼っていれば、安心して取り組めるかもしれません。しかし他方でそれは貴重な学習の機会を逸しているということでもあります。また、ワークショップ経験を積めば積むほど、"こなす"ような意識になってしまうことにも気をつけなくてはいけないと、中原先生は言います。そのような兆候を感じ取ったら、新しいことにチャレンジしたり、振り返りを丁寧に行なったりしながら、新鮮な学びを得ようとする意識を持ち続けることが大事なのだと話していました。

組織開発の"黒歴史"- ファシリテーターに”倫理観”が求められる理由とは


デューイらの思想が”考え方"の原点だとすれば、組織開発の”手法"の原点となっているのが、「集団精神療法」です。例えばジクムント・フロイト(1856-1939)による、「意識しないもの・意識できないものから発生する病理は、”語り合う”ことで顕在化される」という考え方は、先述の「見える化」のフェーズでその類似性を垣間見ることができます。このように臨床心理学の観点から学び、人間の心に働きかける組織開発は、間違いなく“パワフルな手法”ではあるのですが、そのパワフルさ故に、扱いを誤れば危険な方法でもある、とのこと。そして、その危険性は、集団精神療法が「集団の力を個人に対して利用するもの」から、「集団の力が集団メンバー間の関係の治療に用いられるもの」へと変容したことで、さらに大きくなっていったそうです。

事実、集団精神療法から現在の組織開発へと至るまでの”過渡期”において企業で盛んに行なわれた手法の中には、実践の場が急速に拡大したことから、場を設ける実践者の育成が追いつかなかったり、本来の方法とは「似て非なる」実践が横行したりする中で、参加者が重大な心理的ダメージを負ってしまうケースもあったそうです。有用な面も多々あるものの、実践者の倫理観次第で大きな問題を引き起こしかねない点から、中原先生は確かな実力と倫理観を持つ実践者を養成し、質を保証していくことの重要性をくり返し強調していました。

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現在の組織開発のルーツとして紹介された、Tグループや感受性訓練、ベーシックエンカウンターグループなどの手法は、同時にワークショップの元祖とも言える手法です。正しい倫理観を持ち、きちんと設計すれば大きな効果が得られる手法とはいえ、ファシリテーターが持つ影響力の大きさやそれに伴う責任について、考えさせられる一幕でした。

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途中、中野民夫先生による体操の時間も。座学で凝り固まったからだをほぐしていきました。

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その後も組織開発は不遇の時代を送ります。「人間の可能性」の解放を目的とする人間性回復運動が興隆し、その中の一部がネットワークビジネスと結びついたことで、自己啓発セミナーのような怪しい実践が「組織開発」の名のもとで行われたり、その定義の曖昧さから、あらゆる活動が「組織開発」と言われてしまい、結果的に組織開発とはなんなのか、アイデンティティ・クライシスに陥ってしまったり...。

そんな組織開発が「復活」を遂げたのは2000年代のこと。ホールシステムズアプローチやアプリシエイティブ・インクワイアリーといった手法が注目を集めはじめたことで、「組織開発」という言葉に再び脚光が当たり始めています。中原先生はその背景にある要因や哲学的思想について読み解きながら、ふたたび組織開発ブームが起こったとして、「組織開発といえば売れるらしい」といった認識のもと、際限ない概念拡張がまた起これば、また組織開発は死ぬことになるかもしれない、と警鐘を鳴らしていました。

最後に、今回の講義の総括として、中原先生から改めて次の問いが投げかけられました。

Q.ワークショップ実践者としてあなたは「どうありたい」ですか?
Q.あなたが「何」を失ってしまったら、あなたのワークショップは輝きを失いますか?

ワークショップも、組織開発と同様に定義の曖昧な概念です。そして、組織開発という言葉が何にでも使われてしまった結果、何が組織開発なのかわからなくなってしまったという顛末は、ワークショップも充分にたどりうる話だと感じました。本企画"Workshp Spiritでは、ワークショップという概念の存在意義を正しく理解し、次世代を牽引する実践者の育成をミッションに掲げています。そのミッションの重要性を、組織開発の歴史を通して、より切実に感じ取れたという点において、非常に意義深い時間でした。ありがとうございました。

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次の第五回では、これまでの講義を通して得られた学びを改めて振り返り、オリジネル実践に向けて自分なりに吸収していくワークが行われました。後日レポートとして公開しますので、どうぞお楽しみに!

■9/28 『Workshop Spirit』一般公開イベント・開催決定!
9/28(土)にて行われる第六回講座が、一般公開イベント「Workshop Spirit - 次世代に継承していくワークショップのスピリットを探求する」として開催されることが決定しました!どなたでもご参加いただけますので、興味のある方はぜひ下記お申し込みページより詳細をご確認ください!

▼一般公開イベント「Workshop Spirit - 次世代に継承していくワークショップのスピリットを探求する」詳細・申し込みページ

『Workshop Spirit』の今後のスケジュール

『Workshop Spirit』講座スケジュール
・4/13「キックオフ - ワークショップスピリットへの旅立ち」
・5/19「ワークショップのスピリットを体感する(中野民夫)」
・6/15「創造性からワークショップのスピリットを探る(安斎勇樹)」
▶︎6/29「組織開発からワークショップのスピリットを探る(中原淳)」
・7/13「ワークショップのスピリットと自分」
・(ワークショップのスピリットを活かしたワークショップを公開・実施)
・9/28「ワークショップスピリットの開花-実践報告会」
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